サヤの竜
放課後、学校を出る。その足元に子猫ほどの大きさの、棘だらけの竜が纏わりついてきた。
「この甘えん坊め。棘当たんないようにしてくれるのは嬉しいんですけどね、ちょっと歩きにくいんですよ、イバラさん」
サヤが話しかけると、イバラさん、と呼ばれた小さな竜がサヤを見上げる。呼んだ? と首でも傾げそうな竜の様子に、やっぱ言葉通じてるんじゃないかな、と思うことが多々ある。
「ほら行くよ。……足乗ってく気?」
運動靴の上に乗り、鉤爪のある翼でサヤの足首に抱きついてきた。可愛いけど重い。
「無理だって。重いって」
ゆさゆさと足を振ると、竜は渋々靴からずり落ちてから小さな両翼を広げて飛び上がる。そしてサヤが鞄を掛けている左肩に陣取った。ここが定位置。
「イバラは賢いねー。お留守番できるし。ちゃんと決まった場所に乗ってくれるし。まぁ、好きに過ごしてるだけかもしれないけど」
棘だらけの小さな竜、イバラ。サヤが生まれた日にどこからともなくやってきたこの竜は、サヤが大人になるとどこかへ消えてしまうらしい。食事はしていない、と思う。とりあえず見たことは無い。
他の子の竜はふわふわの綿毛のような体だったり、ひらひらの花びらを纏っていたりする。彼らは花の竜なのだ。タンポポやサクラ、パンジー。サヤの竜はと言えば、チクチクのトゲトゲで、色は深い緑色と茶色だった。
しかし甘えん坊で表情豊かな可愛い竜だからサヤは特に気にしていない。病気というわけでもないらしいので問題無し。
夕焼け色の坂道を下る。イバラの体が夕陽に照らされて赤茶色になった。イバラはサヤの肩の上で気持ち良さそうに日向ぼっこ。
「気ままなお嬢さんですこと」
サヤは笑って、棘の無い鼻筋を人差し指で撫でた。竜に性別は無いらしいが、なんとなく我が儘お嬢様然とした雰囲気を感じるのでよくお嬢さんと呼んでいる。
「ただいまー」
家に着き、いつものように洗面台へ向かう。サヤは手洗いうがい。イバラは脇のバケツで水浴び。
「うわつめたっ!! やーりやがったなー!」
濡れた翼をばさばさとはためかせたイバラが水滴を派手に撒き散らし、腕にも顔にも食らって悲鳴を上げるのも日常茶飯事。
友達のような、姉のような、妹のような、棘だらけの小さな竜。
それが、サヤの竜なのである。