大仰なニュースだとは思った。だが自然現象は人智を容易に越える。巨大な竜巻が、道路を挟んだ向こうの平地にそびえ立っている。アラカイは無線で連絡を取りながら、後部座席にいるヒロに声を掛けた。
「準備はいいか?」
「ああ。カメラの動作確認はばっちりだ。このままいけば、中央に突っ込めるだろうな」
「そうだな。だが、…なんだか嫌な予感がする」
「どうしたんだ、リョウマ。珍しいな」
「進行速度が妙に早い気がする。急に進路を変更するかもしれないな」
無線が飛び交う中、ほとんどの車はまるで逃げるように反対車線にいるか、あるいは家に向かって一目散に走る車だけになる。家にシェルターがあるのかもしれない。あるいは、足の悪い家族を助けに向かうのかもしれない。竜巻は農地や私有地をゆうゆうと歩き回っている。まるで天から神の巨大な指が生えて、その指が地面を無邪気になぞっているようだ。その指は風を纏い、地面も何もかもを抉っていく。神は神でも悪魔の部類だと考えるのは、クリスチャンの家に生まれたからこその発想だろう。悪魔の指はどれを選ぼうかなと言わんばかりにくねくねと曲がりながら、天と繋がっている。空が覆う雲は、竜巻の味方であるかのようにこの世を薄暗くする。雷の音が聞こえる。竜巻の横に雷が鳴っている。ひょうが降って来て、車の上にかちかちと鳴っていた。唸りながら揺れながら、竜巻と併走していると段々と車両の影は見当たらなくなった。流石に危険だと判断したのだろう。遊び半分の車もいない。このご時世なのであえて動画を投稿する者もいるが、度胸試しで命を失っては元も子もない。根性や度胸ではなく生業にしているのはアラカイ達だ。今回は遊び半分の車両は見当たらないようである。それだけで安堵の息を吐いた。だが目の前の道路の向こうは、分厚い雲で覆われて天候が悪い。危険な仕事である。手汗がハンドルに染みないと言ったらうそになる。だが彼らにはクーヌスがいる。高性能アンテナやレーダーなどを積んだこの特別は車両は、若い二人の仕事を後押ししてくれるだけ強い装甲を備えている。元々装甲があったのは僥倖だった。だから買ったのだ。もちろん更に装甲を付けることはしている。竜巻の映像を買い取られた金で強化したものだ。若いから活きが良い。そんな風に貶されることもあるが、それでも生計になるのは有難い。竜巻は土も草も全てを飲み込みながら、ゆっくりと前進している。ここまでは政府の気象情報通りだ。あとはクーヌスに積まれたレーダーの情報だ。クーヌスは先ほどから沈黙している。
「どうしたクーヌス。今日はおねむかい、ベイビー」
「どうも動きが鈍いようだ。注意せよ」
慎重なクーヌスの言葉に、アラカイはもう一度竜巻を見た。追い越せるほどの速度ではない。だが天から下りる巨人の足は速い。本気を出せばあっという間に飲み込まれるほどに。油断をしたらあっという間に近付いてくるのが竜巻である。だからもう一度アラカイとヒロは竜巻を注視した。確かにこの巨大な竜巻は動きが鈍いようである。
「映像としては撮りやすいな」
「油断するなよ。あっという間に足が速くなる可能性がある」
そう話すヒロのスマートフォンにアラームが鳴る。竜巻警報である。位置情報から、危険区域にいる人間には必ずアラートが鳴るようになっているのだ。竜巻が近い証拠である。クーヌスが呟く。
「西北の方向に動き出す。そのまま進行することだろう」
「了解、ベイビー。今回も頼むぜ、相棒」
アラカイがハンドルを握ってぐっと傾ける。タイヤが道路をこすれ、きいいと鳴る。だがその音すらも、巨大な竜巻に呑まれていくようだった。唸るように地面を這う音が鳴る。不気味なまでにのんびりとして、その竜巻は歩いていた。
「避難が必要なんじゃないのか」
スミスの言葉に、父親は首を振った。
「ここまでは来ない。安心しろ」
「親父がそう言うなら、間違いないと思うけど」
何せこの家に暮らしているのは母親と父親である。スミスは竜巻に慣れ親しんでいるかといえば、そこまでだ。カンザス州であっても竜巻の被害は少ない地区であったし、隣近所で被害に遭ったという話は聞かない。基本的に安全である。そう考えていた。だから地下シェルターがあるわけでもない。だがここは古い家であったので、それは安心の証でもあった。かたかたと窓が鳴る気がして、スミスは不安げに窓の外を見やる。曇りがちなのは積乱雲が空を覆っているからだ。雷の音が聞こえ始めたら、それは合図である。
「何もないといいが…」
思わずつぶやいた言葉に、スミスの母親はふんと鼻を鳴らす。嘲笑だ。スミスは特に取り合うことなく、窓の方へと歩み寄る。そこに竜巻は見えていない。竜巻への対処法はスミスも身に着けている。学校の訓練や友人、あるいはテレビなどで見ている。だがどれも使うことなく日本に経ち、そこで大震災に見舞われたのを目の当たりにした時、打ちのめされた。想像していた治安の良く小ぎれいで、人々が賑わう大都市は見る影もなく、泣きわめく声に絶望する声、怒鳴り声が飛び交う地獄のようだった。同時に自分があまりにも幸運で、安心できる中で暮らしていることを知った。そのせいで日本の事を、そこに暮らす人間の文明をどこまでも知りたいと思った苦い経験を目に浮かべ、スミスは胸騒ぎに眉をひそめる。何か嫌な予感がした。第六感というものだ。日本に居たら、横にいたルルとイサミはその違和感に頷いてくれただろう。この二人は宝物だ。世界を探しても、スミスを完全に肯定してくれる存在はこれ以上に現れない。二人の存材を曇った窓ガラスの向こうに浮かべて、スミスはほほえんでいた。だがすぐに、窓の向こうから迫って来る轟音に気が付いて思わず両親の方を振り返った。人間の心理で、つい両親の顔を浮かべてしまうのだろう。二人も異音に気が付いたのか、怪訝な顔をして窓を見やっていた。異常だ。異常が迫っている。
風が風を切ってむせび泣く。空気が空気を吸いあげて、断末魔を上げている。竜巻とはそういうものだ。風を風を呼び、雷を纏い、全てを吸い上げて螺旋を描いて地上から天へ。その圧倒的な力を持ちながらもその力を制御できないらしく、身をよじりながら地上を悶え歩く。己にはどうしようもない巨人の進行に、人間ごときが太刀打ちできるはずもない。草木を巻き上げ、家屋を巻き上げ、まるで感じている痛みを地上にも伝播せしめんと進行する。唸り声が地上を揺らす。痛いのか辛いのか苦しいのか、恐れないのか野蛮なのか勇敢なのか。竜巻に人間の感情を当てはめるのは間違っているが、この竜巻はまるで地を這うかのようだ。アラカイはその異様さに思わず生唾を飲む。どんな竜巻映像が撮れるのだろうという高揚の反面、本能的な危機感が逃げろと告げている。この竜巻はまずい。そう思う本能が、ハンドルを思わず竜巻の進行方向から逸らせようとして右に左に曲がろうとした。落ち着け。リョウマ、落ち着け。こんな竜巻は何度だって見て来た筈じゃないか。ここで逃げ出しては、ストームチェイサーとしての名折れであろう。だがここで逃げ出したのであれば命だけはまだ助かる筈だ。だがそれでは迫力のある映像が撮れない。その不安が伝播したのだろうか、後部座席にいあるヒロも不安げな声を上げる。
「大丈夫かよ、リョウマ。なんかヤバそうだぞ」
「大丈夫! って言いたいところだが、見抜かれちまうか。流石伊達に二十年つるんでないな」
「リョウマの無鉄砲さは昔からだからな。でも何となく分かるさ。ヤバそうなのも」
「ああ。つまりはビジネスチャンスって事だけどな。このまま突っ込む。それでいいよな? ヒロ」
「俺の意見なんざ聞かないんだろ? 行こうぜ。大迫力の映像撮って帰るんだろ?」
答える代わりに後部座席にサムズアップし、リョウマはアクセルを踏み込んだ。
竜巻はゆったりとした歩みで、スミスの家にまで迫っていた。かつてないことである。スミスは咄嗟に両親の顔色を窺ったのち、シェルターの名前を口にした。だが両親は首を振る。だから逃げ込むのはバスルームだ。竜巻被害の際に取るべき行動である。父親はバスタブに妻を押し込み、自分が上になった。その際、一歩遅れて来たスミスに父親が手を伸ばした時に、家屋がまたたく間に吸い上げられる音がして、一瞬だけ判断が遅れた。スミスの恵体が、背後に来た竜巻の端に吸い込まれるように浮いた。アトラクションにあるような浮遊感の比ではない。全身がいとも簡単に浮いた。まさかと思うが、その向こうに吸い込まれるような感覚もある。まるで掃除機に吸い込まれる埃のような感覚だ。あまりにも力強い感覚は、他になにものにも例えがたい。全身が真っ暗な闇に吸い込まれていくかのようなぞっとする感覚だ。矮小な人間の力ではあまりにも太刀打ちできない自然の脅威である。このまま埃のように全身が巻き上げられて、ばらばらになって。そんな予感がする風だ。強大で膨大な風だ。人間の体がいともたやすく切り刻まれる、そんな本能的な恐怖である。父親の手は軍人を長らく続けているからこそ力強かった。だが無情にも、汗は滲む。スミスを捕らえた風はもう家屋を飲み込んで、高く高く舞い上げた後にばらばらにしていた。スミスがそこに巻き上げられたら、その無情な力にずたずたに切り裂かれるのを想像して、父親の指は皮膚に食い込むように爪も骨も突き立てる。ここで離したら、息子は死ぬ。その予感はあまりにも正確で、きっと自分の命も危ぶまれるだろう。死に物狂いだった。お互いにだ。
だがスミスは浮遊感の中で、一つの諦めのような気持ちが湧いてきた。この浮遊感で人間がなせることはあまりにも少ない。このままでは父を、あるいは父を道連れにしてしまったのならバスタブで震えている母を、いずれ殺しにしてしまうだろう。スミスは思わず手を離した。だが父親が離していなかったので、必死に掴む父の握力を感じる。いいんだとスミスは小さく首を振る。この手を離せば。そう考えているうちにずるりと手が抜けて、スミスは宙に舞い上がった。
「ルー!」
必死に叫ぶ声が風の合間に聞こえた。絶叫、慟哭。どれもが形容しがたい胸が張り割けるような声で。
それからは視界はめちゃくちゃだった。常に体は自分の意思を無視してひっきりなしに回転している。その視野の隙間に、木材や車、雷が光るのが見える。そのどれもが自分に突き刺さる可能性があり、そのどれもが凶器である。だが自由の効かない体で避けようもない。だから運命はスミスの手の中にはない。すべてが運である。スミスは叫んでいたかもしれないが、その声も全て飲み込まれてしまって、自分の鼓膜を震わせない。ぐるぐる回る視界の中で、視界がだんだんと覚束なくなってくる。激しい嘔吐感がするはずなのに、今は何も喉にせり上がって来ない。嘔吐感とは、平坦な安全な場所だから起きるのではないかと暢気に思った。まるで夢の中のように、あり得ないことが起きている。いつ何時にがれきが突き刺さるのか雷に打たれるのか、このままでは回る視野の中で攪拌されてしまう。このぐるぐるとした地獄の中で、人ならざる世界に足を踏み入れてしまったかのようだ。スミスの視界が薄れながら、視界の隅に白い車が見えた。離れた場所である。だが手が届かない場所だ。それでも、クーヌスに救いを求めて、まるで泳ぐように手足をばたばたと動かした。泳ぐかのような動きである。非力な動きである。だがスミスの体は自然と前へと進み、気が付いたら車の扉に飛びついていた。開くはずがない。地面に踏ん張り、扉を開けると言う簡単な行為が、今竜巻に巻き込まれている体では出来ない。だがクーヌスの扉は、ノブに手を引っ掛けたところで運転席は簡単に開いた。風がまるでスミスの後押しをするかのように車の中に押し込まれた。車内である。だがガラス窓は破られていて安全ではない。助手席にまで体を滑り込ませるものの、幸いにもガラス破片が散らばっていなかった。すべて竜巻に吸い込まれていったのかもしれない。だが開いた窓から木材が飛び込んできてもおかしくはない。スミスは無我夢中だった。いつの間にか横たわった上半身にはシートベルトを巻き付け、下半身にもシートベルトを巻き付ける。足も押さえつけ、ようやくシートに身体を埋めたとき、そこにぬくもりを感じた。先程の回転地獄の中からようやく人間の体が保たれたおかげだろうか、嘔吐感が戻って来た。だが座席に吐きそうになったところで、車があり得ない動きをしながら竜巻の縁を回っていく。緩やかだが回転しながら、まるで見えない道を滑るように走って行く。
「ふふふ」
クーヌスの声が聞こえた。高らかな女の声だ。
「ははははは。素晴らしい。素晴らしいぞ」
「なに、が…ッ」
「この竜巻であれば私の願いを叶えてくれる」
凄まじい音を立ててクーヌスの後部座席に木材がめり込んだ。どこかの家の柱だろう。スミスの家の物かもしれない。クーヌスは続ける。
「ずっとだ。ずっと待ちわびていた。死を。あのハカセ達にもたらされた死を、生のリビドーの向こうにあるタナトス。弾ける快感の向こうの死を…」
クーヌスの艶めかしい声音が高らかに紡ぐ内容は、死を待ち望むかのようなうっとりとした内容だ。スミスはその声音を聞きながらうすら寒いものを感じた。このあまりにも禍々しい、いや禍々しいというよりも強大な力を持っている自然現象において、この偉大過ぎる力の前でいとも簡単に潰される? 死を? クーヌスはそれを望んでいるというのだろうか。
「さあ来い。私にもたらす死を、快感の果てにある死を…」
「………嫌だ」
「はい?」
クーヌスが不思議そうに答える。スミスは振り絞るような声を次々と零れ落とした。
「死にたくない。俺はまだ…死にたくない!」
思い返されるのは、日本にいるイサミとルルの顔だ。それに加えて何故か頭の中を占めるのは、生家で共に育った家族の顔が次々と浮かんだ。走馬灯というものかもしれない。そうだ。人生は続いている、今日まで続いている。そして明日も、明後日も続いていくものだと信じていた。それが今無情にも破られるかもしれない!
「まだやる事があるんだ! まだ! …まだ!」
言葉にはならないが、ルルの事が浮かんだ。二歳で出会い三歳で引き取った娘の生育の様子がまるで映画のフィルムのように浮かんでいく。可愛らしい娘だ。血は繋がっていないが、震災のがれきの山の中で、スミスの裾を掴んでいるルルの顔が、次第にふっくらとし、笑顔を見せ、今は反抗期なのか少々口答えをするようにもなって何かと心配事が尽きない娘である。イサミと共に養育してきた九年間は、スミスの理想的な家族像だった。家には明るい笑い声が充ちて、家族は愛し合って、そして。その思いが、「まだ」にみっしりと詰まっている。
「死ねない!」
「………はは」
クーヌスが小さく笑った。何がおかしいのかと思うが、スミスは顔を上げられない。窓を突き破るように破片が舞って飛んで来た。咄嗟に顔を守るように腕で覆った。だから顔を表には出せない。ガラス片だろうか木片だろうか、ずきずきとした痛みが腕いっぱいに広がる。
「俺は、まだ! 死ねないんだぁぁああ!」
「ははははは。いいぞ、いいぞルイス・スミス。そのリビドー、熱いパトス。その熱が私に伝わり、私の奥はさらに」
がしゃんと何かが車に追突した音。
「いいだろう、気が変わった。だが黄泉への旅は一人だと思うていたが、とんだ道連れが生まれたものだ。それが私が目を付けたルイス・スミス。そなただとはな…」
何かが車体に衝突する音がひっきりなしに聞こえる。雷の音も。スミスは改めて死が近い事を肌に感じる。どうしようもないが、支えが出来た事でよりまざまざと恐怖を感じる。怖くなって必死に体を丸めた。どうあろうとも、この車と共に生きなければならない。そしてあとは運を頼る以外にはない。クーヌスはどうやら腹をくくったのかしきりに笑い、その女の声が響きながらスミスは一心不乱に祈る事しか出来なかった。先程と状況は好転していない。車はか弱い鉄の装甲をまとっただけで、竜巻の脅威を生き抜くにはあまりにも儚い。だから祈った。神を深く信仰したことは無かったが、こんな時にも祈った。何かには分からないが、祈った。鉄の体に食い込む強大な音、そのたびに車はぐるぐると回転するからだ。次の瞬間に車ごと潰れてしまうのではないかという恐怖がスミスをひっきりなしに襲った。ああ神様。どうかどうか。そう願って目をつぶる。この竜巻の唸りながら進むのは誰にも止められなかった。
クーヌスの視点である。竜巻に突入する手前で、ブレーキがかかった。アラカイはハンドルを胸元に打つ。
「おいおい、相棒! どうしたベイビー、クーヌス! このまま」
「あれはいかん」
「へ?」
「あれはダメだ」
クーヌスがそう呟くと同時に、後部座席にいたヒロが突然外に放り出された。うわ、という声を聞いて思わずアラカイが振り返ると、座席が突然跳ねるようにして横に吹っ飛んでいく。と同時に扉が開き、アラカイは車の横に放り出されていた。草木が少ない地面である。砂でひじをすりむき、痛みに呻きながらアラカイはクーヌスを振り返った。既に二人を飛び出させた車は扉を閉め、二人を確認するように止まっていたがすぐに動き出す。
「おい。おいクーヌス待て! 待ってくれ!」
「あれはお前達の手には負えぬ。逃げるがいい」
「おい待ってくれ。お前はどうするんだ!」
「私はあれに期待している。あれが私に死をもたらすものだと」
「クーヌス、お前が死にたがってるのは分かっている。だけどな、お前だけが向かっても」
「案ずるな」
それ以上は会話のしようもなかった。
「楽しかったぞ、リョウマ、ヒロ」
「クーヌス、クーヌス待て! 待ってくれ」
「自宅のシェルターに逃げ込むがいい。そこならば安全だ」
それだけ言い残して車は竜巻に向かってアクセルを全開してしまった。人の足に追い付きようもない。それからはクーヌスが竜巻に単身突っ込んでいき、スミスと合流したのが奇跡だったような物だ。後でスミスが記憶しているのは、いっそう激しい衝突音。ごろごろとどこかに転がる音。それ以降は目を開けるのがはばかられて、ただただ耐えていた。そこからはやけに静かになり、スミスの意識は泥のように溶けていった。
「今年もひどい被害だな」
「おーい、誰かいないか!」
「生きてるか!? 助けに来たぞ!」
「あの見慣れない車も見ておこう。おおかたストームチェイサーだろうな」
「おーい、誰かいないか」
ぴくっと動いた手が、スミスの目を開かせた。人の声がする。
「動いてる。動いてるぞ」
「おい! 生きてる! おいしっかりしろ、助けに来たぞ!」
「もう大丈夫だ。もう大丈夫だからな。しっかり意識を保つんだ」
「早く担架を!」
「よく頑張ったな、よく耐えた。頑張ったな!」
浴びるような励ましの中で、しびれる指先をなんとか動かそうとした。だがもぞもぞと体が僅かに揺れるだけで、凝り固まったスミスの手はなかなか動くことは無かった