「今日の私は機嫌が悪いです」
腰に手を当てて軽やかに宣言してみた。読書を中断して顔を上げた彼は私を見て、「そうか」とだけ一言口にした。
「え?それだけ?」
「反応に困る」
「や、まあ、それもそうなんだけど」
でも何だか面白くなかったので、ぽすりと無言で彼の隣に腰を下ろした。自分の彼女がそんな風に言っていたらもう少し、何かしら、言ってくれないものか。ダル絡みをしている自覚は大いにあるけれど。
「……何故、君の機嫌は良くない?」
ため息が聞こえた後に彼の口から放たれたそんな言葉。待ってましたとばかりに横を向く。
「えへ、聞きたい?」
「もう既に機嫌は治ったように見受けられるが」
「だめ、聞いて」
「分かった」
「……えっと、んー、と」
「………」
「……まさかとは思うが理由すらそんな風に一瞬で忘れるのか」と明らかに呆れた視線を向けられている。うぐ、だっだってさ。
「……あー、分かった、アルハイゼンが私の変化に全く気付いてくれないから」
「ほう?」
「彼氏なんだったら普通気付くよね」
「それは君が機嫌を損ねても納得がいくよ」
改めて私の頭の先から足元までじっくりと見下ろしたアルハイゼンに、まずい、なんて思う。意外とノリノリかも。お察しの通り、私はいつもと全く変わっていない。そもそも家に居るのにメイクなんてしないので変えるポイントがあるのかすらちょっと怪しい。
「………」
ほら、アルハイゼンも表情に疑念を浮かべている。ますます私が何を言いたいのか分からなくなったに違いない。
「……俺は君の恋人である資格をたった今失ったらしいな」
「そっ……そうだね。っもうアルハイゼンったら」
「もう少し近くで見させてくれないか」
まずいまずいまずい、彼の顔が思いっきり近寄ってくる。ちょっと真剣に私の全身の変化点を探し始めたらしいアルハイゼンに耐えられなくなって、私は。
「ごめん。何も変わってない、嘘」
「………良かった」
「えっと、彼女が機嫌の悪さを自己申告してきたら、どんな反応してくれるかなって思っただけ」
「だろうな」
「気付いてたのね」
やっぱり気が付かれてはいたらしい、流石と言うべきか。単に私が分かりやすかっただけか。
「……俺は今、大層機嫌が悪い」
「え?」
「君が今朝、寝坊をして、俺の予定を全て呆気なく崩してくれたからだ」
「うぐ……すみません……ほんとに……」
あまりにも最もなお怒りだった。そう、今日、私はアルハイゼンとのランチの予定をすっかりパーにしてしまったから。
「ああ、俺の機嫌は治った」
「え?なんで?」
「君の可愛い顔が見れた」
ちゅ、なんて軽やかなリップ音。……そんなので機嫌治るなんて、単純だね。