伝えたい言葉は口から溢れてきている。その出所である胸が生み出す言葉はどこから来るのだろうと、深く掘るほどにその穴は深くなっていく。そこに埋まっている言葉は、尽きることなくどこまでも続いてゆくのだと思い知る。イサミ。その言葉が呼び水となり、私の言葉はどこまでも彼に向けて地球を貫通するのだ。君だ。そう君なんだ。他の誰でもない君に対しての物だ。君だけの物だ。これは、ブレイバーンとしての言葉だ。ルイス・スミスとしての言葉じゃない。君の横にいるだけのちっぽけな存在の言葉じゃない。ブレイバーンの機体に触れた手から伝わる体温は、センサーが36度と検知している。だがこちらに伝わってくるのは機械的な数字だけじゃない。イサミ・アオの生命維持が行われている確かな証拠だ。嬉しくなる。それだけで鼓膜を破りそうなほどに声が腹の奥から出てくるのだ。だが今は彼を驚かせたくない。きわめてブレイバーンは静かに呟いた。
「イサミ」
「なんだよブレイバーン」
彼の添えられた手は足に。控えめに触れるその手は確かな絆を私と、イサミの間に産んでいる。それがブレイバーンにはたまらなく嬉しい。
「どうだろう。手に乗ってみては」
「お前の手にか」
「景色が変わる。気分転換になるだろう」
「……」
思案するイサミは暫しの沈黙の後、ブレイバーンを見上げて頷いた。ブレイバーンははやる気持ちを抑え、静かに手を彼の前に下ろす。そこに、イサミの足が静かに乗った。土足を気にしたのか躊躇うようなしぐさを見せる。
「そのままでいい」
「汚れるぞ」
「大丈夫だ」
その押し問答のあと、やはり脱ぐのもおかしいからと思ったのか彼はブーツのまま手のひらを踏む。ぐんぐんと上昇する視界。先程までに近くにいたのに遠ざかってゆく人々。空母の大きさは変わらないが、ここから甲板が見える。イサミが手の上で周囲を見渡している。何度も乗せているのに見慣れぬ光景であるかのようにイサミは目を見開いて注視している。そのきらきらとした目に、いつも見惚れる。だがブレイバーンはその瞳を嗅ぐように覗き込みはしない。ただ目に焼き付けるだけだ。
「イサミ」
「ああ。どうした」
「美しい景色だな」
「…そうだな」
見慣れた空母や基地であるが、夕焼けはいつも同じ物に見えて微妙に揺らいでいる。一つとて同じ日常は無いのだ。この美しさに、人間であったころには気が付かなかった。ブレイバーンだからこそ気が付いた光景だ。この風景を守りたいと願う気持ちは、人間である頃と変わらない。
「ブレイバーン」
「どうしたイサミ」
「離れるなよ」
イサミは何気なく呟いた言葉である。ブレイバーンは深く頷いた。