怒鳴り返す気力もなく、ワンはベッドに身を横たえた。どっと疲れた気がする。しかし……どこか心地いい疲れだった。
ベッド脇のテーブルに置いてあった睡眠薬を適当に口に放り込んで飲み下す。眠気はすぐにやってきた。
眠りに落ちる前の曖昧な意識でワンは考える。疲労感に「心地いい」という感覚を覚えるなど、いつぶりのことだろうか。
ワンにとって疲労感は常に肉体を限界まで酷使してやってくるものか、あるいは死の一歩手前にあるものだった。数時間連続で戦闘をこなし、半壊した機体でなんとかねぐらにしてた廃工場にたどり着き、ろくな食事も取らずにベッドに倒れ込む。周囲の木々が燃える焦げ臭い匂いが立ち込める中、骨折した片腕を引きずりながら朦朧とした意識をなんとか繋ぎ止めようとする。
そして――もうひとつ。
ルイリーの部屋をあとにするとき、ワンは自分の体重が2倍にも3倍にもなったかのような重く深い疲労感に襲われることがあった。
いつまでこうしていられるのだろう。
自分では決して立ち上がることができないルイリーの寝顔に、炎に照らされた両親の死に顔が重なったことは一度や二度ではない。
この生活の中で、ルイリーはいつまで生きながらえることができるのだろうか。そもそも――ルイリーは幸福なのだろうか。このまま生きていて、幸福なのだろうか。
ワンの中には常にルイリーの存在があった。ルイリーの存在が、影を落としていた。その影を意識するたび、ワンに粘つくような疲労感がのしかかっていた。
しかし――この凍項電子開発公司から押し付けられた機体のサポートAIの小憎たらしい態度にわめき返しているうちは、それを忘れることができた。
もし、とワンはまどろみの中に沈み込みながら思った。
もし、ルイリーがあの事故に合わなかったら。
もし、ルイリーが元気な姿のままだったら。
こんなふうに、普通の兄妹のようにケンカをするような日常を送れていたのだろうか。
その思いに応える声は、ない。