1週間限定の作品よりも2週間限定の作品のほうが油断が生じるので危険な気がします。
というわけで今日見てきたのは、2週間限定上映だったのでまあまだ大丈夫かとか思ってたらいつの間にか上映最終日になっていたこの作品。
「WAR!!」での主演のひとりであるタイガー・シュロフ氏が主演を務める本作は、インド映画ではけっこう珍しい気がする直球のスーパーヒーローもの。超人的人物や英雄が登場する作品はたくさんありましたが、いわゆる「ヒーローモノ」に分類される作品は珍しいのでは。
シク教徒の武術師範を務めるアマンは、高所恐怖症の気弱な青年。彼の住む街で産業廃棄物を流出している巨大企業の社長マルホートラの配下であるラーカがシク教徒の崇める神木を切り倒そうとするのを止めるために戦うアマンですが歯が立たず負けてしまいます。しかしその時、神木の力がアマンに宿り、彼は超人的な力を身に着けます。
アマンはかーちゃんお手製のコスチュームに身を包み、「フライング・ジャット」を名乗ってヒーロー活動を始めるのですが……。
今まで見てきたインド映画はコメディ要素を盛り込みつつもシリアスなものが多かったですが、本作はこかなり多めにコメディ要素を盛り込んでいて笑えました。
まず主人公であるアマンはスーパーヒーローになっても高所恐怖症なので飛ぶときもキャッチフレーズ通りの低空飛行。「低空飛行」ってそんな直球の意味だったんかい。
そしてアマンのかーちゃんとにーちゃんがとてもいいキャラしてて好き。かーちゃんはまさに「肝っ玉母ちゃん」を体現したかのような強くて優しい人物で、地上げに来た黒服を一歩も引かずにひっぱたいて追い返すつよつよかーちゃん。ですがスーパーヒーローになったとは言え息子をナイフでブッ刺すのはさすがにやりすぎだよかーちゃん。
その一方で、これまたキャッチフレーズの通りにアマンこと「フライング・ジャット」のコスチュームをあれこれ考えてお手製のものを作り上げるかーちゃんの姿に涙。というかかーちゃんのセンスすごいな。レイヤーの人が見たら「ぜひコス作ってください!」とか思いそう。
にーちゃんのほうも弟であるアマンとキャッキャしてるのがとても微笑ましい。いたずら心でフライング・ジャットのコスを着て外出してひどい目に遭ったりとこれまたコメディ要素を担当してくれています。
本作は2016年公開の作品なんですが、コメディのノリが全体的に「ポリスアカデミー」とかジャッキー・チェン映画とかあそこらへんのノリなので素直に笑えますしご家族でも楽しめることでしょう。
しかし、やはりというかなんというかスーパーヒーローの宿命として、フライング・ジャットとなったアマンには兄を失うという悲劇が訪れます。インド映画という背景を考えると、この悲劇は(いわゆるアメコミ的な)「スーパーヒーローの宿命」というよりはむしろ、「人間が英雄になるための通過儀礼」だったような気がします。
この悲劇のあとのアマンの顔が明らかにそれまでとは異なるんですよね。初めてアマンを演じるタイガー・シュロフ氏を見たのは「WAR!!」のときでしたが、本作はそれより前の作品でtwitter情報によればタイガー氏は当時25歳。
「WAR!!」のときにはまさに歴戦の軍人といった雰囲気とキャラクターでしたが、本作のアマンは肉体こそ鍛えているものの精神的にはまだ未熟な青年。中盤くらいまではまだそうした幼さが見える表情をしているんですが、後半は明らかに違った表情になっていると感じました。
いわゆる「スーパーヒーローモノ」の作品の要素のひとつとして「成長物語」があると思うんですが、本作はまさにアマンの成長物語だったと思います。「大いなる力には大いなる責任が伴う」というスパイダーマンにおける名言……というかスーパーヒーローの背負う宿命にもれず、アマンもまたただ単に力を無邪気に振るうのではなく、その力を民のために、ひいては世界のために用いるという自覚に目覚めるまでが本作の物語だったと言えるでしょう。
……と同時に、本作には「主人公であるアマン、ひいてはその物語を見ている我々の視野を広げる」という側面があったと思います。
力を得たアマンはヒーローとしての小さな人助けから始まり、銀行強盗の制圧、母の持つ土地を買い上げ親睦を切り倒そうとする大企業との対立、そして最終的には世界を破滅から守るというようにだんだん戦いの規模を大きくしていきます。この流れと同時に、アマンと視聴者は彼らを取り巻く社会環境を次第に広い視野を持って見ていくことになります。
有害物質を工場から垂れ流す大企業と対立しつつも平和な日常を送っているアマン。ではその大企業を潰せば万事解決かと言うとそうでもない。アマンによって街のゴミを自宅の敷地に捨てられたマルホートラは、民衆を前に「このゴミを出したのは誰だ! お前たちだ!」と反論します。この段階でアマンが対するべきは一人の悪役などではなく社会が抱える問題そのものであることがわかるわけです。しかも、公害の力を吸収し、さらなる害を求めるラーカの暴走によってマルホ―トラは一人娘をガンに侵されてしまう。
そして最終的に、地球に満ちた害を無限に吸収してパワーアップし続けるラーカを倒すべく、アマンはラーカとともに宇宙に脱出します。しかし、地球を離れた宇宙でさえも、そこにはすでに人間の手が入り、デブリの散乱といった害がはびこっている。
本作のキャッチフレーズは「低空飛行のスーパーヒーロー」ですが、この「低空飛行」は文字通りの意味のほかに「視点の高さ」を意識したものだと感じました。力を手に入れたばかりのアマンは文字通りの低空飛行しかしていないため、高く広い視点を持ちません。しかし、彼はスーパーヒーローとして活動していく中で、次第に視点を高くすることで自分の周囲の状態から社会全体が抱える問題に気づいていく。そして最終的にアマンは民衆の祈りと願いに押し上げられて「最も高い視点」=「神の視点」である宇宙にまで到達し、はじめてこの世界を俯瞰し世界を識るわけです。
そして彼は、最終決戦時においてそれまで頑なに着用することを避けていた父の形見の青いターバンを身につけます。ここではじめてアマンは本物のスーパーヒーロー、本物のシク教徒、そして悪を滅ぼし民を救う神の化身(アヴァタール)として顕現する! 最終決戦仕様ですよ! 全宇宙の男の子が好きなやつ!!
といった感じで、本作は良質なコメディ、ヒーローのアクションに加えて社会問題や宗教的背景も自然に盛り込んだ良作だったと思います。あと個人的な嗜好なんですがヒロインがメガネっ娘でとてもいい。