「おら、寝てろ」
潤んだ瞳のまま共演者と話していたから、ついつい首根っこを掴んで家まで連れてきてしまった。それまできりりと引き締まっていたはずの横顔は、いつの間にか緩んで溶けだしていた。ふらふらと危なっかしい足取りをする二階堂をそのまま寮に送り届けるのがなぜか不安で、三人の住処へと連れ帰ってきていた。
揺れる視線は家に着いてからより一層ひどくなっていて、ひとまず自身の寝間着を着せてベッドへと押し込んだのがさっきのことだった。誘拐よろしく家へと連れてきてしまっていたため、念のために以前作成したグループチャットに二階堂を保護したとメッセージを入れれば、既読がいくつかつく。どうやら、まだ寮には誰もいないらしい。家に連れてきてよかったと安堵していると、視線を感じる。
「二階堂?」
「……」
猫のように無言でこちらを見つめる二階堂の顔は平時よりも熱を含んでいるからか、同い年のはずなのに幼くて庇護欲をそそる。和泉兄からのメッセージで、喉が弱いと言われていたから、喉が痛むのだろうか。
「何か飲むか?」
「…………」
うごかない二階堂は意識があるのかわからなくて、そっと手を頬に添えると、気持ちよさそうに目を閉じる。意識があることは確認できたが、声を出せないのか出さないのかは見ただけではわからない。だけど、すりすりと手に頬ずりする二階堂はかわいらしく、常のつんとした様を知っているだけに愛おしさが募る。
「熱いな……。何か飲むか?」
ふるりと微かに揺れた首は、恐らくNoのつもりなのだろう。初めての意思らしい意思表示に、少しだけ安堵する。掌に頬が触れるたび、二階堂の熱の高さが伝わってくる。これだけの熱を発したままあれほど真に迫った演技をしていたというのだから、恐れ入る。何か食べさせたり、飲ませたりした方がいいのはわかるが、残念なことに自身は健康優良児である。こういったことは天や龍の方が向いている。せめて水だけでも持ってきてやるかと腰を持ち上げようとすると、何かが引っかかって、立ち上がれない。何か引っかかるようなものがあっただろうか、と振り返れば、二階堂の手が服を掴んでいた。
「二階堂?」
「……いくな」
掠れた声は喉の痛みを何より雄弁に伝えてくる。やはり、これまで黙っていたのは喉が痛かったからなのだろう。そう思うほど、二階堂の声は痛々しい。
「すぐ帰ってくる。何か飲んだ方が楽になるだろ?」
「いくな」
明確に力を込めた腕と声は、すぐに熱に負けて力を失う。潤んでいた瞳が、一つの瞬きで零れ落ちる。綺麗だな、なんて感心しながら、その雫がこれ以上溺れ落ちないように親指で掬って止める。
「どこにも行かない。だから、そんなに泣くな」
「泣いてねぇし……」
「そうかよ」
泣いてないといいながら、ぼたぼたと雫が落ちていく。涙を誤魔化すように手を伸ばすから、静かに両手を掴む。
「擦るな」
「泣いてねぇって」
「わかったから、ほら」
近くのティッシュを顔に当ててやると、そのまま鼻をかむ。赤くなった頬と鼻が愛おしい。
早くよくなれよ、の代わりに頭を撫でてやると、小さく鼻を鳴らす。反抗の仕方までかわいいと思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。
終!!!!!