昨日に引き続き映画の日。映画好きには毎日が映画の日。そしてサンサン劇場に関わってしまったからには人生すべてがサンサン劇場の上映スケジュールに支配されてしまうのです。
 というわけで今日見てきたのはみんな大好き創造神ラージャマウリ監督の2007年の作品「ヤマドンガ」!
 本作は上映期間が2週間だったのでまだ時間的には余裕があったんですが、シアター4で見られるのは今日までということだったのでどうせなら最高の音響で楽しみたいということで行ってきました。
 結論から言うとこの選択は完全に正しかった。
 さて本作のタイトルである「ヤマドンガ」、「ヤマ」はいわゆる閻魔大王、「ドンガ」は泥棒という意味。泥棒を生業とする主人公・ラジャは仕事の途中、成り行きで悪漢からお割れている女性・マヒを助けます。ラジャは後からその女性が富豪の孫娘であり、その財産を狙う親族から虐げられて生活していることを知ります。ラジャはマヒの財産目当てに彼女に近づきますが失敗。思わず閻魔大王に悪態をついてしまいます。それを知った閻魔大王はラジャを死なせて冥界に連れてきます。しかしラジャは持ち前の悪知恵と話術で、新しい閻魔大王に成り代わろうとするのですが――。
 「バーフバリ」や「RRR」が笑えるシーンも散りばめつつシリアスな作風だったのに対し、本作は大幅にコメディよりになっています。しかもその笑いのツボが「ポリスアカデミー」とかあそこらへんの感じなのでノスタルジーを感じました。
 2007年の作品ということなので、ところどころショボさを感じるところはありますし、上記のような笑いのツボがやや古さを感じる人もいるでしょう。しかし、そうしたところはあくまで些細なこと。
 というか思うんですが、ラージャマウリ監督作品って根本的に上手いんですよね。エンタメが上手い。
 CGがすごい、映像表現がすごい映画は確かに見てるとすごいと感じます。しかし、ラージャマウリ監督作品の上手さはもっともっと根本的かつ原始的で、いわば「面白いものをものすごく面白く見せる」作品だと言えます。
 ラーメンに例えるなら、前述の映像表現がすごい、CGがすごいといった点はトッピングです。対してラージャマウリ監督作品はメンとスープが根本的に美味い。伝わってますかねこの例え。演出面ひとつとっても、単に映像表現がすごいのではなくアイデアと見せ方が上手いんですよ。
 例えば冒頭でラジャとチンピラのリーダーが追いかけっこをするシーン。あそこで背景のテレビにそれぞれ追う側であるチーターと負われる側であるガゼルを映し出し、それを追う側であるラジャと負われる側のチンピラにオーバーラップさせるという演出、あれ見たときかっこよすぎて上手すぎて変な笑いが出てきました。
 ほかにも、虐げられて生活しているマヒが曇った窓にせめてもの救いを求めて小さなペガサスの絵を描くと、窓の向こうから光が差して壁に巨大なペガサスの姿が浮かび上がるとか、ただ単に「豪華な映像」ではない素晴らしいアイデアに基づく演出で、わたくしハートを鷲掴みされた挙げ句ゴッドハンドスマッシュされました。
 その演出力(えんしゅつぢから)が最高潮に達するのがラストシーンです。これ、どうしても我慢できなくて先にtwitter(頑なにXとは呼ばない)で言ってしまったんですが、絵面だけを説明すると「瀕死の敵の放った銃弾が重要アイテムに当たって主人公の命が助かる」というベッタベタかつコッテコテのお約束シーンなんですが、そんなシーンがラージャマウリ監督の手にかかればどうなるか。
 本作の重要なキーアイテムとして、幼少期のラジャがマヒを助けたときに彼女から送られたメダルがあります。ラジャはこれをさっそく質屋に持っていきますが安値しかつかず、メダルは捨てられてしまいます。しかしこのメダルは捨てても捨てても12年間に渡ってラジャのもとに戻ってきます。
 そして最終的に、そのメダルは上記の通りラストシーンにも登場、瀕死状態のラジャに放たれた凶弾を弾くのです。と、凡百な作品ならここで終わるはず。
 しかしラージャマウリ監督はここで終わりません。ここで銃弾が当たったメダルが開き、中に入っていたナラシンハ神の絵があらわとなり、銃弾と同じくラジャの命を狙って飛んできたヤマの放った死の縄を退ける!
 いやほんと、このシーンほんと神がかってた。間一髪のピンチを逃れるのとそれまでの伏線回収をあんな演出で行うとは。こういう演出の妙は決して映像技術だけでは実現できないエンターテイメント。わたくし人形使いは「バーフバリ」からさまざまなインド映画を見てきましたが、こういう「宗教的な理屈や信心とエンターテイメントが融合したシーンのカタルシス」はインド映画特有の映画体験だと思います。
 特にインド映画は、因果やカルマ、輪廻転生といった「宗教的ルール」がエンターテイメントの中、ひいてはインド人の認識そのものに深く根付いているのが好き。
 そして言及しておかなくてはいけないのがナンダムーリ・ターラカ・ラーマ・ラオ・ジュニアことNTR。Jrことタラク氏ですよ。
 わたくし人形使いはタラク氏は「RRR」のビーム役ではじめて知ったんですが、「RRR」のときとはまた違った顔、また違ったかっこよさを見せてくれました。
 本作は上記の通りコメディ部分が多い作品なんですが、そんな中でのタラク氏の軽妙な語り口は非常に魅力的でシンプルに見てて楽しい。悪知恵を働かせて閻魔大王の座を奪おうとするラジャと、それを阻止しようとする閻魔大王のやり取りはほとんど落語みたいな完成度です。
 そしてもちろんダンスシーンも必見。本作では3時間近い上映時間の中で何回もさまざまなダンスシーンが披露されますが、もうそのどれもがタラク氏の魅力を限界まで引っ張り出しててカッコイイの洪水がスクリーンから溢れ出て観客席を直撃します。若干空気感やファッションが古いのがまた逆説的にカッコイイんですよね。
 特に閻魔大王を前にしたダンスバトルでタラク氏の祖父であり、インド映画史上最も偉大な俳優とされているナンダムーリ・ターラカ・ラーマ・ラオが登場するシーンはもはやカッコイイを通り越しして神々しい。氏が太陽神たるスーリヤ像を介して登場すると言うだけで氏がインドでどういう存在かわかるというもの。
 そしてもうひとつ印象的だったのが、作中でのバイオレンスの度合い。前述の通り本作はコメディ色が強いので、格闘シーンなんかも過度にバイオレンスには描かれていません。例えばジャッキー・チェン映画では多数の激しい格闘シーンがありますが、あれを「激しい格闘シーン」としては感じても「バイオレンス」として感じる人はあまりいないでしょう。
 本作の格闘シーンもそんな感じで、血生臭さを感じるようなものではありません。しかし、終盤におけるラストバトルではコミカルさは完全に抜け、格闘シーンは重く痛々しいバイオレンスなものに方向性がガラッと変わっていたのが印象的でした。
 いやー面白かったヤマドンガ。特に前述のメダルが銃弾を弾くシーン最高にアガりました。インド映画沼にハマってよかった……。
 とか安心している暇はありません。一連のテルグ語映画の傑作を上映する「熱風!南インド映画の世界」イベントはまだまだ続きます。次は「プシュパ覚醒」でまた会おう!
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