我々コリエルメンバーにとってのかねてよりの悲願であった「創造維持神の御言葉(ダァバール)を得る」という目的。
 我々はその目的を達成するための手段として、かつてこの教団で行われ禁術としてデータベースの奥底に封印されていた「ダァバール融合」という手段を発見したものの、その適合者を見つけられないでいた。日々重なる融合実験の失敗に、我々は徐々に、澱のような諦観に塗りつぶされようとしていた。
 しかし、その日コリエル1号からもたらされた報によって、我々の諦観は完全といっていいほど払拭された。
 あのH型二重体の双生児。創造維持神の波動との極めて高い親和性から幼くして12号・13号のコリエル・メンバーとしての位階を授けられたあの双子のうち、コリエル1号が兄の方である13号を創造維持神のもとに連れて行ったという。
 かねてより創造維持神との高い適合性を示していた双子だが、まだあまりにも幼すぎるという理由で創造維持神への直接的な接触は保留されており、その判断はコリエル1号のみが行うこととなっていた。
 そしてコリエル1号が、13号を初めて教団の最下層、創造維持神が安置されている「聖域(サンクチュアリ)」に13号を連れて行ったときの彼の反応を知った我々は、熱狂した。
 1号の口から語られた創造維持神と13号との接触時の体験は、今まで我々がどれほど望んでも得られなかった、創造維持神の内面を知る大きな手がかりとなった。
 諦観の代わりにもたらされた熱狂は、瞬く間に、熱病のように我々コリエル・メンバーのあいだに広まっていった。
(次のパート続き)
 そして、その元となる遺伝子データは、コリエル13号のものが使用されていた。外界ならいざしらず、この教団内、ひいては我々コリエルの悲願である神の言葉を得るためなら、もはや通常の倫理など問題とされないところまで来ていた。外界の倫理になど縛られていては、そもそも神に触れることなどできはしないのだ。
(別パートの続き)
 そして、ダァバール融合実験の最大の要であり難所とも言える、適合者の選別について。これに関しても、我々は創造維持神と13号との接触時に得られた情報から一定の方向性を得ることに成功していた。
 創造維持神と13号の接触以降、我々は13号のメンタルへの負担を最大限に考慮しつつカウンセリングを繰り返した。今や我々にとって、13号の口からもたらされる情報はダァバール融合実験の成否を左右する極めて重要なものだった。
 まだ幼い13号の口からもたらされる言葉や情報は、決して明確なものではなかった。しかし、それらの言葉は我々にとっては託宣そのものだった。幼い言葉で紡がれるその託宣を読み取ることで、我々は今まで足踏みを続けていたダァバール融合実験を大きく推し進めることに成功したといっていい。
 中でも、特に我々が注目したのは、13号の口にした「神様も引き裂かれていた」という言葉だった。
 我々は今まで、ダァバール融合実験の被験者は、志願者に任せていた。そしてそのどれもが失敗に終わり、被験者は自我喪失、発狂、精神崩壊といった末路を辿った。我々はそれまで、ダァバール融合実験の適合者の条件すらわからないまま、ひたすら被験体の屍を積み上げていたのだ。
<続き>
 しかし、今は違う。ダァバール融合実験の被験者、その適合条件を我々は仮定することに成功したのだ。そしてその方向性は正しいと私、コリエル2号は確信している。
 創造維持神と13号の接触から得られた、我々が想定するダァバール融合実験の適合条件。
 それは、「対象喪失体験を有すること」だった。
 13号から得られた「神様も引き裂かれていた」という言葉。
 この言葉をどうやって解釈するかをめぐり、我々は議論を重ねた。結果、この言葉は、H型二重体として弟である12号と結合した状態で生まれてきた彼が、恒常的・潜在的に抱いている対象喪失……つまり、将来的にありえるかも知れない弟との分離・死別、つまり対象喪失に対する不安や恐怖が鏡像として反映されたものだと我々は解釈したのだ。
 であれば、必然的にダァバール融合実験の適合条件は見えてくる。
 家族や親しい友人、恋人との別離、死別。
 築き上げてきた財産や立場、社会的地位の喪失。
 突然の事故や病気による、それまでの平和な日常からの断絶と転落。
 引き裂かれた神とはすなわち、引き裂かれた自己にほかならない。
 そうした対象喪失体験を抱える人物こそ、ダァバール融合実験の適合者であると我々は仮定した。
 そして――ダァバール融合実験の適合者は、我々が自身の手で探すまでもなかった。自らこの教団へと足を運んでくる。まるで、蜘蛛の糸にすがりつく罪人のように。
 「聖域(サンクチュアリ)」に設置された実験設備。そこには待機所が増設されている。そこでは、ダァバール融合実験に適合すると判断された民間人が、自分の番を待っているのだ。
 適合者は探すまでもなかった。この時代、この世界に、自身にとって致命的ななにかを失ってしまった人間など珍しくはない。
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初公開日: 2023年07月31日
最終更新日: 2023年07月31日
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