居心地悪そうに肩を縮こまらせながら周囲に視線を巡らせるリンウェルのただならない様子には気付いていた。ただ、リンウェルの頭上を飛んでいるフルルは警戒心を顕にしていないし、もしこちらに身の危険が及ぶようであれば敏いリンウェルはそれ相応の手段をもって伝えてくれるはず。
ので、テュオハリムはおとなしく様子を窺うことにした。手に持つ紙袋を抱え直し、肘より上あたりに見えるリンウェルのつむじを再び見下ろす。真横に並んで歩いているために表情はよく見えないが、しらばくして「やっぱり」と小さく呟く声がたしかに聞こえた。
「やっぱり、とは?」
「っうぇ!?」
き、聞こえてたの!? と、弾かれたようにこちらを見上げてきて、大きな瞳を見開いて訊ねてくる声に「ああ」と普段通りを装って応えを返す。
「ええと……べつに、そのお……気にしなくて良い、よ?」
あは、と誤魔化すように笑いかけて首を傾げる仕草はたいへん愛らしいものだったが、絆されるわけにはいかない。気になって仕方がないとまではいかなくとも、傍らでそわそわとされるのは、こちらもとて落ち着かない心地になる。
「ずいぶんと周りを気にしているようだが」
「あー……そりゃあ、テュオハリムには気づかれるよね」
「ごめんね」と眉尻を下げて謝罪するリンウェルに、今度はこちらが首を傾げる番だった。
「なぜ謝る?」
「だって、気分の良いものではなかったでしょ? 私ばっかりおどおどしちゃっててさ」
テュオハリムは肯定せずに「さてな」と言うにとどめる。リンウェルの挙動不審ぶりに心当たりもなく、さりとてこちらに非がありそうなわけでもなく。
いったいその心は、という気持ちを込めてリンウェルを見下ろすと、彼女は気まずげに笑みを浮かべた。かりかりと頬を掻いている。
「シスロデンとかメナンシアの地区とかならそれほどでもないんだけど……」
あとレネギスも、と付け加えられた地域に「ふむ」と顎を引く。リンウェルが上げ連ねた地名は、テュオハリムやリンウェルにとって馴染み深いところばかりだった。それがどう関係してくるのかとリンウェルの言葉の続きを待っていると、彼女は複雑そうな表情を浮かべたままやはり周囲を見渡した。そのまま耳打ちするように背伸びをしてくるので、テュオハリムもあわせて屈む。
「テュオハリム、目を引くでしょ? 隣に私が並んでいると、どんな関係なんだって不審がられるというか」
「ほう」
耳元でこっそり告げられた言葉にテュオハリムが目を瞬くと、リンウェルは眉根を寄せた。
「顔つきがそもそも違うから兄妹とか、血縁者には見えないみたいだし、たぶん外見からは恋人には見えないみたいだし。服装の傾向も違うから友だちにも見えないみたいで……」
まあそうだろうな、とテュオハリムはひそかに頷く。そもそも、リンウェルから指摘される以前から耳に届いていた囁き声だった。その声を聞き届けてなお、あえて気にしてはいなかった。
「そもそもテュオハリムが目立つから……」
「それを言うなら、リンウェルもそこそこ目立っているように思うがね」
「え、私も!?」
驚きに声を上げたリンウェルに対して、周りを行き交う人からなんだなんだと視線が向けられる。そしてそのまま取りなすように居住まいを正すまでの様子を眺めながら、落ち着いたところで口を開いた。
「まず、フルルだ。レネギスでもそうだが、ダナでもフクロウを連れている人間はそう多くはいるまい」
「まあ、それはそうだけど……」
「次にその服装だ。魔法使いの装束と言っていたが、その大きな帽子部分は後ろからでもよく目立つ」
「そ、それもそうかも」
私もかあ、といささか不満げな声を漏らしてリンウェルはわずかに肩を落とした。
「潔く諦めたまえ。それに、周りには好きに言わせておけば良いだろう?」
「そうなんだけど……やっぱり気になっちゃうんだよね」
リンウェルは「気にしない気にしない」と自分の頬を叩いている。暗示めいたその行動に意味はあるのかと疑問に思ったところで、ふと閃くことがあった。
「リンウェルはどのような関係に見られたいのだ?」
「え、それは気にしたことなかったけど……自然に見えれば良いのかなって」
「うむ。それならいっそ、わかりやすい関係を装えば良いのでは、と思い立ってね」
「と、言うと?」と不思議そうに見上げてくるリンウェルの華奢な腰を抱き寄せて、耳元に囁く。ここまですれば、どういう関係か勘繰られることはないだろうが。
「私としては、恋人という関係もやぶさかではないが?」
周囲がざわりと色めき立った。──まあ、目立つだろうことは容易に想像できていた。
ちらりとリンウェルの顔を窺うと、顔を真っ赤に染め上げて口元をわなわなと震わせていた。
「テュ、テュ……!」
「うむ」
「テュオハリムーッ!!」