【淡い夢】
 夢を見ていた、それは本当に浅くて淡い、つつけば覚めてしまうようなあっけない夢だった。
 俺は遊園地にいた。劇団の仲間たちと。
 どうやらジェットコースターに乗っていたようなのだが、あろうことか俺は風が頬を撫ぜるスピード感や落下感から来る恐怖ではなく、あり得ない、意識が朦朧とするほどの激しい眠気と戦っていたのだ。
 俺は前からニ列目の席に座っていた。
 最前列には、まだ学生あがりで若々しいメンバーの、根津と竹虎が座り、きゃーきゃー黄色い悲鳴を上げながらこのスリルを満喫している。
 眠気が視界をジャックする。景色が霞む。
 後ろの席、三列目ではうちの劇団「クー・デ・グラ」の重鎮にして双璧とも言える牛山と猪原が、男を上げるとでも言うべきか我慢比べをしているようだった。先に音を上げたほうが死ぬほどダサいというわけだ。
 眠気が聴覚を遮断する。風の音が聞こえない。
 俺の横の席で泡を吹いているのは、俺と一緒にこの劇団を立ち上げた未谷。可哀想に、こういう乗り物は大嫌いなはずなのだが、俺の白昼夢などという不条理なイベントに付き合わされてひどい目にあっている。
 眠気が嗅覚に異常をもたらす。ジェットコースターのエンジンオイルがアロマのように芳しく香る。
 最後尾に座っているヤツの顔が見えた。演出担当の鳥居だ。今にも消え入りそうな儚い佇まいで、ヤツもやはりこのジェットコースターのスピードに怯えているようだ。
 眠気が意識を撹乱する。ああ、早く終わってくれ。
 何が?
 いや、そもそも。
 これは本当に眠気なのか?
 俺は、何に騙されている?
 答えてくれるヤツはいない、だから何もわからない。
 だから眠ろう。
 風を切るジェットコースターはトンネルを通過する。
 暗闇が俺の睡魔を助長し、夢は、幻は次のフェーズへ進む。
 安息をくれ。
 五感が鬱陶しいんだ。
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