DQⅡのトリオ(ローレシア、サマルトリア、ムーンブルク)のSSです。
恋愛要素とかエログロ無しの全年齢。ゲーム内容のネタバレ・捏造した時系列や設定があります。
人物紹介
アルクド→ローレシアの王子。身長が190近くある。趣味は魔物を狩ること
シトロン→サマルトリアの王子。最近はやぶさの剣を手に入れて調子に乗っている。温かいミルクティーが好き
ダリア→ムーンブルクの王女。愛らしい容姿に反してちょっと脳筋。いのりのゆびわを壊しがち
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破毒のまじない
ローレシアの王子——アルクドの朝は早い。
今日の分の薪と薬草を集めがてら、ウドラーやオークやらの寄ってくる魔物を倒し、集まったお金や素材を袋に入れて整理し、簡単な朝食を済ませたくらいに朝日が上ってくる。
一人旅の時から習慣は変わらず、あけぼのの光は季節によって色味は変わるものの、いつもまぶしく澄んでいる。
「きみさー眠くないの?昨日寝るの最後だったよね」
「慣れてるから」
シトロンがあくびをしながらめんどくさそうに盾を肘に通す背後から、きっちりと身支度を整えたダリアが顔を出す。
「せっかく宿屋に泊まったんだから、柔らかいおふとん堪能した方が得よ」
「そうかもな」
「一番寝心地いいのは自分の部屋のベッドじゃない?この旅終わったらゆっくり寝たいよ〜」
「犬でいた時は藁床で寝るのが暖かくて最高だったわね…あれ、どこ行くの?アルクド」
「くびかりぞくの鳴き声が聞こえた。ちょっと行ってくる」
「え??朝ごはんは?」
「もう食べた。二人はゆっくりしててくれ」
「あっちの森まで行くの!?遠くない?」
「出発する段になったら呼んでくれればいい。聞こえるから」
「わかった。気をつけてね」
「行ってらー…朝からよくやるなぁ……」
その後ろ姿を目で追うでもなく、シトロンはボケーッと頬杖をついている。
「冷めるわよ?」
「うん」
半熟の目玉焼きが乗ったクロックムッシュを頬張りながら、ダリアは少し目を細めた。
「ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう」
「もしかして、あなた体弱いの?」
眠たげに伏していた緑の瞳がいつもの明るさを取り戻して、くるりとこちらを向く。「なんで?元気だよ」
「昨夜寝る前、何か飲んでたでしょう。常備薬とかなのかと思って」
「ああ、あれか。別に隠してたわけじゃないんだけど…言うほどのもんでもないし」
「?」
シトロンが口を開きかけたその時、ダリアはほのかな魔物の血の匂いを嗅ぎ取った。
「あら、おかえり」
振り返ると、アルクドが遠慮がちに立っている。
「悪い。話の邪魔をするつもりはなかった」
「なんだ、普通に入ってきてくれてよかったのに。怪我ない?」
返事の代わりに、大きな手のひらを何度かぐーぱーと開いてみせる。返り血は見えないが、匂いがつくほどということは相当の数の群れをぶん殴ってきたのだろう。
「それで、続きは」
「なにが?」
「さっきの話だ。何を飲んでた?」
「そうだった、忘れるとこだったわ」
シトロンはポケットから何かを取り出そうとしたが、いいこと思いついた、とでも言いたげにニヤリと笑ってみせた。
「今日の予定は一日中魔物討伐だったよね。明日の竜王の城突撃に備えて」
「? そうよ?」
「たまには単独行動で競争ってのはどう?君たちのどっちかが、僕より多く倒せたら教えてあげるよ」
いつもほとんど角度が変わらないアルクドの眉が、ぴくりと上に動いた。ダリアはふふっと微笑む。
「ずいぶん新しい剣に味をしめてるようね。私のイオナズンが文字通り火を噴くわよ?」
「僕だってベギラマ覚えてるからね!なかなかいい勝負になると思うよ」
「……俺は構わないが」アルクドはダリアにキメラのつばさを数枚手渡す。
「無茶はするなよ、二人とも」
「分かってるわ。心配してくれるなんてさすがの余裕ね」
「大丈夫だって。証拠の戦利品ないやつはノーカンだからね、そこんとこよろしくー」
しだいに静けさが広がっていく夕暮れの街。三人は酒場にいた。
自分以外の二人の無事に安堵しつつ、戦利品を並べて数えていく。
最後まで両手が空かなかったのはアルクドだった。
「ダリアには勝てると思ったのにな〜」
「失礼しちゃうわ。こんくらい余裕よ」
「……二人とも無事で良かった。俺みたいになっていたらどうしようかと」
「え?もしかして死にかけたとか??」
「甘い息で寝た。一時間くらい」
「なるほどねー、私もマヒしちゃって少し焦った。満月草なかったら撤退してたわね」
「二人ともそれあったのにそんなに狩れたの?すごいなー!僕もまよけのすず落としちゃって探し回ったりとかはあったけど」
「原因それじゃない?」
あちこち歩き回って戦いまくった後のご飯は特別おいしい。なんだかんだ話しているうちに夕食は終わり、真っ暗になった夜道を宿屋まで歩いて、各部屋前の廊下で別れた。
扉が閉まる寸前。ダリアが慌てて顔を出す。
「忘れてた!!ちょっと!」
「おっと、なんか忘れもの?」
「どうした」
「薬のことまだ聞いてなかった!明日朝早いでしょ、今教えてよ」
「そうだったな」
「そういえばすっかり忘れてたね。これはねー」
シトロンはポケットから何かを取り出した。暗くてよく見えない。
「一言で言っちゃうと、毒だよ。薄めて飲むのさ」
「…?」
かすかに首をかしげるアルクドとは裏腹に、ダリアは「あぁ、そうだったの」とさして疑問に思う様子もなくうなずいた。三人の中で一番夜目と鼻が利く彼女には、その小さな影が何か分かったらしい。
「分量間違えないでよ、それじゃおやすみなさい」
「もちろん。おやすみ〜」
「おやすみ…」
一人になってふとんにくるまると、眠気がさざなみのように身体中を包んでいく。短い微睡みの中で、アルクドは脳に引っかかった疑問を少し持て余していた。
なぜ毒を飲むのだろう……???
二人には当たり前のことなのだろうか。
「アルクドが朝ごはん食べてるところ、考えてみたら初めて見るかも」
「そうか?」
シトロンが目覚めると、珍しくアルクドはまだ朝食を済ませていなかった。ダリアは昨日かなり消耗したのかまだ起きてくる気配がない。
「シトロン、頼みがある」
「えー何!?改まって…パン半分欲しいとか?いいよ全然」
「違う」
アルクドは少し迷ったように頭に手をやり、眉をほんの少し下げて訊ねた。
「昨日の、もう一回見せてくれないか」
薬を気にしているのはダリアだけだと思っていた。意外に感じながら、パンを飲み込むのに忙しかったので、無言でポケットの中を探って彼の前に置いた。
小さなびんの中の、全体的に暗い紫色をした粉。
逆光でいつもより暗く見える。さまざまな色をした粒々がところどころ混じっている。
「毒の粉……」
「そうだよ。水がないとむせる」
眉をしかめると、ちょっと険しく見えがちな顔がいっそう怖く見える。もう慣れたけど。
「どうして飲むんだ?」
「え?普通に…毒で死ぬのを防ぐためさ。ローレシアではそういうのないの?」
「ない。……と思う。少なくとも俺は知らないな」
「そうだったのか。そりゃびっくりしたよね」
ミルクティーの湯気の向こうで、シトロンはちょっと苦笑した。
「ムーンブルクには古いおまじないというか、儀式として伝わってるらしいけどね」
——ご先祖さまがどうやって死んだかは知ってるかい?
ほのぼのと爽やかな朝の風が、テラスにそっと吹いてくる。シトロンの声音はいつも通りのんびりとしているのに、アルクドはなぜか無意識に、テーブルの下で両手を拳に握りしめて話の続きを待った。
「…寿命?」
「歴史学者いわく、誰かに暗殺されてしまったらしいんだ。彼の杯には毒が濃く塗られていた」
小びんをポケットにしまい、その手でおいしそうに朝ごはんを食べ始める。
「そうならないために、あらかじめ弱い毒に日頃から慣れて耐性をつけなさいってわけ。僕はもう十三年?くらい続けさせられてる」
「具合悪くならないのか、それ」
「今のところなんともない。ちゃんと専門の人が調合してるし、体質もあるのかな……ま、こんなもの効果があるかも分からないけどね」
眉をしかめたままアルクドは腕組みをした。そういえば、シトロンが毒で苦しそうにしているところはあまり見たことがない気がする。
「アルクドはこんなのなくても大丈夫だよ」
「毒にはたまにやられるけどな」
シトロンは少し不思議に思っていた。どうしてこの男はこんなに心配そうなのだろう。怖いものなど何もないように見えるのに。
「僕がすぐキアリーかけてあげるからさ。ダリアもいるし」
翳っていたアルクドの紺色の瞳が、ふいに陽の光を受けて蒼く透けて見えた。夜空ではなく朝焼けを迎える直前の空のような、冴えたグレイッシュブルーは数秒のうちにまた沈んでいく。
「……そうか」
ほんの少し嬉しそうに頬が緩む。
「そうよ。私たちが気絶してたら苦しいだろうけど、そうそう死なないでしょう」
よほど話に集中していたのか、背後からの声に驚いてアルクドの肩が跳ねた。それに構わずダリアは席につく。
「おはよう二人とも。私の分まだあるわよね?」
「食べちゃった」
「悪いな。取ってくる」
「分かればよろしい。それにしても、ずいぶん呑気なお話してたのね」
「ありがとーアルクド!…んーそうかな?」
「今日行く竜王の城では何があるか分からないのよ?緊張とかないの」
「二人がいればなんとかなるかな〜って。ボスがいるとも限らないし」
「やっぱりドラゴンどもの親玉じゃないかしら。噂では竜王の子孫だとか」
「倒さない代わりに何かくれたりしないかなぁ」
戻ってきたアルクドが、パンや果物の入ったかごを片手でそっと置く。
「……魔物相手に言葉が通じるわけないだろう」
「マジレスやめてよー」
「いえ、ちょっと待って。魔物に犬の鳴き声が通じるなら、もしかすると私いけるかもしれない」
「通じないよ!」
「試してみる価値はあるな」
「ないよ!!えっこれ僕が少数派なの?」
いつもより長引いた朝食のあと、磨いた武器を手にして街を発った。
竜王の城の門前に到着したのは昼過ぎ。
中に入っていく三人の背中を暖めるように、しらじらとした日差しが降り注ぐ。
アルクドはいつになく気が抜けていて、ビリビリする青いバリア床を歩いても言われるまで気づかなかったりした。
ここまで油断した彼を見るのは初めてで、二人は(今日なんかあったっけ…?)と考えてみたがなんの答えも出なかった。直接聞いてみると「そんなに油断してたか?」と本人も気づいていないようだ。
中でボスが待ち構えているであろう最奥の大きな扉が、気づくと目の前に迫っていた。
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破毒のまじない
初公開日: 2023年01月20日
最終更新日: 2022年12月31日
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