わたしは、いのちをつないでいる。
過去に類を見ないほど怯えて目を覚ました。夢を見ていたのだとはっきりとわかった。
濡れたような、じわじわと広がる不安感と鼓動。震える手で冷たいお茶を注ぐ。一気にあおって、それから深く息を吸った。
生きている
生きている、生きている、生きている。
あまりにも、あまりにも鮮明な夢を反芻する。
はじめは、たぶんノミだったと思う。
わたしはひどく小さな存在だった。だけど、自在に飛び跳ねることができた。
たまたま足元にあったはずの地面が、ふれた先で湧き立つようなにおいが、妙においしそうに感じた。これは本能なのだろうか。口をそっと付けた地面は、やわらかくて、あたたかかった。先端を滑り込ませる。うまい。うまいうまいうまい。
しばし食事に耽っていると、大地はゆっくりと動いた。体が傾く、ゆれる、ゆれる。おちる。
おちる。
膨れた体は赤く透けていたと思う。こんな風に客観的に、それでありながら主観で感情を伴うような不思議な体験をすることなんて、現実的じゃない。
やはり夢だったのだと今にして思うけれど、ノミだったかどうか定かではない。蚊だったのかもしれないが、飛び跳ねたのだからきっとノミだ。
おちた先で、わたしはなんともない体に感謝した。同時に夢と認識していながら、自分が矮小な存在に成り果てた事実に絶望した。こんな小さく、汚い、生きる価値があるかわからない虫けらになってどうしろというのだ。
そのようなことを考えてひとりで憤慨していたら、急に視界が暗転した。
気づけば、わたしはもう一回りほど大きな存在に姿を変えていた。いや、だからといってなんだというのだ。この夢を見ているはずのわたしは、この主観はおそらく人間だ。もうすこしばかり、高度な生命体になりたいものだ。
きっと虫けらから畜生くらいには進化したのだろう。わたしは気づくと暗闇の中にいた。そして翼があった。暗闇なのにどこに何があるかわかる。よく音が聞こえる。きっと蝙蝠だ。そうに違いないと勝手にひとりで納得した。
先ほどまでわたしであったであろう存在が、地に臥した死骸の上にあると気づく。なんだやはりノミじゃあないか。しかし死んだ動物から吸血するものかね。
瞼の裏に先ほどまでの光景を思い浮かべる。思い浮かべようとした。いや思い浮かべようとしただけなのだ。それなのに急に不安が生まれた。そんなはずないだろう、先ほどまであの生物だったなんて。わたしは生まれて今の今まできっとこの姿だった。きっとこの生き物だった。きっとそうだ。そうに違いない。
でなければ、人間だ。人間だったはずだ。しかし今は違うのだから、きっとこれは夢だ。そう夢の中での話だ。そうじゃなきゃ気がくるってしまう。
ノミ。
ちいさな。
虫けら。
そのような矮小な存在が、このような知的活動を思索するはずもないだろう。
最後に見た光景が脳裏をよぎった。おやどうやらあの虫けらは死んでいるらしい。死ぬ間際の記憶がある。馬鹿なわたしは虫けらじゃない。あのノミが、わたしが、そんな。
真っ赤な世界だった。
彼女は最後にこう口にした。
あかい、あかい、あかい。いやだ。いやだ、いやだ。
そう口にした彼女は、心臓をあかくそめて、見るも無残に破裂した。
血を吸いすぎたのだろう。死んだ生物の肉が固まって、きっと吸血する部位が抜けなくなったのだろう。まるで蚊を仕留めるときのやり方みたいだ。ぼんやりとそんなことを考える。
また引き戻された。この体は蝙蝠らしい。うん、たぶんそうだ。
蝙蝠のような存在のわたしは、もういちどだけ前世の虫けらを見た。いや聴いた。いや感じた。とにかくよくわからないが、その存在へ注意を払った。
虫けらは絶命していた。腹は破れていた。無残にも臓物をぶちまけて、ただ液体となった赤を周囲にさらしていた。
ぞっとした。蝙蝠という存在がどのような生態かあまり詳しくない。つまりわたしのイメージに沿ってこの体は具象化しているようなものだろう。当然だがノミの生態にも詳しくない、蚊と誤って覚えているような有様だ。それは先ほどの破裂体験で重々と感じていた。
詳しくないといっても羽があること。牙があること。音を聞いて反応できること。血を吸うこと。哺乳類の一種であること。それくらいのアウトラインは知っている。合っているか定かではないが知っている。さて問題は吸血しすぎたところでどうなるか、死ぬのか途中でやめることができるのか。
彼女は言った。
かえして、と言った。
彼女がだれかよくわからない。いや知っている。おぼえていないだけで。
ぞっと。
ぞっとした。
記憶の中に残っている感情は恐怖だ。それは畜生に存在しないであろう恐れの感情だった。
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いやはや、一発書きでやるの難しい……
せめてもう少し話を練ってから始めたらよかったのかもしんないw
そしてテキストライブだと執筆するべきなのか、なんかおしゃべりすればいいのか判断に苦しむ……これがどんな風に見えているか、よくわかんないしね……アーカイブで確認してみよっかな。
中途半端ですが、ちょっとここらで終了。
この話は気が向いたらしっかりまとめて短編にしよう。