もはやなにも言うまい。
・横光利一没後七五年・川端康成没後五〇年東方新感覚派合同「今、再び」(出藍文庫)
日本文学の色濃い独特な小説作品を書かれているサークルさんの合同誌。
「東方ノベレッテ」という架空の文学雑誌の形態をとった表紙が面白い。
収録されている全9作品は、それぞれ横光・川端作品をモチーフとしたもの。わたくし恥ずかしながらその中で読んだことがあるのは川端の「眠れる美女」のみでしたが、幸い手元に文学全集があるので未読のものは読んでみようかな。
表紙は阿求ですが、特に阿求縛りというわけではない様子。しかし収録されている作品の大半に阿求が登場しているあたり、阿求とこうしたコンセプトは親和性が高いなあと思いました。
それでは収録作品ごとに感想を。
・焼場(植物図鑑氏)
妹紅の名前は直接出ているのに対し阿求の名前が直接出てないのには、阿求はすでに役目を終えたという描写なんでしょうかね。
炎を扱う妹紅にとって「誰かを焼く」という行為は非常に特別な意味があると感じました。
・Ewig Wiederkehren(こうず氏)
これまでの御阿礼の子の遺した書状を読む文の様子を「その文字の一つ一つと、涙ぐんだ文の視線が、幾度も幾度も接吻をした」と書きあらわすこの一文の美しさよ……。
文の阿求に向ける恋慕と支配欲が入り混じった感情が好き。
・青春は瞼の裏に(ひととせ氏)
秘封倶楽部の二次創作においては「別れ」は数多く取り上げられるテーマですが、本作の二人の別れはまた美しい。残された蓮子がかつての青春を回想するシーンがたまらなく哀しい。
・天然景色(豆腐屋氏)
古明地こいしというキャラクターは、いざ書こうと思うとその内面を表現するのが難しいと思うんですが、本作では「絵を描かせる」という方法でその問題をクリアしていると感じました。
あとこいしちゃんの間延びした口調が好き。
・霧の湖(久我暁氏)
非常に珍しい、というか初めて見た気がする大妖精×ルナサというカップリング。
ですます調の地の文が大ちゃんのキャラに合っています。
・嘲われた子(真紅香奈氏)
東方二次創作における古典的テーマの一つと言える魔理沙の過去話。
幼少期の魔理沙の無力感や未熟さが印象的なのに加えて、彼女の両親の内面についてもさりげなく踏み込んでいるのがよかったです。
・梅が香にむかしをとへば(七雲結人氏)
いずれ失われることがわかっている友人を想う小鈴の話。
じわじわと衰弱していく阿求の描写が実に痛々しい。
「残り香」という言葉がありますが、いずれ遠くに行ってしまう阿求との絆として、色も形もなくともすればたやすく消えてしまう「香り」を選ぶというのがなんとも示唆的。
・本居小鈴の日記(涼名氏)
回想に使われるアイテムとしては日記はオーソドックスなものですが、こと阿求と小鈴となると特別な意味を持ちます。
日付を追っていくごとに弱っていく阿求の姿はもちろんのこと、小鈴がこの日記を読んでいる今、すでに阿求は失われているというのが……。
・水仙の花束(近藤貴弥)
記憶が混濁し始めた阿求にとって、目の前にいる妹紅がいつの妹紅かわからなくなるというのは衝撃でした。
淡々とした地の文から浮かび上がる永遠の命を持つ妹紅と永遠の記憶を持つ阿求のこのズレがあまりにも悲しくて好き。
今日はここまで。