その話を耳にしたのはまったくの偶然だった。屋敷の使用人たちが話しているのを立ち聞きしたのだ。お父様がこれまでのコレクションのほとんどを手放し、あるいは処分するという。その話を聞いたときに、わたしは全身から汗が吹き出してくるのを感じた。喉がカラカラになり、頭の中に自分の心臓の音がうるさいくらいに鳴り響く。
今、この瞬間にも少年はあの檻から連れ出され、わたしの知らない遠いどこかへ連れて行かれてしまっているかもしれない。だけど、わたしが自由に行動できるのは、自分の部屋に帰る夜だけだ。
それから夜になるまで、わたしは自分がどうやって過ごしていたかよく覚えていないし、わたしの様子がおかしいのに気づいた人もいなかった。一度廊下でお父様とすれ違ったけれど、お父様はわたしの顔を見ることもしなかった。
幸いというべきか、だからわたしは、いつものように夜の礼拝堂に忍び込むことができた。いつもは咎められているような気になる聖母像の視線も、今夜は気にならなかった。気にしている余裕なんてなかった。
いつものようにランタンを掲げて地下道を進む。もう通い慣れたはずの道が、奇妙に長く感じるのは焦りからだろうか。気を抜けば、このままこの地下道が無限に続くという妄想に取り憑かれそうになる。
蜘蛛の巣のようにしつこく張り付いてくる不安を何度も拭いながら、わたしはようやく少年の入れられた檻がある部屋にたどり着いた。
一瞬、最悪の想像が頭の中をよぎる。この扉を開いたらどこにも少年はいなくて、部屋の中には空の檻だけが積み上げられているのではないか。
そんな想像が深く切られた傷口から血のように吹き出しそうになるのを懸命に抑え、わたしはほこりっぽい空気を吸い込み、息を止めてドアを開けた。
少年はいた。
見慣れた顔を見て、わたしはそのまま気絶してしまいそうなほどの安堵を覚えた。でも、これで安心しているわけにはいかない。ここから少年を助け出さなくてはいけないのだ。檻の鍵が見つかればそれがいちばんよかったけれど、そんなものを探している時間なんかなかったし、置いてある可能性のあるお父様の部屋に忍び込むなんてことはできなかった。
ろくな道具を用意する時間もなかった。結局わたしが用意できたのは、食堂から持ってきたナイフやフォーク、包丁だけだった。わたしはカンテラを檻のそばに置いて、檻の格子に脆い部分がないか、扉の蝶番が壊れないか必死に試す。けれど、錠前や格子にろくに傷をつけることもできないまま、ナイフは欠け、フォークは折れてしまった。
欠けたナイフの破片が頬をかすめて血が流れているのを気にする余裕もなかった。このチャンスを逃したら、もうこの少年を助けることはできないだろう。
息切れしながら、わたしは残ったナイフを何度も檻に叩きつける。腕がしびれてきたけれど、わたしはナイフを振り上げることをやめられなかった。そうしなければ、自分のやっていることがまったくの無駄だという思いに、一瞬で飲み込まれてしまいそうだったからだ。
とうとうナイフが半ばから折れた。折れ飛んだナイフが、わたしの手に突き刺さる。それでもわたしは、折れたナイフを振り上げようとした。
その手が止まった。止められた。少年の、ごわついた毛と鋭い鉤爪を備えた手が、わたしの手を押さえていた。はっとして少年の顔を見上げる。
少年は、不安そうな、今にも泣き出しそうな顔で首を横に振った。言いたいことはわかる。でもだめだ、ここで諦めてしまったら、もう……!
わたしは少年の手を振り払って、折れたナイフを格子に叩きつける。ようやく