映画を見る人の中には「イヤ~な気分になりたいがために映画を見る」という特殊な癖(へき)を持ってる人がいるわけですよ。
 というわけで今日見てきたのはこれ!
 以前大阪ステーションシティシネマで上映されてたときに目をつけてたんですがいつの間にか上映終了してました。
 しかしさすが我らがサンサン劇場、まさかの上映決定ということで早速見てきました。いやー助かる。
 マイホームを探しているアランとマリーの夫婦。そんな夫婦が怪しいセールスマンから紹介されたの家の地下室には謎の穴が。なぜか地下室から2階につながっているその穴は、入ると12時間が経過し肉体は3日若返るという奇妙な穴でした。
 その秘密を知ったマリーは、若返るために穴への出入りを繰り返し始め……。
 いやーなんとも「世にも奇妙な物語」というかP・K・ディックというか。
 なんで地下室の穴にそんな効果があるのかはさておいて、それに振り回される人間模様が本作の見所でしょうか。
 特に、真っ先に、そして登場人物の中で唯一地下室の力を利用して破滅していくマリーの姿と末路は印象的でした。
 最初こそ穴の力については半信半疑だったマリーですが、その力が本物であると確信した途端に穴への出入りを繰り返すようになり、アランとの生活も破綻していきます。
 ここで効いてくるのが穴の力の「12時間経過して3日分若返る」という設定。一気に5年も10年も若返るわけではないので、穴への出入りを繰り返すもののマリーは客観的に見てわかるほどの変化を得られません。穴からの出口である2階に鏡をかけて、出入りするたびに鏡で自分の容姿を執拗に確認するマリーの姿は、「老いる事への妄執的な恐れ」「若さという必ず失われるものへの執着」そのものだと言えるでしょう。そして彼女が求めていた20歳の時の自分の姿を取り戻したときには、すでに手遅れになっていたという……。
 そして、若返るのはあくまで容姿、肉体だけであって精神は欠乏したままで満たされてなどいないという事実を「表面だけ新鮮で中身は腐ってアリが群がっているリンゴ」という限りなく残酷かつストレートな形で見せてくるのにおフランス流のエグさを感じました。
 しかし、このマリーの顛末を愚行と断じることができようかという話なんですよね。「若さへの執着」「若かったあのときをもう一度」「逃れられない老いへの恐れ」を抱かない人間がいるのかという……。
 対してアランは結局最後まで穴に入ることはなく、粛々と老いを受け入れていきます。一見その姿は「正解」に見えますが、老いることに抗うこともせず、破滅に向かう妻を止めることもできていない。作中を通し、アランは一貫して「状況に対して何もしていないキャラ」として描かれていると感じました。
 本作の主要な登場人物は夫アラン、妻マリーのほか、アランの友人で上司のジェラール、ジェラールの愛人であるジャンヌの4人がいます。
 前述の通り、地下室の穴の力を使うのはマリーだけなわけですが、ジェラールとジャンヌもまた人間誰しもが直面することになる「若さと老い」に関わる苦悩を体現したキャラクターと言えるでしょう。
 ジェラールは加齢による男性機能の障害を抱えており、それを補填するために電子ペニスなる代替品を大枚をはたいて手に入れます。この電子ペニスの下りは笑えるんですが笑えない。
 言うまでもないことですが、男性機能、さらに言うならペニスは当然男性の象徴、つまり「男らしさ」そのもの。ジェラールはそれを取り戻すために大枚をはたき、電子ペニスの故障に人生を振り回され、回復したのはいいものの次々と女性に手を出し、最終的には運転中に電子ペニスが発火して命を落としてしまうという最後を遂げてしまいます。まさに「男らしさに振り回されて破滅」というわけです。
 また、ジェラールについては車も典型的な「男らしさを証明する(虚飾的な)アイテム」として描写されていたのが印象的でした。修理中に車が炎上した途端に子供みたいに泣きじゃくってたり、新しい車を買った途端にイキりだしたり、最終的には浮気がバレた女性に車をぶっ壊されたり。
 ジェラールの愛人であるジャンヌは、そんなにストーリーに大きく絡んで来るキャラではないんですが、もうわかりやすく「若く美しい女性という価値」の具現化ですよね。
 以上のように、本作ではメインの登場人物が4人いますが、「人間誰もが持つ老いへの恐れと若さへの渇望」の持つ側面を4人のキャラクターに分けたものだと感じました。そも映画というものは、「本来形のないものに形を与えるもの」なんだよな。
 そして本作、終盤からラストにかけてはもうひたすら無言で老いていくアラン、虚像の美しさにすがって破滅していくマリー、形骸化した男らしさに振り回されて破滅するジェラール、いっときの若さと美しさをいずれ失われるとも知らずに堪能するジャンヌの姿を映し出して終わります。そして彼ら、彼女らは来るべき破滅に抗うことができない。
 このBGMだけが流れセリフが一切ない展開、まるで「彼らがこういう結末を迎えることはもう言うまでもないよね?」と言わんばかりで実にシニカルでした。
 
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