不変の存在である妖怪にとって、「変わる」ことはまさに自分自身が根本から作り変えられ、まったく別の存在になることに等しい。
 だからこそ私は、ときに別人かと思うほどの人間の変わりようを見ると、妖怪である自分との大きな違いを感じるのだ。
 私はそんな事を考えながら、八意先生の話に耳を傾ける。
「特にあなたの場合、自分の頭を切り離して、しかも増殖させるという能力がある。ろくろ首であるあなたにとっては、その能力は当たり前のものであると同時に……そう、正常に用いるためにはメンテナンスが欠かせないのよ。あなたが実感しているよりも、『自分を増やす』という行為は、デリケートなものなの」
「うーん……なんだかそう言われると、なんだか自分の能力を使うのが怖くなってきちゃうなあ……」
 私は人間の里で仕事をする際には正体を隠しているものの、忙しい時なんかはこっそり頭を増やして仕事をやっつけている。あんまりそういうことはしないほうがいいんだろうか……。
 そんな考えが顔に出ていたのか、八意先生はくすりと笑って付け足した。
「そんなに心配する必要はないわ。あなたの能力は生まれ持ってのものだし、何より私がこうして半年に1回のカウンセリングをしてるんだから。よほどおかしなことをしない限り大丈夫よ」
 そんな感じでカウンセリングを終えて診察室を出た私を、影狼が出迎えてくれた。
「ばんきちゃんおつかれさま。異常はなかった?」
「そんな大げさな。ちょっとお話しただけよ。それに、別についてこなくたってよかったのに」
 私がそう言うと、影狼はわざとらしくよよよと泣き崩れてみせる。
「ひどい、ひどいわばんきちゃん! 草の根ネットワークの仲間を心配する心を無下にするなんて! お母さんあなたをそんな子に育てた覚えはないわよ!」
「あーはいはいわかったから行くよ。わかさぎ姫待たせてるんだから」
 そんなふうにバカ言いながら、私と影狼はわかさぎ姫の住処である湖の畔を目指す。
 季節はすっかり夏だ。ついこないだまで寒い寒い言ってたような気がするのに、時間の流れはあっという間だ。
 あっという間と言えば……眩しい太陽に手をかざしながら、私はほんの1年くらい前に体験した、不思議な出来事を思い出していた。
 そう、私の周りの妖怪たちが、次々に大切な思い出を失っていくという事件に端を発する、夢の中の大冒険。
 不思議な夢の世界で、私はもうひとりの……夢の中の自分と出会った。
 それからなんやかんやで一連の事件は解決。個人的にいちばん恐れていた博麗の巫女の介入もなく、夢の中のあの不思議な世界はまだ残っているようだ。
 夢の世界にいる、もうひとりの私。
 診察室で聞いた、八意先生の言葉を、私は思い出した。
 『自分を増やす』という行為は、デリケートなものなの。
 たしかに、人間でも妖怪でも、自分というものはこの世にひとりしかいないものだ。もし自分が何人もいたとしたら、とんでもないことになるだろう。
 しかし、私は実際に、夢の中でもう一人の自分と出会っている。もう一人の自分は、私と同じ姿で、私と同じ声で、私と同じ能力を持っていて……それでも、私ではなかった。私とは異なる、特有の人格を持っていた。
「ねえ、ふたりとも」
「なあにばんきちゃん。珍しく難しい顔して」
 湖の畔から顔を出したわかさぎ姫が、いつものおっとりとした調子で返事を返す。
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紅楼夢原稿を書いていきます。
初公開日: 2022年09月12日
最終更新日: 2022年09月13日
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