お試しも兼ねて頭に浮かんだものをざかざかと
軽くグロいのも死ネタとかもあるので苦手な人は回れ右で
*触れてとろけて悪夢にさよなら(多少のグロ描写、死描写有り)
気が付くと、椅子か何かに座っていた。まるで身体が縄か何かで縛り付けられた様に動かず、出来るのは首を回して周りを見る事だけ。どうやら僕は狭い部屋のような所にいるらしかった。窓が無いからか裸電球のか細い光だけがこの部屋を照らしている。正面に目を向けると人がいた。僕と向かい合わせになるように座っている人。俯いていて顔はわからない。明らかに僕と違うのは、隣にサイドテーブルの様なものがあること。
やがてその人は立ち上がり、下に向けていた顔を上げる。ようやく明らかになった顔に、僕は思わず目を見開いた。あの電脳世界で共に戦っている、大切な少女。僕があの世界に辿り着くまでにも他の世界線で何度も出会った少女が、目の前にいる。その目はいつもより暗く、その顔も石のように口角ひとつすら上がらない。彼女は隣のサイドテーブルに手を伸ばし、徐ろに乗っかっていた何かを拾い上げた。電球の光を浴びて黒に鈍く輝く鉄の塊──銃だ。おおよそ彼女の年齢で扱うには早いであろうそれを、少女は何の躊躇いなく弾を込めて、銃口を自らの頭に向ける。その先を察して止めようにも、椅子に縫い付けられた僕の身体はガタガタと喧しい音を立てて椅子を揺らすだけ。引き金に指を掛けた時、彼女の口が何かを伝えるようにぱくぱくと開いて閉じてを繰り返していた。
「……ッ!」
目が覚める。周りはあの暗闇ではなくて、電脳世界で自分に割り当てられた自室。時刻は朝にはまだ遠い。頬や額に走る液体が涙なのか汗なのか判別が付かず、まるで全力疾走したかのように浅い呼吸が続く。
「……大丈夫、あれは夢だ、彼女はまだ生きている……」
そう自分に言い聞かせて、深く息を吸って声にならずに口から漏れ出た空気を落ち着かせた。
僕は時々、プレイヤーが死ぬ夢を見る。いつから見たのか、何が原因なのかはわからない。どういう時に見るのかもわからない、突発的なものだ。対策すら立てれないタチの悪い悪夢だ。
所詮夢のことだから、現実の彼女は翌日になると元気そうに笑うし、他のヒーロー達に振り回されて忙しなく動いている。だから大丈夫だと自分でもわかっているけど、何度も見るもので、目の前で起きたことはそうそう頭から離れてはくれない。事実、僕は全て覚えてしまっている。
赤く紅く燃え上がる炎に身を投じる彼女を。
青と黒が混ざった海に攫われる彼女を。
高い場所から地面に吸い寄せられて叩き付けられる彼女を。
道路を横切る鉄の塊に轢き潰される彼女を。
断頭台に固定され、為す術なく首を刎ねられる彼女を。
胸の辺りに朱い花を咲かせて眠る彼女を。
その光景は僕の目の前で行われていて、止めようとしても僕は足を縫い付けられたようにその場から動くことが出来ない。ようやく自由になっても、彼女は既に息絶えている。ひんやりと温もりだけが吸われたような冷たい感触が、まるで現実にあったようにこの手に残っている。それが、たかが夢のことだなんて思えなくて怖かった。
重い足を引き摺るようにして部屋を出る。他のヒーロー達の部屋とは遠くに当てられた彼女の部屋は、まだこの時間になっても明かりが漏れている。またデルミンに怒られてしまうのによくやるな、なんて事をどこかで思いながら、戸を叩いた。
「……ん、誰?デルミン?待ってすぐ寝るから今からお説教は……」
「心配しなくていい、僕だよ」
健康にうるさいヒーローの一人である彼女ではないとわかって安心したのか、今出るよ、とこちらに向かってくる。かちゃり、ノブを捻る音の後に、少しだけだった光が暗い廊下に溢れた。開いた隙間から顔を出したプレイヤーは、どうやら夜更かしの真っ最中だったらしい。
「どうしたの?またあの悪夢でも見た?」
「……わかるのかい?」
「何度も来てたらそりゃあね。それに、零夜がこんな時間に自分から訪ねてくるなんてそれしか無いだろうし」
少し誇らしげそうな顔で笑う。最早習慣のようにもなってしまったからか、彼女も来るタイミングがわかっているようだった。
あの悪夢を見た後は、プレイヤーの部屋をこうして訪れる。起きている時もあれば既に寝ている時もあるけど、今この場で何もないと、ちゃんと生きていると確信が持てないと、僕は不安になってしまう。普段から……というより、時々陰りのある顔を見せて儚げに笑う時があるから尚更だ。
「おいで、ちょうど寝付けなかった所なんだ。せっかくなら寝れるまで喋ろ?」
そう言って僕を部屋に招き入れる。こんな夜中に男と二人きりになるなんて、とその不用心さに少し呆れたが、事実今回押し掛けて来たのは僕の方だし何も言わないことにする。時折逆なこともあるけど。
ヒーロー達が寝静まる時間帯の中で一際明るい光で満たされた彼女の部屋を見回す。ついさっきまで弄っていたであろうゲーム機や、徹夜するつもりだったのかどこかに隠していたのであろう未開封のエナジードリンク、少々女の子が使用した後とは思えない程布団が乱れているベッド。その全てが、今彼女が生きていたことを示しているようで、思わず視界が滲んだ。
「零夜、泣いてるの?」
プレイヤーにそう言われて顔に手をやる。目から浮かんだ涙が、次々と頬を伝って流れ落ちて行く。さっき起きた時とは違って、今彼女が目の前で生きていたことへの安堵と嬉しさから来たものだろう。子供みたいに泣きじゃくる僕を、彼女はふわりと抱き締める。そのまま二人で座り込んで、頭を撫でた。
「……なに、してるの」
「私がそうなった時、零夜がこうしてくれたから」
プレイヤーは普段は控えめで、あまり自分からは来ない。そんな彼女がこうして、僕を抱き締めている。触れている。それが少し嬉しくて、温かくて、僕の制御も効かずに口は勝手に言葉を紡いだ。
「夢を、見たんだ」
「どんな?」
「君が、僕の目の前で自分を撃つ夢」
「そっか」
ただそれきり言って、僕の頭を撫でて背中を優しく叩く。寝かし付けるような優しいリズムで。
「止めようとしたんだ、でも、身体が動かなくて……動けた時には、もう君が死んでて……」
「うん」
「それで、また本当に生きているか怖くなって……」
とめどなく漏らす言葉に、彼女は何も言わずただ頷いて聞いている。彼女が悪夢を見た時とはまるで逆だな。一頻り話を聞き終えたプレイヤーは、今度はそっと僕の頬を撫でる。その手はするりと目元へ動き、浮かんでいた涙を拭った。
「大丈夫だから、泣かないで」
そう笑って、ぎゅっと抱き締める。夢の中で触れた時と違って、ちゃんと生きている人間の温もり。間近に聞こえてくる鼓動は規則正しく生を刻んでいる。縋るように僕も抱き締め返した。
「今日は一緒に寝ようか。いつも私にしてるみたいにさ」
その提案に頷く。二人で転がり込んだベッドは少し狭いけど、抱き合うように寝てしまえば関係ない。
「あのね、零夜」
「……なんだい?」
「私、まだ死ぬつもりは無いよ」
少なくともここがなくなるまでは、と続けて、彼女は笑った。それが冗談のつもりなのか本意なのか、僕にはわからない。けれどもあの悪夢で弱ってしまったらしい僕の頭はその言葉だけでも安心してしまって。まだ死ぬつもりがない、それが嬉しくて安心して、落ち着いたのか瞼が段々重くなる。
「おやすみ、プレイヤー」
「うん。また明日」
二人で目を閉じて夢の中へ。きっとそうすれば、あんな悪夢なんか見ない気がした。