5460字程度(今)
なんか井田視点多くね?
青木BD
「青木、誕生日おめでとう」
「んっふふ、ありがと!」
「じゃ、乾杯」
「カンパーイ‼︎」
四月十日、深夜0時を回ったところ。そんな時間にもかかわらず、俺達は高らかに盃を交わしていた。
青木のは、何とかっていう甘そうなチューハイ。俺は、まだ未成年だからジンジャーエール。
今日は青木の二十歳の誕生日だから。「何がしたい?」と聞いたら、「酒呑んでみてぇ!」と興味深々に返されて。
もっと大人っぽくお祝いしたりとか、色々考えたりもしたけれど、青木が呑んでみたいのなら反対する理由もない。
少し豪華な食事を囲みつつ、普段通りに一日を過ごす。律儀に0時になるのを待ち、近所のコンビニで良さそうな酒を適当に見繕って、今に至る。というわけだ。
自分はまだ呑めないんだけれど、何気に青木が酔っ払ったらどうなるのかは興味がある。笑うのか、よく喋ったりするのか、あるいは、泣き上戸になったりするのか。
場合によっては、外でたくさん呑むのは控えてもらうかもしれないな。と思いながら、冷えたジンジャーエールを飲み干す。
(今日の夜は少しいい店を予約しているから、)←上と矛盾、どうするか 二日酔いとかにならなければいいんだけど。
「……どう、初飲酒の感想は」
「んー……、何ていうか……ちょっと苦いというか」
「苦い」
「なんか、ジュースの方が美味いな」
「青木はまだお子ちゃまなんだな」
「んなっ! お前の方が年下だろうが‼︎」
「まあまあ」
青木の持っている缶をじっと見つめると、何も言っていないのに「まだダメ!」と缶を取った。
「カシスオレンジ……が飲みやすいって聞いたけど。確かに少し苦いくらいで、あんまりジュースと変わんねえな」
「ふうん」
「井田が成人したら、オシャレなバーとか行ってみたいなぁ。ほら、こういう酒とかもあるみたいだぞ」
青木が『おすすめのカクテル』と検索欄に打ち込み、スマホの画面を見せてくる。
カシスオレンジ、ファジーネーブル、ジントニック、ソルティドッグ……そこには、耳慣れない言葉が羅列していた。
「青木は詳しいな」
「んー? 大学のやつに教えてもらったんだ」
ふわりと青木が笑う。少し顔が赤くなっていて、いつもよりふにゃふにゃとした喋り方になっていた。
ちょっと舌ったらずな喋り方。いつも青木は可愛らしいけれど、その良さがより際立つような。隙があるような。
……やっぱり、この顔を他のやつに見せるのは嫌だな。
「……友達に連れられて、呑みすぎたりすんなよ」
「は⁉︎ 別に酔ってねぇし」
「今の感じだと、酔ったらもっと可愛くなりそうで」
「また! 井田はなに言って……んむ」
ちゅうと音を立てて口付ける。そのまま、口内を舌の中で弄ってやれば、青木から湿った吐息が漏れた。
舌と舌が絡まり合う。普段とは違い、少し冷たくて、たしかに苦かった。
もう少し、もう少しと欲張って、何度も舌を絡ませた。
既に青木はちょっと涙目で、その潤んだ視線がまた俺をそそらせる。
「〜〜っ、ちょっ……」
「んっ、ふ」
「……は、ちょっと!」
「なに」
「ちょっと、そういうちゅーは! はええ!」
「酒って、本当に少し苦いな」
「あっ! 未成年のくせに‼︎ 酒呑んでる間はベロチュー禁止だ!」
「っはは、何言ってんだ」
「その通りだろっ!」
そう言って、青木は再びカシスオレンジの缶に口を付ける。
その唇を奪うまで、残り数秒。
ワンドロ スキンシップ
半分は少しでも二人でいたいから、でも半分は、本当に勉強しないといけないからという理由で、最近の二人のデート(?)はもっぱら家での勉強会だ。これをデートと呼べるのかは分からないけれど。早くゆっくりデートがしたい。
しかし「俺たち男同士だからなぁ……」と気にする青木と、見知った土地で堂々と手を繋いだりするのは難しいかもしれない。岡野の時みたいになっても困るしな。
ただ、恋人だから一緒にいたいだけなのに。俺たちが並んで歩いていても、傍から見ると、友達同士のようにしか見えないのだろう。それが少し悔しくて、苦しく思うこともある。
「オーイ? お前勉強してるかぁ?」
横から声をかけられてハッとする。家で二人で勉強をする時は、黙々と勉強だけをして分からないところを聞く時もあれば、勉強は半分で、ほとんど話しながら一緒に過ごすこともある。今日は前者だった。
「……や、ボーッとしてた」
「ったく、余裕だなぁ」
「んー……」
「何?」
「さっさと受験が終わって、青木と遊びたいなって思ってた」
「い、井田ぁ!」
お前ってさ……と呟いたきり、青木が口籠る。口調はイマイチはっきりしないが、その顔は真っ赤に染まっていった。大方、照れているだけなのだろう。
人の心の機微には正直疎い方だけれど、青木のことは分かるようになってきた。
この顔は照れているだけとか。怒っているように見せて、嬉しいと思っているとか。これは落ち込んでいるとか。
元々青木自身、表情が分かりやすい方ではあると思うが、それ以上に何かあるとすれば。
多分、青木のことをずっと見ているからなのだろう。俺が。
隣に一歩詰めると、青木から微かに甘い香りがした。豆太郎に嫌われたくないから、柔軟剤を変えたと言っていたが、やっぱり自分とは違う柔らかな香りが漂っている気がする。
この香りを嗅いでいると、青木に手を出したくて堪らなくなる。
俺だって一人の男子高校生だから、色々考えてることはあるんだけど。多分、青木ってそこら辺、具体的に考えてなさそうなんだよな。
花火大会の時は、不本意ながら止められてしまったし、一応外だったから留まれたが、今唇にキスしようもんなら……もうどうしてしまうか分からない。
ああ、ダメだ。考え始めると邪な思いで一杯になってしまう。
「でもさ、だからこそ、受験を無事に終えてだなぁ……」
「青木」
「ん?」
「あのさ」
いや、まだ、ダメだ。
己の欲求から何とか目を逸らす。一呼吸分、不自然な間が空いた。
「……?」
「……何か眠くなってきたから、ちょっと寝る」
煩悩を消すには、一度リセットしなくては。
「ねみーの? 井田が珍しい……調子でも悪いのか?」
「別に、体調が悪いわけじゃない、けど」
「そっちで寝んの?」
「ん?」
青木が差したのは俺のベッドの方向。そりゃ、ベッド以外でどこで寝るんだ。
「んーっと、寝るなら、ここで、寝たら」
とんとんと青木が膝を叩く。
叩いた先は膝の上。ここで、寝たら。と言う言葉の意味は……。
は? 青木の膝で?
俺が黙っていたからか、矢継ぎ早に青木が喋り始める。
「な、何かさみーし? そっち側に行っちゃったらちょっと寂しいし? いや俺の足とか硬いし、別に無理にとは言わないけど……」
「寝る」
ほとんど間髪入れずにそう答えた。どんな据え膳だよと言いたかったが、背に腹は変えられない。せっかくの、青木に触れられる機会を逃すわけには。
そのまま青木の膝に頭を乗せる。青木の太ももは確かに硬かったし、緊張で身体ごと硬くなっていたから、寝心地がいいとは言えなかった。
目を瞑る。当然、寝れるはずはなかった。ドキドキと心臓が鼓動を打つ度に、じわりと青木の体温が伝わってくる。
でも、そこから動くつもりも全くなかった。どうすることもできず、ずっと目だけは瞑っていた。
俺が身じろぎ一つしないので、本当に寝ていると思ったのか、青木が俺の頭を軽くひと撫でした。
もっとくっつきたいし、もっと触りたい。でも、これが今の俺たちにできる精一杯のスキンシップなら。
堪えている分、いざとなったら爆発してしまいそうだ。
今はただ、セットしたアラームが、少しでも長く鳴りませんように。そう祈ることしかできなかった。
赤ブーかなんかの企画のやつ
「ん〜〜あけましておめでとぉ〜」
「おー、あけましておめでとう。今年もよろしく」
寝起きのまだふわふわした頭でも、新年の挨拶を欠かさないのが日本人の性なのか。
しゃんと背筋を正すと、気が引き締まる思いがした。今年もゆっくり、青木と……、
「ってああああ!?」
「な、何」
「ちょっと、もう十時なんだけど!? 今から準備したら初詣、もう人いっぱいだよ! 何なら入れないかも……」
なんで起こさねーんだよ! と青木にめちゃめちゃに揺すられる。いや、激しすぎ。酔うから。
「青木があまりにもすやすや寝てたから……」
「起こしてって言ったじゃん!」
「何か可哀想でな……」
「アゥ、それはありがとう」
「どういたしまして……?」
律儀に青木が礼を言う。そこで少し空気が緩んで笑ってしまった。
その緩んだ空気をさらに加速させるように、ぐうと大きな腹の音。昨日の夜、たっぷりのすき焼きに、年越し蕎麦も食べたのに。
「もー腹減ったの?」
「そりゃ、朝だからな」
「あっはは、元気だなー! とか言って俺も」
「おせち食う?」
「食う! けど、それだけじゃ腹膨らまねーよな……餅も焼こ!」
「おう」
「何個?」
「とりあえず四つくらい? 二個ずつでも、それぞれでも」
「いくなー! 了解!」
青木が、ぴょんとベッドから飛び出てコンロに向かう。目を擦りながら。まだ眠いはずなのに。
確かに、青木が作った雑煮だから、青木が用意した方が美味しくなるに決まってるんだけど。
ありがとうと申し訳なさの両方の気持ちがないまぜになる。
「ありがと」
「‼︎」
そっと後ろから抱き寄せると、「火の近くだから!」と腕を振り払われる。ちぇ、それはそうだ。
すごすごと引き下がり、お椀を選んでいた最中、背中から青木の声が降ってくる。
「……あ、後でな!」
小さい声だったけど、それは聞き逃さない、だろ。
「初詣行けなくなるかもしれないけど、いいか?」
「そ、そんなにしねーから!」
コトコトと雑煮が煮込まれて、いい匂いが辺りに漂い始める。ゆっくりと味わってその後は、と考えると自然に顔が緩んだ。
ワンドロ 猫の日
人は、道端で猫を見かけると少しテンションが上がるものだ。
……人は、というと主語が大きすぎるって怒られるかな。少なくとも、俺は。
朝から『今日は八〇〇年ぶり! 二が六つも並ぶスーパ猫の日です!』なんて言われていたら、ああ、そうなのかって。
だから猫の写真がいっぱい流れてくるのか、可愛いなぁって、思うじゃん?
そこで、いつもより深く、脳内に猫という存在が刷り込まれた気がする。
だから、俺の彼氏――井田浩介といる時にも、ごく自然にその話題が出た。
「いだー今日さあ、何の日か知ってる?」
「……さあ?」
「猫の日だって!」
「二がいっぱいあるから?」
「そー」
「ふうん、まんまだな」
「別にいーじゃねーか、まんまでも……。だから今日さ、SNSとかにもすっげー猫の写真流れてきて、可愛かったんだよ」
「青木は猫派か?」
突然に切り込まれた質問。何と比べて? と聞くのは野暮だろう。
朝食はご飯かパンか。きのこなのか、たけのこなのか。
そんな感じで、猫派か? の対にくる対象は犬なのだ。
「えー……どっちも好きだけど」
「俺は犬派だ」
だろうな。頭の中で、井田の可愛くも凶暴な愛犬・豆太郎のことを思い浮かべる。
「あ! 豆太郎は別格だからな!」
「そうか?」
そりゃ、よく知った豆太郎と他では違うだろう。
そこから、いつ豆太郎の散歩行く? という話をしていたら、急に井田が立ち止まった。
「あ」
「ん? どした?」
「……課題のワーク、置いてきた」
「あちゃー、絶対いるやつじゃん」
「取りに戻るわ。青木先帰ってて」
「え!」
せっかく一緒に帰れる日なのに。俺は慌てて言葉を次いだ。
「俺、コンビニで気になってたお菓子あるんだよ!だからそこのコンビニで待ってるわ!」
「いいのか?」
「おう」
「じゃ、さっと取ってくるわ。ごめんな、青木」
「全然!」
小走りで駆けていく井田を見送って、俺はコンビニに向かった。
そこで聞こえてきたのが。
「にゃー……」
小さな猫の鳴き声だった。野良猫かな? 白地に茶色の模様が入った、可愛らしい猫……そして冒頭の話に戻る。
猫を見かけた俺は嬉しくなり、もう少しちゃんと見ようと猫の目線まで屈んだ。
野良猫は一定の距離を保ったままこちらを伺っている。
「猫だ……」
「にぁ」
少しだけ距離が縮まった。その金色の眼は、真ん丸に見開かれていた。可愛い。
そうだ。写真撮りたいな。猫の日だし。
そう思い立った俺は、猫に向かっておいでおいでの仕草をしてみせた。
「おいでー」
「ンニャ……」
少し手を近付けすぎたのか、猫が顔を背けてしまう。
「あ、ごめん、何もしないから」
「……」
「こっち向いて…にゃー」
「うにゃん……」
「!」
恥を忍んで少し猫の鳴き真似をしてみたら、猫が振り向いた!
「わーかわいー……にゃー、もうちょいこっちおいでよ」
「ニャン」
「! にゃー! 可愛い! 写真撮るな!」
すぐに動いてしまうので、連射機能を使って猫を撮影する。バシャシャとものすごい勢いでシャッター音が鳴り響いた。
その音に猫が逃げてしまうかと思ったけれど、逃げない。
俺はすっかりこの小さな猫に骨抜きにされてしまって、人目も憚らず猫語で話しかけた。
「可愛いなあ……にゃーにゃー、お前どこの子なの?」
「ニャー」
「にゃにー」
「……青木」
「はっ!!」
そして、気付けば井田が戻ってきていた。
「……どこから見てた」
「青木が、猫を撮影し始めたあたり」
「オイ! 話しかけろよ!」
にゃーにゃー言ってたのも聞かれたか…?
「にゃーって言ってた」
「うわ!! やっぱ聞いてたのかよ! 忘れろ!」
「可愛かったけど。猫語で猫に話しかける青木」
「はあ!?」
「もうやんねーの」
「やるか馬鹿野郎! あと豆太郎には内緒にしろよ!」
「もっかいにゃーって言ってくれたら」
「だから言わねーって!!」
可愛かったのにと笑う井田を見て、顔に熱が集まった。男がにゃーにゃー言って可愛いもんか! 恥ずかしい。
一人赤面する俺を尻目に、一部始終を見ていた猫が、呆れるようにニャンとひと鳴きした。