「やだやだやだやだ!」
 そう言って喚くのは、二百歳を悠に超えた吸血鬼の男だ。ドラルクはリビングのソファーの上で、長い手足をバタつかせて駄々を捏ねるロナルドを見ながら、大きな溜息を吐いた。
「明日は休みって言ったじゃんドラ公!」
「私だってそのつもりだったよ……」
 日頃の勤務に、緊急招集などが加わって、ドラルクが休暇を取ったのはいつのことだったか。指折り数えるだけで虚しくなっていく日々の中、二人は明日一緒に出掛ける約束をしていた。ロナルドはもちろんドラルクもそれを心待ちにしていたし、その為に今日は仕事をきっちり片付けてきた。それこそ、緊急招集さえかからなければ、明日一日はロナルドのためだけに時間を使えると思って、万全の準備を整えてきたのだ。
 だが今からきっかり一時間前、帰宅しようと準備をしていたドラルクの元に「お呼び出し」がかかってしまった。下等吸血鬼の目撃情報ありと市民からの通報が入り、明日の昼にドラルクは現場捜査に加わらなければいけない。下等吸血鬼は夜間帯の決まった時刻に出てくるというが、巣にしている場所が不明で対処が出来ないのだという。昼間に見つけて、眠っているうちに捕獲ないしは駆除をしてしまえば、被害ゼロで事なきを得られるのだ。吸血鬼による被害発生防止も、立派な吸血鬼対策課の仕事である、が。
 ネクタイを緩めて、ソファーでわんわんと泣いているロナルドの隣に腰を下ろす。視線を合わせようと機嫌を伺ったが、しかしロナルドがぷいとそっぽを向いてしまった。ドラルクは少し傷付き、しかしめげずに追いかけることにした。
「うーん……明日の捜査が終わったらじゃ、ダメかな……」
「聞く意味がないこと、聞くなよ」
「……」
 予想外にトゲのある物言いをするロナルドに閉口してしまう。近年稀に見る、というほど長らく一緒に過ごしているわけではないが、それでもロナルドがこれほど聞き分けがないのは珍しかった。それほど自分とのデート(という単語を頭に思い浮かべると小っ恥ずかしいが)を楽しみにしてくれていたということなんだな、とドラルクは場違いに上がってしまう口角を手で隠す。
「……うー……」
 そうこうしているうちに、ロナルドは小さく唸りながら、身体を丸めて蹲り、真っ黒な外套の中に篭ってしまった。へそを曲げてしまった恋人の宥め方など、ドラルクにはよく分からない。この状況に困惑と、新鮮さを感じながらドラルクはソファーを下りて、床に膝をついた。
 ぺろんと外套を捲ると、ロナルドの普段ぴんと尖った耳が萎れている。感情に左右されるのか、これ。そう思いながら、ピアスの嵌った耳朶に触れてみる。
「……」
 人差し指と親指で挟んで、その三角形の形をくるりと回しながら、「ごめんね」と言うと、ロナルドはおずおずと顔を上げてくれた。紫がかった瞳が涙に濡れているのを見て、こんな状況を少し楽しんでいることに罪悪感が湧く。ロナルドと過ごす日々、体験することの全てがドラルクにとっては愉快でならないし、同時に驚きの連続でもあった。
「急いで終わらせるよ。映画何時からだっけ」
「……十四時から」
「ランチには……ちょっと間に合わないかもしれないけど、それには間に合わせるからさ……ごめんね、本当に」
「……んーん」
 ロナルドはもぞもぞと外套から頭を出して、起き上がる。ソファーに座り直すと、すんと鼻を鳴らしてドラルクを見た。
「……ドラ公の仕事、大事なのはわかる……」
 日頃、やや突拍子のないところはあるが、基本素直で物分かりのよいロナルドに、こんなことを言わせるのは不本意だった。ドラルクはロナルドの手を取り、その甲を親指の腹で撫でる。
「約束を破るのは私なんだ。そんなに申し訳なさそうな顔しないでくれ」
「だって俺、我儘言ったし……」
 ぽろりと涙がこぼれ落ちるのが見えて、胸を掻きむしりたくなるような感覚がドラルクの中に去来する。もう一度隣に座ると、ロナルドはドラルクの肩に頭を置いた。銀糸のような少し癖のあるその髪を撫で付けてやる。
「我儘くらいいくらでも言ってほしいよ。私の都合に、随分付き合わせてるのを申し訳ないと思ってるんだ」
「俺が好きでやってるから」
 もう少しあんな感じの駄々をこねてほしかったとすら思いながら、形のよい額にキスをする。わあ、とロナルドが、今更キス程度で驚く様子に笑って、離れた距離を追いかけた。
「っん……!」
 少しかさついた唇は、先ほど溢した涙で塩っぱかった。角度を変えて、さらに深い口付けを繰り返す。
「ん、んん……はっ、ま、まって」
 顔を真っ赤にし、先ほどとは別の涙を目尻に滲ませたロナルドに制止されて、ドラルクはその唇を解放してやった。
「なに?」
「ど、ドラ公、明日仕事じゃん……!」
 このまま致す流れになっていることくらいはロナルドにも理解できたらしい。まあそうだねえ、とドラルクは応えて、再びキスを再開する。
「ん、う……だめだ、って……」
「だめ?」
「だって、つかれてるだろぉ……」
「……まあ、キスだけでそんな満足そうな顔されちゃうとなあ……」
 しかし、今度はロナルドの外套を外してソファーの背もたれにかけ、ついでに自分の手袋を外してこちらは床に放ったドラルクは、ロナルドのシャツボタンに指をかける。
「な、なに、なんで脱がすんだ……!」
「だって、せっかくのお休みでしょ」
「お前は仕事じゃん!」
「午前はね」
 下等吸血鬼の巣なんぞ秒で見つけて、なんならランチにだって間に合わせてやる、という腹積りになっているドラルクは、慌てるロナルドに対して言葉を続ける。
「わ、あっ、ちょっと……ひぁっ」
「せっかくのお休みなのに、キスだけで終わらせられないよ」
 ドラルク自身も、この休みなしの中で堪えていたものがある。いっそ、ロナルドのようにやだやだと駄々をこねたい気持ちを別の形で発散させなければ気が済まない。
 そう思うと、いつも我儘を聞いてもらっているのは自分のような気がしてきた。
 次の休みは、一日家で過ごすのも良いかもしれない。
チェック終了したので、終わります!!!ありがとうございました!
カット
Latest / 81:39
カットモードOFF
32:14
ななし@86327d
リアルタイムで推し作家の小説読めるのが最高すぎる
32:40
ななし@2b1a98
応援してます〜!頑張ってください!(ご挨拶だけで失礼いたします...!)
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
お題消化21時まで
初公開日: 2022年05月30日
最終更新日: 2022年05月30日
ブックマーク
スキ!
コメント
Δドラロナで台詞お題のやつを書きます。