照りつける太陽。
 抜けるような青空。
 遠くから聞こえる蝉の声に、じりじりと首の後ろが焼ける。
 日陰のない道を覚束ない足取りで歩きながら、どうにかこうにかオンボロ寮にたどり着いた監督生は、パタリと談話室のソファーへ倒れ込んだ。
「…………あっっっっづい」
 おい、ふざけるなよ学園長。なんでクーラーすらないんですかこの寮は。怠慢か? 怠慢ですよね? 熱中症で死んだらゴーストになって、毎晩学園長の耳元で日本の怪談百選囁いてやる……。
 室内に逃げ込んだところで逃れられない暑さに、腹の底から悪態をつきながら監督生は顔をしかめる。誰が呪われし千夜一夜物語だ。
 グリムは暑さに耐えかねて、最近は夜も深くなって気温が下がるまで、オンボロ寮には戻ってこない。彼(猫ちゃん)独自のルートで確保した涼しい場所が、学園内にいくつもあるらしい。いいなぁ。
 グリムのように猫であれば一緒に涼を求めてさ迷いたかったけれど、悲しきかな監督生は人間だ。小さな日陰や、冷たい土の上では寝られない。
「フフ……でもね。人間様にも、出来る事はあるんですよ……」
 つぅ、と顎に垂れた汗も拭わないまま、ゾンビのようにゆらりと立ち上がった監督生は、そのまま台所にやってくると、冷蔵庫の前で歩みを止める。そして、冷凍庫の奥に隠してあった一つのアイスを、中から恭しく取り出した。
「嗚呼、私のパピコ様……!」
 頬擦りしたい(溶けるからしないけど)気持ちで見つめるのは、この前購買で買ったアイスの、最後の一つだ。本当ならグリムとわけっこしようと思っていたけれど、学園長の用事をすっぽかして逃げた奴に慈悲はない。お陰で華のJKだというのに、こちとら全身汗みずくだ。
 全部一人占めしちゃお、と袋を開けてパキリと容器を半分にした監督生だったが、ふと動きを止める。そして考え込むように視線を辺りへ巡らせると、アイスをもったその足で談話室へと戻り、窓を開けて顔を外へ覗かせた。
 熱で火照った唇が開き、すぅ、と大きく息を吸い込む。
「ツノ太郎ーーーー!!!! 一緒に、アイス食べよーーーーーー!!!!!!」
 よー……、よー……、よー…………。
 キィン、と耳鳴りがしそうな程に大きな声で叫んだ監督生は、満足げに窓を閉めた。
 最近声の大きなマブができたので、つられて発声がうまくなったと思う。なんせ腹の底から声が出るのを感じるのだ。これが、力……。
 今後耳の良い獣人に絡まれた時は、耳元でゼロ距離で叫んで、相手の鼓膜ぶち破って逃げよう。そう密かな決心をしている監督生に、後ろから
「僕を呼んだか?」
 と楽しげな声がかかった。
 鍵をかけている室内に突如現れるイケボの持ち主なんて、勿論たった一人だ。クルリと振り返った監督生は、満面の笑みで答える。
「呼んだよ、ツノ太郎! 来るの早いね!」
「当然だ。僕にとって距離など、あってないようなものだからな」
「さすがツノ太郎。さすツノだね」
「さすつのだろう」
「ね、ね、一緒にアイス食べよう? グリムには内緒ね」
 どこにいたかは知らないけれど、突然現れては消える神出鬼没なこの男なら、声さえ届けば来るんじゃないか? という監督生の思惑は当たった。瞬きの間で現れたマレウスをソファーに座らせ、監督生はパピコを渡す。
「ぱぴこか」
「そうそう。前も食べたよね」
「ああ。友人と分け合うものなのだろう? これは」
「うん。だからツノ太郎を呼んだんだよ」
 監督生の言葉に、マレウスの頬が柔らかくゆるむ。その嬉しそうな様子を見ながら、監督生は開け口を切ったパピコに、ちゅ、と吸い付いた。
「あ~~、染みる~~……一日頑張ったご褒美、って感じだね」
「ご褒美か。人の子は氷菓が好きか?」
「うん、大好き。今は暑いし特にね」
「そうか。では今度僕の寮に遊びに来るといい。ディアソムニア寮は涼しいぞ。それに、お前が来るなら今度は僕が、とっておきの氷菓を馳走してやる」
「ほんと? やった、楽しみにしてる!」
「茨の谷には、生きる氷塊と言われるモンスターがいてな。そいつの表皮を剥いで内臓を取り出すと、」
「待って待って待ってそれもしかしてゲテモノ系アイス????」 
 懐があたたかいとは言えない生活をしているなかで買う、折角のアイスだ。一人でお腹いっぱい食べるのも勿論楽しい。でも結局は、いつも一緒にいる騒がしい親分やマブ、そして氷菓が好きでホールケーキが嫌いだという少し変わった友人と食べる方が、なんだか満たされる気持ちになるのだから不思議だった。
 きっと半分こされたアイスだって、その方が楽しいよね、と笑うだろう。
「なんだ、モンスターは駄目か? では氷で出来た花の花弁からとれる、蜜の氷菓にしよう」
「それなら綺麗だし、美味しそうだね」
「その花は近づくものを全て凍らせて補食する肉食花でな、自立式の根の太さと言ったらまるで大人の妖精の太股サイズで」
「それもモンスターなんだよな~~! 茨の谷ってダンジョンの別名かなにかなの?」 
 冗談か本気かわからない顔で悪戯っぽく笑うマレウスに、お願いだからもっと何も気にせず食べられるやつにして……? と渾身のおねだりをしていた監督生の元に、アイスを食べ損ねたと知った半泣きのグリムが飛び込んできて大暴れするのは、あと五分後の話だ。
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【マレ監♀ワンライ】書き終わるのか…?
初公開日: 2022年05月21日
最終更新日: 2022年05月21日
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コメント
Webイベント開催おめでとうございます。
ワンライ企画に参加しようと思い立ち、折角なのでテキストライブにしてます。
終わるのか…?不安しかない…