月のような人だった。
神様が、夜空の月で人間を作ったら彼を形作るだろう。空に浮かび輝く月の表面を冷たい彫刻刀で彫った、月の石の人。
夜闇に目が馴染んだ人間にはそれが痛いほど沁みた。心の深いところに確実に触れてくるようなところも。
他の人間とは違うのだと、ずっと気づいていた。神様造ったからくり仕掛けなのだと。
けれど、あいにく僕は人間だから、──飢えていたのだ。喉が渇いて、空腹で。食らうものを探している生き物であったから。
この身を蝕んだ火傷は、心を焼く醜い欲の炎となる。
よく言えば、湖で沐浴する乙女の服を隠し求婚する男の欲になるだろう。尤も、美しくあるわけがないが。
僕は、金の卵を産むめんどりを殺し臓物を暴くように、彼の羽衣を剥ぎ取って殺してやりたかったのだ。
髪を毟り、皮を剥ぎ、肉を削ぐように。僕は泣ける海外映画を彼に見せたり、真冬の海へ行き寒さを分かち合い、ときには素肌を重ねたりした。
それでも、あまりにも美しい月の人だったから。
だから……憎かった。憎くて、嫉ましくて、炎が身を焦がしたのだ。足りなかった。羽衣でも、髪でも皮でも肉でも足りない。彼のもっと、もっと暗い。月の裏側まで暴かなければ。醜さを見出さなければ。
きっとこれを作家たちは愛と名付けたのだろう。ならば、僕はこれを怨嗟と名付けよう。
「僕ね、結婚するんだ」
「──結婚」
「そう。子どもまでいるんだよ。まだこんな……小指の先ほどだけど」
つかれた
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初公開日: 2022年05月16日
最終更新日: 2022年05月16日
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