とりあえず続きを書いてみます。
「そう。黒猫とも仲良さそうだし、留守番でも問題ないかなって」
「こう言ったらアレだけど、恋人が帰ってくるのが早いか、黒猫の飼い主が見つかるもしくは尾白の飼い猫になるのが早いか、だな」
「まぁ、その時はその時、ですかね」
 +++
 心操がその出張へ向かったのは三週間前のことだった。彼の住むマンションでその話を聞いた。
 その日は久々にはち会うことが出来て、次の日もお互いに仕事だからと何も出来はしないが、尾白はこのまま心操のうちに泊まり、そのまま出勤していくこととなる。大鍋でぐるぐるとお玉をかき混ぜている心操の手元を覗き込んだ尾白は、香しい出汁の香りに思わず口の中が潤ったのがわかった。おでんだった。美味しそうと呟いたのを機に、心操か彼の顎をすくいあげると、そのまま潤った口内を舐め、そして吸い上げた。濃密なふれあいはできないが、これぐらいならば軽いスキンシップだろう。
 出来上がったおでんを器に盛り、それを主菜とした白米と副菜が並べられ、机に座っていただきます。と、手を合わせた時に話された。
「しばらく長期の出張に駆り出される。いつ戻れるかはわからないけど、結構難航しているらしい」
「そうなんだ……。うん、わかった。それだけ心操の個性と人柄、能力を買われているってことだろ。行ってこい」
「だと良いな。うん、がんばってくるよ」
 そう話した。尾白としては激励のつもりはない。気負うことでもないと、自然にふるまっただけである。彼がすでに、期待以上の成果を毎回叩き出してくれることを、確信しているからだった。
「聞かないの? 仕事の内容、とか」
「聞いても良いなら聞きたいかな」
「まぁ、もちろん全部は話せないけどさ」
「じゃあ話せる範囲でも、聞いて良いなら聞きたい」
 そうして心操から聞いた現場の内容に、思わず眉をしかめる。どこにでもあるヴィラン殲滅戦。だがその規模はそこそこに大きく、確かに拘束に長けたヒーローの招集がかけられるのも納得の上だと、はんぺんを齧りながら尾白は納得する。
「他にも上鳴とか、瀬呂……は、確かいなかったかな。別件とかぶったとか。物間に、取蔭さんも確かいたはず」
「結構大規模で落とすんだね……。それだけ厄介ってことか」
「先手必勝のつもり、らしい。とりあえずこっれぐらいかな」
「見込みとして、どれぐらいで片付きそう?」
 殲滅作戦がいつからとかはさすがに守秘義務があるから言えないらしいが、見込み一週間と少し、と心操は言う。
「だから、もう合鍵渡しておくから、明日の夜から、こまめ預かってくれない?」
 心操の愛猫。三毛猫のこまめ。今は先に出されたカリカリを食べ終わってご満悦らしく、彼女専用のクッションでゴロゴロと転がっている。尾白もこまめを預かることは何も初めてではなかったから、二つ返事で是と返事をした。
「ほんと助かる……。猫とか本当は飼ってる余裕ないのかもしれないんだけどね……」
「良いんじゃない? 元々保護猫を引き取っただけだし、俺は心操らしいって思ったけどね。ホテル代浮くと思えば安いもんだろ」
「まぁ、計算したらわりとそうなんだよね……」
「それに、俺もお前の影響か知らないけど、最近猫好きになってきたしね。あと、俺の事務所全員猫好きだから、話の話題にもなる」
「お前の事務所に転属したいな」
「そっちのヒーロー泣くだろ」
 それからは日程の細かい調整を行いつつ、最近はどうだ、件のヒーローがと、世間話に話を咲かせる。夜は長いようで短い。ましてや次の日も仕事ならば、寝坊は厳禁。戯れるのもほどほどにしなければならない。されども、尾白と心操は世間に公表こそしていないが、繋げられるところまで縁を繋げた恋人同士であり、それこそ彼らの友人達幾人かは公認済みである。そんな二人が、忙しい合間を縫って、少しでも同じ時を過ごしたいと思うのは、世の常だろう。
 風呂はすでに入り終わっている。食器を片付けて、食後にお茶を入れて一息付く。寝なければという時間ではないが、布団に入っても眠気が来なければ、触れ合わない自信がないほど年を食ってはいない。だから睡魔のピークが来るまで、二人は夜を語り合った。
 +++
 と、言うのが三週間前。彼が話していた想定一週間と少しを大幅に越えたスケジュールの可能性は高い。もっとも、開始がいつからなのかを尾白は知らないのだが。もしかしたら、連絡の途絶えた一週間前から作戦は始まっているのかもしれない。
(一応、テレビや報道、俺達ヒーロー向けに流された情報だけなら、殲滅作戦は成功。だが、そのあとの動きは全く聞かない……)
 上鳴の他、元A組の中から常闇や八百万、芦戸らも参戦しているらしい。同じように彼らと連絡が取れないことは情報が出回っている。なんなら元B組の拳籐からも「物間と連絡が取れない」と聞いている。だがそれを大っぴらにしないのは、下手に動くことが出来ないからだと誰もがわかっていることである。
 万が一、を、ずっと考えている。
「おっと。どうした?」
 集められるだけの資料を集め、元A組達と共有したそれを眺めていれば、もたれかかるソファの肘置きに黒猫が飛び乗ってきた。ちなみに、膝の上にはこまめがいる。
 黒猫はかまえと頭をぐりぐりと尾白の手に頭を押し付ける。最初はこまめと同じように膝に乗ろうとしたのを、こまめから猫パンチ食らっていたのは先ほど見た。やれやれとばかりに、尾白は資料を置くと、黒猫の頭を撫でつける。どうやら彼は——雄だった——毛並みをかき分けるようわさわさと撫でられるのが好みらしい。
「お前、本当どこから来たんだ? 飼い主心配しているんじゃないのか?」
 猫は答えず、ゴロゴロと喉を鳴らすばかり。こういう時、口田がいれば彼がなんと話しているか分かっただろうか。いや、そもそも彼の個性は動物の言葉がわかるものだったか? と思考が横に逸れつつ、膝上で眠っていたはずのこまめにも催促され、二匹同時に毛並みを梳いてやった。
「こまめのご主人様もひどいよなぁ。大事な姫さん置いてけぼりなんて。このまま……」
 自分ちの猫になっても知らないぞ
「なんて、な。心操は必ず帰ってくる。俺が信じないと、だよな」
 二匹の猫に囲まれる生活も愛しいが、そこにいて欲しいのは、たった一人だけである。
 +++
 実をいうと、尾白と心操の関係は互いの事務所のリーダーには伝えてある。その上で尾白は猫を預かっている間は、遠出を断ることにしていて、尾白の事務所のリーダーもそれを了承していた。だが、そろそろ期限は切れそうである。事実彼の所属するヒーロー事務所は地域密着型であるが、やはり必要があればチームアップという形でよその事務所と手を組んで任務にあたることもある。
 尾白はかつて、ヒーロー社会の是非が疑われる怒涛の時代、その真っ只中を駆け抜けた世代である。そのためか、元A組と呼ばれる彼らの結束は、ほかの世代のヒーロー達に比べて強固であるとも言われている。つまり、彼らはよく組んでいる。それだけのチームワークを出せるとして評価されているのだ。
 そうなった場合、尾白は預かっている猫をペットホテルに入れる必要がる。痛い出費、などと言っている余裕はない。こまめはともかく、問題なのは黒猫の方である。
「もう諦めて、尾白くん引き取ったら?」
「まだビラも配って三日しか経ってませんけどね?」
 先輩ヒーローと事務所で休憩しながら、端末で部屋に取り付けたモニターを眺める。猫は別々の場所で眠っているが、黒猫の方は、まるで昔から尾白の部屋に住んでますと言わんばかりのくつろぎっぷりを見せつけてくれている。隣で猫を吸いたいと唸る先輩はさておいて、どうしたものかと尾白も、備え付け駄菓子の煎餅を齧ったのだった。
さて、ここまでです。
ハートはリアクションって言うんですかね? それ、ありがとうございます!
そして閲覧もありがとうございますです。
またふんぎりがついたら告知するかもですが、6月のプルプラに申し込みしてしまったので、この話、わりと急ピッチで仕上げてます。
もっと早くから書けって話である。
うっ、表紙…頭が……
まぁ、もし本になればTLに現れるでしょうし、もし間に合わなければ支部かポイピクで限定公開とか、そんな感じになるかもです。
とりあえず、がんばってみます。
閲覧、ありがとうございました!
カット
Latest / 68:54
カットモードOFF