「あははっ、バラエティに呼ばれたってアタシがこんな風になることは無いのよ」
「俺の平和な学園生活のためにも言わないでくれると有難いな」
「あら、さっき記念撮影に了承してくれたわよね?」
幸運のギフトをその身に受けたヴィルは顔中にクリームを付けても尚、その美しさが色褪せることはない。
ぽとり、とクリームの破片がベストに落ちるも、嫌な顔など見せずに笑いながらトレイから差し出されたタオルを受け取る。
「折角の記念よ。マジカメ用に撮るわ」
「いいのか? ヴィル・シェーンハイトがそんな姿を披露して」
「何を言っているのよ。今日のこの行事を心の底から楽しむアタシはどんな姿でも美しいの」
ジャケットにも付着してしまったため、脱いでソファに腰掛けるとヴィルは正面を見詰めた。
「……ねえ、そうでしょう。ルーク」
「ウィ、トゥタフェ(ああ、確かに)。ヴィル」
ドア付近でインタビューの成り行きを静かに聞いていたルークが近寄り、ヴィルから端末を借りて二人を撮影し出す。
カシャリ、と機械的なシャッター音が鳴り、写真を確認したヴィルは満足気に編集を始めた。
「それじゃあ……俺はこれで」
トレイは、癖で眼鏡のレンズ外枠のヨロイを指で弄りつつ、役割を終えてホッとした様子で部屋を去って行こうとした。
その様子をジッと観察していたルークが、
「お疲れ様、トレイくん。……ありがとう、キミで良かったよ」
いつもの賑やかな雰囲気は鳴りを潜めている。
含み待ったその言い方に、成程な、と腑に落ちたトレイは足を止めた。
「……ヴィル、ルーク」
「まだ何かあったかしら?」
頬に付いたクリームを、そっと拭っていたヴィルが目を向ければ、ドアに手を置いて振り向いたトレイが眼鏡の奥の目を細めて唇を歪める。経験則からか、瞬間的に察知した何かしらに、ヴィルは眉を顰めた。
「同じ寮でも良いなら、お前はルークを選んだだろう?」
「あら、そんなこと」
拍子抜けだった。
結果なんてわかりきっている。
「無人島なんて、さっさと脱出したいもの。アタシのその意図を汲んでくれるルークなら願ってもいないわ」
ルークはヴィルに、触れるよ、と許可を取って、ヴィルの胸元に着いたクリームをタオルで拭っている。どんな顔をしているのかと少し興味が沸いたトレイだったが、止めた足を動かし、今度こそポムフィオーレ寮を後にした。
「楽しかったとはいえ、やっぱりベタつくわね。さっさとシャワーを浴びたいわ」
「幸運は無事にキミに与えられたからね。身を清めても大丈夫だろう」
そのまま過ごすわけにもいかず、ヴィルは談話室を出て自室にあるバスルームへと向かおうと席を立った。ルークはヴィルのジャケットを持って追い掛ける。いつもの後ろ姿と違い、ヴィルは衣装に合わせて後頭部の高い位置で髪をひとつに結っていた。毛先のラベンダーが歩くたびに、しゃなりしゃなりと揺れて、ルークの目は自然と追ってしまう。その先には白い頸(うなじ)が見え隠れしていた。
寮服時には髪をアップスタイルにしているヴィルであるからして、ルークにとって珍しいものでもない。それなのにポニーテールの髪型から覗くそこは何故かいつもより甘美で匂い立ち、触れたい衝動に駆られ、誘われる。
「……アンタ、いつまでついてくるのよ」
いつの間にか到着していた部屋の前でヴィルは振り向いた。
「ああ、いや。……そうだね」
「どうかして?」
「ジャケットを置いたら出るよ」
「そう」
廊下で受け取っても良かったのだが、なんとなくヴィルはルークを部屋へと通す。