付き合って初めてのクリスマス直前。
当日は一緒に過ごしたかったけど赤井は本国に呼び戻されてしまった。当日までにはなんとか仕事を片付ける!と意気込んでいたが、無理はするなと言ってある。こっちだって街頭警備で忙しいし、年明けにゆっくりすればいい。そんなことよりも無事でいてくれれば。
僕達の仕事は3Kだ。
キツくて汚くて危険。
いつ呼び出されるかわからないし、いちいち呼び出しで残念がっていては続かない。だから最初からこうなることは覚悟していたし気にしない。そう自分に言い聞かせる。
それに、いい歳の男が寂しいだのなんだの、重いだけじゃないか。
そう思うけれど。キラキラとした街とそれに呼応するように浮かれた人々を見ているとやはり羨ましくなってくる。
(……やっぱり、はじめてくらいは一緒に過ごしたかったなぁ)
赤井が言った通り当日に帰って来るのを淡く期待していると、赤井のケ一夕イから着信が入った。
久しぶりの通話に心が躍り、急いで通話ボタンを押す。
「あっ赤井」
「Hiフルヤ。久しぶりね」
赤井だと思った相手はス夕一リングさんだった。
「時間がないから手短に言うわね」
電話の向こうから慌ただしい気配を感じ取り、僕は最悪の事態を覚悟する。
「任務中にシュウが撃たれたわ。今手術中なの。急所は外れたけど、Xマスには帰れないと思う。シュウ、貴方と過ごすのを楽しみにしてたから連絡だけしたの。ごめんなさい、私達が不甲斐ないばっかりに…」
そんな、彼女達は何も悪くない。僕達はの仕事はいつだって危険なんだ。だから、仕方ない事で。
「謝らないでください。皆さん仕事をしただけで、誰も悪くないですよ」
だから、謝らないで。やり場のない怒りで恨んでしまうから。
「お忙しいのにわざわざ連絡ありがとうございます…」
何とかそれだけ言って通話を切った。
仕事では気丈に振る舞うけれど、やはり気が気ではない。急所を逸れたって、失血過多になれば死に至る。
いつか来るかもしれないとわかっていても、やはり彼を失うかもしれない不安と恐怖は付き纏う。
その日は落ち着かなくて、眠れなかった。
次の日の夜、手術が無事に終わり本人も意識が戻ったとメッセージが入った。まだ麻酔で朦朧としていてス夕一リングさんの代筆だったが。
でも、それで十分だった。
会えないなんて、彼を失う恐怖に比べたらなんて事はない。
今までクリスマスにプレゼントをもらった事なんて無いけれど。今年は初めてサン夕が来るかもしれないな、なんて冗談を言い合っていたけれど。でもそんなもの無くてもいいんだ。大切な彼が生きていれば。サン夕さん、どうかお願いです。どうか彼がこのまま無事に退院できますように。
『退院はひと月後になるそうだ。出来るだけ早くなるよう交渉しているが…』
『せっかくだからゆっくりしてください。僕は年明けまで仕事で忙しいですから帰ってきても会えませんし。それに…』
1人は慣れてるから。
そう言いそうになるのをぐっと堪えた。
きっと気を遣わせてしまうし、心の中に赤井がどっしりと幅を利かせていたからあえて言う必要を感じなかった。『サンタからのプレゼントはどうやら受け取れたようですし』
『何?』
彼が無事に退院できますように。望んだのはこれだけだ。
だが通話の相手は不服の様だ。
『俺以外にサンタになれるような相手が出来たのか?』
『ふふっ、何嫉妬してるんですか。そんなんじゃないですよ。あなたが無事に退院できるようお願いしただけですよ』
『れーくん…』
『こんな事になってすまない』
『本当ですよ。心配したんですから。ちゃんと自分を大事にしてください』
『あぁ、努力するよ』
『本当かなぁ?』
そう笑い合いながら通話を切った。
ーーーーー
それから数日、自分も仕事が忙しくて赤井とは連絡を取れなかった。
そして迎えた24日。
世間はクリスマスモード一色だった。
自分はと言えば制服のまま警備に当たり、浮かれた酔っ払いたちに絡まれ、トラブルを仲裁し、痴漢や暴行犯を捕まえる。おおよそ楽しいとは程遠い状態だ。
日付けも変わって皆んなが家族や恋人達と寝静まった頃、漸く退勤を許された。
街を輝かせていたイルミネーション達も今はもう眠っている。
コンビニで売れ残りのケーキとチキンだけ買って家路を辿る。
セブンのフロントガラスには六花が咲き始めた。…ホワイトクリスマスだ。
赤井と居ればきっとロマンチックだったろうと柄にもないことを考える。
1人で雪なんて見ても寒々しさしか感じない。
虚しさを殺しながらマンションの駐車場に車を停める。車から降りれば冷たい空気が一気に身体に纏わりついた。思わずコートの襟元をぎゅっと締める。そうだ、赤井とマフラーを買いに行こうと話していたんだった。結局会えなくなってしまって買えずじまいだ。
……赤井に会いたい。
大切な人達を次々と失って。孤独な夜をいくつも超えてきた。嘆き哀しみ、感情は枯れ果て、孤独はもう慣れてしまったと思っていた。
赤井のことはヒ口を奪った相手だと憎み、残り滓のその感情だけで生きてきた。なのに。
赤井はいつだって優しかった。そう、僕が誤解していただけで。それを知ってしまった時、1人が耐えられなくなった。憎しみだけで立っていたのに、それすら間違った感情で。
1人で立てなくなった僕を、赤井はその優しさで支えてくれた。
だから、今は1人じゃない。
寂しくない。
でも。
…やっぱり寒いよ、赤井。
冷えたチキンとケーキの入ったコンビニ袋をぶら下げながら自室へと向かう。
誰も居ない、いやハ口が寝ているだけの静かな部屋だ。
なのに、ドアの前に立つと妙な違和感を覚える。
「……」
見た目には何も変わっていないが、部屋の中から何やら人の気配がする。
まさか、泥棒⁉︎
そんな、けーさつかんが空き巣に入られるなんて…いや、機密情報狙いか?それよりもハ口は無事なのか⁉︎
緊張する手でドアノブを握り、反対の手で腰の銃に手をかける。
そーっと、ドアを開けて中を確認する。
「おかえり!れー君!会いたかったよ…」
「えっ⁉︎あかっ…えっ⁈」
状況を把握する前に、真っ赤なサンタに抱きしめられていた。
そんな、赤井は向こうで入院中で、目の前に居るはずないのに…
あぁ、これは幻か。マッチ売りの少女よろしく寂しさに耐えられなくなった僕の妄想。きっとそう。
「れー君、寒かっただろう?一緒に買いに行けなかったからな。ほらこれ、プレゼントだ」
ふわりと首に掛けられるマフラ一。赤井の体温が移ったのかほんのりと温かい。
「えっ、何、本物?マフラ一?えっ?なんで⁉︎入院は⁇」ようやく出てきた言葉は単語が精一杯だった。
「本物だよ。これが渡したくて病院は抜けてきた。あまりうまく出来なかったけど、どうしてもクリスマスに渡したくて」
「へっ、赤井の手編み⁉︎いやほんと、何やって…ばかっ…」
驚きと感動と心配と…色んな感情がない混ぜになって言葉が続かない。
大好きな赤井が目の前にいるのに、視界が滲んでよく見えない。
「ほんと、心配してっ…赤井が死んじゃうんじゃないかって…ぼく、また1人になるんだ…って…っ…。なんで安静にできなっ…うっ…」
赤井の胸元に縋りながらわんわんと泣く僕を赤井はやっぱり優しく抱きしめてくれた。
ひとしきり泣いたあと、れー君そろそろ座らせてもらってもいいかなと青い顔をする赤井を見て、僕は反対に赤い顔をしながら慌ててソファまで肩を貸した。
その後1人分のチキンとケーキを2人で分け合って、時間も時間なのでシャワーを浴びて早々にべッドに入った。
赤井の怪我は血は止まっているものの結構酷くて、相当無理してこちらに来たのがわかる。向こうの上司に電話させたらカンカンに怒っているのが赤井の電話ごしに伝わってきた。
すぐに帰らせるのかと思ったら復路で体力を消耗する方が良く無いからと絶対安静を条件に数週間の滞在を命じられていた。赤井はこちらを向いてウインクしてくる。
…コイツ、これを見越して来たな。
はぁ…とため息を吐くと、じょでぃが話したがってると呼ばれる。
「Happy Holidays!フルヤ。今回のことビックリしたわね」
「ええ、本当に。なんだかすみません」
「あなたが謝ることじゃないわ。元々そちらで過ごす予定だったもの。シュウの体調はどう?傷開いてない?」
「それは大丈夫ですがやっぱりしんどそうですね」
「そうよね…なんでシュウっていつも連絡ひとつしないで無茶ばっかりするのかしら」
まったく同感である。
「申し訳ないけど、出来れば期間中そちらに置いといてもらえる?1人にさせると何するかわかんないから。もちろん仕事は普通に行ってもらって良いんだけど」
「いいですよ。責任持ってお預かりします」
「ふふっ、シュウの恋人があなたで良かったわ。それじゃあ良いクリスマスを。くれぐれも傷が開かない様にね♡」
一体何を想像してるのやら。
「あはは…良いクリスマスを」
ケ一タイを赤井に返すと二言三言話した後通話が終わった。
「さぁ、これで文句はないな?」
さも当然の様に上にのし掛かってくるのを手で制する。
「何言ってるんですか?絶対安静ですよ!じょでぃさんにも責任持って預かるって言ったんですから」
「俺は物じゃないんだが…」
「それだけ素行が悪いからでしょう!ちょっとは大人しくしてて下さい」
「でもせっかくのクリスマスだぞ?久々に会えたっていうのに…」
「ダメです!」
肩まで布団を被り、赤井のいない方を向く。
「れーくん…」
デカい図体して子犬の様に強請られれば罪悪が出てきてどうにも弱い。
布団の中で手を伸ばし、そっと赤井の指を握る。
「あのね、僕本当に心配したんですよ?」
そのまま手を口元に持ってきて優しく口付ける。また、この手に包まれて僕は幸せ者だ。
「ああ、心配かけてすまない」
「ほんとにもうこんな無茶しないでください」
「わかったよ」
反対の手で腕枕をされ、僕は完全に赤井の胸の中だ。
「でも、やっぱり、来てくれて嬉しかったです。酷いですよね、あなたの体調よりも来てくれたことを喜ぶなんて」
「れーくん…」
「いつもクリスマスは寂しいことばかりでしたから」
抱きしめる腕にほんの少し力が込められる。
「サンタさんに会えて、プレゼントを貰えて、本当に嬉しかった。無茶は良く無いけど、今日だけお礼を言います。ありがとう、赤井」
恥ずかしくて赤井の方は向けないけれど、耳が熱くなってしまってるからきっとバレてると思う。
「Good boy rei.喜んでくれて良かったよ。頑張って編んだかいがあった」
「でもなんでマフラ一なんです?」
「向こうではクリスマスになるとグランマが手編みのセ一ターを編んでくれるんだ。だから、君にも家族の暖かさみたいなのを感じて欲しくて。でも流石にセ一ターは荷が重くてな」
「それでマフラ一にしたんだが、それでも中々上手くはいかなくてな。歪で恥ずかしかったら付けなくていいし、気持ちが重いなら捨ててくれてもいい」
「そんな!」
思わず赤井の方に振り返る。
「そんなの…嬉しいに決まってるじゃないですか。赤井が一生懸命編んでくれたんです。大事に付けます」
「やっとこっちを向いたな」
責める口ぶりなのに、目はどこまでも優しくて。
僕はそっと唇を重ねた。
自然と深くなる口付け。久しぶりの逢瀬についつい自制が効かなくなる。
気付いたら赤井の手もやらしく僕の体をまさぐっていて。
「ちょっと、何してるんですか」
「俺もプレゼントが欲しいんだが」
確かに、会えないと思っていて用意できていないが。
でもさっきも立ってるだけで青くなっていたのに出来るわけがない。
「ダメですよ」
「せめて君が気持ちよくなってる姿だけでも見たい」
「はぁ?それあなたには何も……っ」
腹部に硬いモノが押しつけられる。
「なぁ頼むよ、ずっと入院していて溜まってるんだ。れーくんに沢山触りたい」
だからなんでこいつは普段人を寄せ付けない雰囲気の癖に、都合の良い時だけこう厚かましいのか。
返事を待つ間も僕が堕ちるのを待つ様に敏感なところを撫でてくる。
こんなの、ずるい。
僕だって大好きな赤井と会えて、出来る事なら熱い夜を過ごしたかった。
「っ…じゃあ、一緒に抜くだけなら…」
そういうと、2人はパジャマを寛げ、ささやかに身体を触れ合わせた。
〜〜〜〜〜
クリスマス、それは恋人達に訪れる甘い夜。
僕達には豪華なディナーや素敵な夜景、熱い夜なんてないけれど。
愛する人の腕の中で過ごす聖夜は、今までの人生で一番の幸せな時間だった。
(おわり)