町外れの塔の後ろをちょうど飛行船が横切っていった時、いばらの絡まる柵のそばでお焼香の作法がわからなかった話をしてください。
#さみしいなにかをかく
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「暑い、」
ぐんにゃりと項垂れながら、俺は柵にもたれかかった。
ちり、と一瞬指先が熱く、そして冷え始める。
「いってぇ……」
よく見れば薔薇が絡まっているところがあって、その茨に引っ掛けたらしい。つくづく、運が悪い。
舌先に鉄サビの味を感じながら空を見上げれば、呑気な飛行船が視界を横切っていった。
何もかも穏やかで、平和で、ただひたすらに俺だけが置いて行かれて。
鮮やかな青空が俺の瞳を手酷く灼く。
どうして、と、声が喉奥で絡まってついぞ吐き出すことは叶わなかった。
どうして、
(どうして、俺ばかり置いて行かれる?)
胸ポケットを漁って引っ張り出した煙草をくわえて、火を点ける。先程引っ掛けた傷がちりちりと痛むのを無視してライターを強く押す。
何度かトライしてようやく煙草の火が点いて、俺は深く深く吸い込んだ。思わずげほげほと咳き込んでしまって、慌てて普通に深呼吸する。
煙草をくわえなおして、今度は恐る恐る息を吸い込んでみれば、慣れ親しんだ香りと味わったことのない苦味が口いっぱいに広がった。
「よくもまぁ、こんな不味いもん吸ってたなあの人……」
揺れる煙に目をしぱしぱさせながら、どうにかこうにか一本吸い切った。携帯灰皿に吸い殻を放り込んでぱちりと蓋を閉める。
「……はぁ」
ずりずりとしゃがみ込んで、膝に顔を埋める。
俺の周囲を取り巻く香りは確かにいつもあの人が纏っていた香りに近くて、決定的に違っていた。
わかってる。わかっているのだ。
あの人が吸っていた煙草を吸ったところで同じになるわけないのだ。
俺以上にいたずら好きで人を困らせて振り回してだけど人懐っこくて優しくて愛されて賢くて色んなことを教えてくれて。
好きになるなっていう方が難しい人だった。
「俺さぁ、」
どこに言うともなしに、ぽつりと声が零れた。
「葬式の作法なんて知らねぇんだよ」
直前の人がやった通りに機械的に手を動かして、心を込める余裕なんてなかった。
「あんたが教えてくれなきゃ、俺は何にもできないのに」
正しくきちんと、焼香の一つあげてやれなかった。
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初公開日: 2021年11月15日
最終更新日: 2021年11月15日
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