明かりを持つ役目は、最初の頃から見張りの司のものだった。
少し前を歩く異邦人は千空ほどではないが、十分に小柄だった。もっとも、司からすればほぼ全ての人類が小柄に分類されてしまうのだが。
頭一つ分低いところにある存在が、自分たちを一度は殺した引き金なのだと思えば、なんとも不思議な感覚だ。
スタンリー・スナイダーからの逃亡劇は、結果的に見れば千空たちの勝利に決着した。とはいえ、戦術では紙一重で勝っていたが、総括すれば戦略としては敗北していた。完全に、何もかもが最後までスタンリー・スナイダーとゼノ・ヒューストン・ウィングフィールドの掌の上にあった。
かつてのストーン・ワールドから新世界へと生まれ変わってしまった今の世界ならば、ゼノもスタンリーも大人しく協力してくれたかもしれない。だが、そうはならなかった。
そうならなかった。
スタンリーが繋いだ新世界で、ゼノは一人石像の前に毎日佇んでいる。
「やあスタン、今日も息災で何よりだ。今日センクウたちが旅立っていったよ。君はせいせいした顔をするかもしれないな。いや、案外直にあって話してみたら気に入って、寂しくなっているかもしれない。彼らはあっという間に陸地を離れていったよ。なんといっても動力が、バイオ燃料で動くガスタービンエンジンだ。あれで戦闘機を作ったら実にエレガントなものができあがっただろう。君が華麗に乗りこなす様が目に浮かぶよ。とはいえ、我々は宇宙に行かねばならないから、呑気に空を飛んでいる場合ではないのだけれどね。目下の問題は、大幅に人手が減った中でエンジン制作を行なわなければならないことだよ。まさかNASAでは図面しか見てこなかった僕が、現場で作業するだなんて、あの頃は夢にも思わなかったよ。まあこちらの要求をいかに相手に呑ませるか、を気にしなくて良いのはメリットだが。君がいたおかげで僕は、集団生活におけるデメリットを全く気にせずに研究に打ち込めていたんだとしみじみ実感しているよ。周りのフィジカルから作業スピードを概算するだけでなく、さらにメンタル的なものまで気を遣わねばならない。その辺りはMr.ゲンが得意とする分野なのだろうが、幸いMr.司が残った。パワーバランスを考えたら僕も同じ取捨選択をしていただろうから驚きはない。Mr.司の統率力は優れている。まだティーンだとは思えない物腰の静かさだ。全てのティーンエイジャーが見習うべきだろう」
いつものようにあくまでも警戒態勢のため、立位を保持したままゼノの後ろで、司は自分の話を聞いていた。
地面に下ろされたカンテラの明かりは、足下を仄かに照らし出す。コハクほどではないが常人より夜間視力に優れた司ならば動きに支障はでない程度だが、肉体的には一般人男性と変わらないゼノでは、足下以外はほぼ真っ暗だろう。それでもゼノは迷い無く、スタンリーの目を見つめて話している。
いつも通りならば、もう少し喋った後で急に沈黙し、ゼノはこちらを向いて終了を告げる。
だが今日は、ここで終わりらしい。
くるりと振り向いたゼノは、真っ黒な目で司を見た。
「君は最初、千空と敵対していたのだと聞いている。それも思想の違いによって。ストーンワールドでも人が個々として存在を認められる限り、思想の衝突は起こるのは当然だろう。僕も君も千空の思想が受け入れられないから戦った。そして君は千空のナイトとなり、僕は千空に協力している。僕はその過程で、僕のナイトを一時的に失ったわけだが、それ自体は受け入れているよ。むしろ、ああして僕を対等に扱ってくれたことに感謝しているぐらいだ」
「でも、うん、君はそれを受け入れられないのではないかな? だから毎日ここに来る」
「おお実にセンシティブな見方だ。残念ながら僕はそんなデリケートな神経を持ち合わせていない。スタンにもよく、どういう面の皮してんのと言われた。そのたびに人間の顔の構造では加齢や外部からの影響以外ではそう大差がでないと言うんだが、いつもため息をつかれていたよ」
心底楽しげにゼノは語るが、普段のゼノはスタンリーのスの字も出さずに会話している。スタンリーの石像の前でだけ、ゼノはスタンリーのことを語る。
「