街の外れにひとりの少女が住んでいる。ある人は優しい聖女のようだと言い、ある人は得体の知れない魔女のようだと言う。カナメは後者に属する人間だった。怪しい、信用ならないの人間だと思っている。けれどカナメは週に一度、欠かさず彼女の元に通っていた。
特に約束はしていないが、前回行った日からきっちり七日後にカナメは少女が暮らす家にやって来た。ドアは施錠されておらず、誰にでも開かれている。一応ノックをして声もかけてから中に入ったが、ドアベルの軽やかな音が響くだけで誰もいなかった。これはよくあることなので特に慌てもせず、カウンターの上に置かれたベルを鳴らす。少女がここにいないときは大抵裏の畑にいる。魔女の怪しげな術でこのベルを鳴らしたら彼女の元に合図がいく、なんてことはなくただの原始的なからくりだ。今ごろ糸で繋がれた畑のベルが鳴るのを聞きつけた彼女が慌ててこちらに向かっているだろう。
予想通り、ほどなくして裏口が開いて少女──タツミが飛び込んできた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、こちらこそ作業中にすみません」
「すぐに準備しますね」
土で汚れたエプロンを外しながらタツミが部屋を出たをここは彼女のリビング兼応接スペースのようなもので、薬品の調合や保管は別の部屋でしている。先週と変わり映えのしない室内を眺めているとタツミはすぐに戻ってきた。手には薄紫の液体で満たされた小さな瓶が一つ。カナメはそれを受け取り、代わりに同じ形をした空の瓶と小さな紙包をタツミに渡した。
「今日はパンです」
「ありがとうございます」
タツミは聖女でも魔女でもなく、ただの腕のいい薬師だ。街の外れに住んでいるのはここが薬草の栽培に向いているから。彼女を怪しむ人間と同じくらい彼女を頼りにする人間もいる。そんな複雑な人々の視線を理解しながら、彼女はここで淡々と薬を作っていた。
彼女は人々から金銭を受け取らない。薬の対価は食料や日用品で、それも暮らしていくのに最低限のものだ。どうしても金銭が必要なときは商人に薬草を売るらしい。どのような理由で彼女がこんな不自由な生活をしているのか、それはカナメの知るところではない。
「来週はどうしますか? そろそろ林檎の季節ですし、果物でもお持ちしましょうか」
「ああ、もうそんな季節なんですな。ではそれでお願いします」
「いえ、対価ですので」
受け取ったばかりの小瓶を揺らす。薄紫の液体は花の蜜にいくつかの薬草のエキスを混ぜ込んだものだ。薬というより栄養剤に近い。寝たきりの人間が効率よく栄養を補給するためのものだ。
カナメには大切な人がいる。彼は今、寝たきりではないが限りなくそれに近い状態にあった。調子がよければ日中起きて多少動くこともできるが、日によってはずっとベッドの中にいることもある。医者には診せたが、病気を治すどころか原因すら分からなかった。結局匙を投げられて、好転も悪化もしないまま一年になろうとしている。タツミは解決策を探る中で相談した一人だった。怪しいと思っていても薬師であることは確かだ。治療薬でも知り合いの医師でも、何か手助けをしてもらえないかと藁にも縋る思いでここを尋ねた。直接彼を診てもらったが、結局彼女も首を横に振るだけだった。