夏祭りに行こうと誘ったのは、五条だ。同期皆で行けるといいね。と返事をしたら「お前と二人きりがいい」と静かな声で言ったので、それ以上何も聞けず頷いた。
『約束だかんな』
 歯を見せてにかっと笑って見せた五条は、私の知らない年頃の男の子の顔で、ドキリと心臓が跳ねた。五条は五条で、それ以上でも以下でもなかったのに。その日から会う度、そわそわと落ち着かなかったり、バレない様回れ右したくなって。
 心当たりのある感情に当て嵌めるのが怖くて、違うと何度も言い聞かせ夏祭り当日。まだ日が落ち切っていない青空が広がる中、人で溢れかえる神社の境内にポツンと一人。
 白地に鮮やかな桔梗の花が散りばめられた浴衣に、臙脂の帯。髪飾りも浴衣に合わせた桔梗の箸。少しだけ背伸びをして、大人っぽく着飾ってみた。
「なんて言うかな」
 笑って茶化す? 馬子にも衣装って。そういや五条は何で来るんだろう。もし制服だったら、意識し過ぎた自分はやばすぎる。
「……着替えようかな」
 途端に込み上げた羞恥に耐え切れず、ポツリと漏らすと携帯が震えだす。巾着の中から取り出すと、五条悟の文字。まさかと思いつつ出ると、開口一番「ごめん」と彼は告げる。
 それだけですべてを悟ったが、私が返事をする間もなく五条が続ける。
『これから任務。ほんっと、悪ぃ。ぜってー埋め合わせするから』
「了解。気を付けなね。気にしてないから」
 とても申し訳なさそうな声で、何度も埋め合わせする。と繰り返す五条は、私が頷くまで決して引かないだろう。任務なら仕方がないし、どうしようもないが。
「じゃあ今度モス奢って」
『……そんなんでいいのかよ』
「美味しいよ、モス」
 庶民の味は口に合わないってか。楽しそうなカップルが目の前を通り過ぎていくのを眺めていると、受話器の向こうからもどかしそうな舌打ちが響く。
『お前、一人で何ともないのかよ』
「まあ、ぼっちは慣れてるし」
『俺と! 一緒に行くっていったのに、寂しい。とかさ』
 喧騒が止んだように思えた。このドクドク煩いのは、自分の鼓動だろう。それなのに五条の声だけは、しっかり耳に届く。
 気にしない、と言ったのは建前だ。五条だって残念そうにしているし。任務前だというのに、余計な事に意識を割いている場合じゃない。まあ、五条のことだから気にしたって無事帰ってくるだろうけど。
「寂しい、のかな」
『聞いてんのはコッチだっての』
 腹立たしい、とは思う。家族や友人、恋人連れで溢れかえる中、精一杯着飾って待ちぼうけ。ぼっちの寂しさは慣れているから、あまり苦にならない。じゃあ、どうしてこんなにも心が落ち着かないのだろう。
「あ……分かった、かも」
 浴衣を見て欲しかったんだ。だってこれは、五条のために着たから。同年代の男の子より、容姿が少し大人びているから隣に並んで見劣りしないようにって。
 茶化されるかもしれないけど、勇気を出して着飾ったのに。見てもらえるチャンスがないと分かって、腹立たしかったんだ。
『え、何? 何が分かったんだよ』
「うーんとね。電話切ってから写メ送るわ。それが答え」
 私の煮え切らない態度に、五条は困惑して切ろうとしないので一方的に切って、自撮りしてメールを送る。
【今度は直接見ろバカ】
 あっかんべーをしている絵文字を添え、意味もなく携帯を空へ掲げ送信ボタンを押す。五条、どう思うかな。送って猛烈に恥ずかしくなるが、送信完了の文字に引き返せないことを知る。
「可愛い、とか……」
 ちょっとだけ、一ミリだけでも思ってくれたらいいな。ぽそりと呟き、気を取り直すように携帯をしまうと屋台を物色する。焼きそばとりんご飴を楽しんだら、同期達にお土産を買ってやろう。
 鬼電で震えまくる巾着には敢えて触れず、カラコロ下駄を鳴らす。
「ちょっとは困れ」
 絵文字と同じように、小さく舌を出した。
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