今日も、また見つからなかった。
空虚な絶望を覚えながら、フラリと藍忘機は街を歩く。
音もなく静かに歩む様は一見優雅だが、真っ白な校服ゆえかどこか浮世離れしていて、ともすればこの世のものではないようにも見える。それは端正な顔立ちに表情らしい表情が一切ないせいもあるだろう。
藍忘機が魏無羨を捜し始めてから早六年が経過しようとしている。邪祟が出たらどんなに遠方でも駆け付け、毎晩繰り返し問霊を行い彼を捜すも、求める姿は気配さえない。あれだけ存在感があり、目を離せず、見ようとしなくても目に入ってくる存在が、奇麗さっぱり消え失せてしまった。そのことが未だ信じられず――もしかしたら彼の存在は全て妄想なのではないかとすら、最近は思えている。
魏無羨は見たくなくても視界に入ってくる存在だった。その声はどれだけ遠くにいても聞こえてしまうし、その姿はどれだけ顔を背けても飛び込んできた。興味がなくても噂は耳に入ってきて、関心の有無に関わらずある程度の行動は把握できてしまう人物だった。
そんな彼が、跡形もなく消失してしまうなんて信じられない。己の頭が作り上げた架空の人物だという方がまだ信じられる。
そう考えるたびに、ではこの想いもまやかしなのかという疑念に駆られる。
彼の全てが欲しい。雲深不知処に閉じ込めて、誰の声も聞こえないように隠してしまいたい。きらきらと光る色の薄い瞳に、己だけを映してほしい。
この欲望も全て妄想から生じたものと考えると、気が狂いそうだ。
「そりゃ夷陵老祖の仕業に違いだな!」
ふと聞こえてきた単語に、藍忘機はピタリと足を止めて振り返った。藍忘機が立ち止まったことに気付かず、声の主達は会話を続けている。内容を伺うと、どうやら近所の子供が高熱を出しているようで、先程の台詞はそれを夷陵老祖の仕業だと断定したものだったようだ。
あり得ない濡れ衣だ。とても下らない。魏無羨は邪道使いだけれど、時に墓を荒らして他人の亡骸を手駒として使うような人道に背いたことをするけれど、決して生きている誰かを不幸にするために動く人物ではない。その行動はいつだって弱きを助け、悪を挫くためのものだった。世に溢れる、本来の魏無羨とは真逆の風評に腹が立つ。
けれど皮肉なことに、今の藍忘機にとって世間に溢れる夷陵老祖の噂は救いでもあった。夷陵老祖の話が世間で交わされているということは、彼の存在は藍忘機の妄想ではないということの証明になる。それがどんなに悪逆に満ちていて、本来の人物像とは違っても。
(魏嬰は、ここにいた)
だから、捜していれば絶対に会える。見つけ出す。
止めていた足を再び動かす。こんなところで道草を食っている場合ではない。早く次の地に向かわなければ。