本編
『――天災。オリジニウム。紛争。つかの間の喜び。それらはどれも、あくまでテラの長い歴史によってもたらされた副産物にすぎない。テラは沈黙を守りながらも、その上に誕生していく人や、出来事を、見守り続けるだろう』
「はい、以上です! 監督、何か修正はありますか? ……そうですね、大丈夫だと思います、はい。むしろしっとり語り聞かせるような感じでも良いかも……」
「どうだ?」
「大丈夫です! この方向性で行きましょう!」
「そうか。後はよろしく頼む」
『お疲れ様です。任せてください』
「失礼する」
 ポップガードから顔を離したケルシーは、上着を羽織り重い扉を片手で押しながらスタジオを出ていく。ロドス本艦上層、スタジオエリアの入り口にある休憩室のソファに腰を下ろし肩の力を抜いた彼女は、後ろから不意に渡されたコーヒーを受け取った。
「久しぶりに執務室の外に出たと思えば、こんなところまで来ていたのか」
「やぁ、収録お疲れ様」
「ふん」
 カシュ、とリングプルを引いて缶を開けたケルシーが口を付けた。その間に彼女の隣を取った私は、自分のペットボトルの異様に硬いキャップと格闘しながら座る。
「貸せ」
「何でか分からないけど、私が買うと異様に開けづらいんだよな……」
「持て。開けられん」
「あぁ、ごめん」
 ケルシーの缶コーヒーが手に渡る。買ったばかりなので温かく、ほんのりと湯気が漂っている。そういえば、さっきケルシーが口をつけたんだよな……
「ん」
「ありがとう。助かるよ」
「それで、何の用だ。スタジオの場所を知っているとはな」
「ヴィグナに教えてもらったんだよ」
 ロドス・アイランド製薬は多国籍企業の一種であり、ロドス本艦率いる本社と、各国家に設置されている支部がネットワークを形成し活動を行っている。感染者の治療、保護、戦闘業務などを通じてロドスは規模を拡大し、鉱石病の研究を進めているのだ。
 活動の中にはマーケティング、広報、宣伝なども含まれ、ロドスという企業の存在を世界に周知するために主に非戦闘員がこの業務に従事している。その為にロドス本艦には専用のスタジオが設けられ、ケルシーはその一角で収録を行っていた。
「私もやれたら面白そうだな」
「却下する。お前の存在は可能な限り秘匿され、常に保護観察対象下におかれるべきだ。痕跡を残されては困る」
「そうか」
 にべもない。
「そういえば、君から渡された論文を読んだよ。かなり興味深い視点からの考察だったね。私達は物事を行うことに対してアウトソーシングへの抵抗が極めて低いようだ」
「ああ。私達は全てを記憶していないし、膨大な計算の結果を覚えている訳ではない。単純なパターン完成へと落とし込み、それを組み込んでいくことによって問題を解いている。困難は分割せよ、問題を単純化せよ、とな」
 医療棟の脇を通り過ぎ、執務室へ向かう通路を歩いている私達は数日の間に見聞きしたことを話す。ケルシーは前を歩きながら私の話に時々口を挟み、過ちを訂正し、それ以外は静かに黙っている。
 ケルシーについて最近分かったことがある。彼女はロドスの中で一番好奇心が強いということだ。常に本を読み、実験室に籠り、ソファに座って物思いにふけっている。
 彼女が話すことについて私は半分も分かっていない。置いていかれた瞬間の、それに気づいた彼女が僅かに顏を顰める様子が私の心を刺し貫く。私はケルシーの「私」ではない。彼女はそれを非常に警戒し、極めて注意深く避けようとしているが、対話は彼女を熱くさせる数少ない事柄であるが故にどうしても避けられない。
「紙やペンはもはや脳と分かちがたい関係にあると言えるだろう。記憶を外部に依存しているのにも関わらず実際は何の違和感も生じていないのは、それが皮膚よりも深い所にあるかどうかの問題ではなく、いつでも利用可能かどうかの問題だからだ。その点において、私達は紙を含んだ一回り大きな人間になっていると言える」
「『拡張する心』、というわけか?」
「核心に触れたな」
 どきっとする。彼女の耳がピンと立ったのを私は見逃さなかった。
「道具によって私達は手軽に進化出来る。記憶の容量を増やすために何万年も費やす必要もない。赤外線を感じるために遺伝子を弄る必要もない。他者と共存するために規模を小さくする必要もない。恒常的なシステムを維持したまま拡張することさえ出来れば、何にでもなることは可能だろう」
「……それで、私達はどうするんだ? これでは、私達は何にでもなれるが、どのようになるのかは示されていない」
「考えてみよう」
 それが私達の仕事だ、と執務室の扉のロックを解除したケルシーが言った。
「簡単に考えれば、私達は鉱石病に適応した『ホメオスタティックな変化』が出来れば問題を解決することが出来る」
「簡単に、ね」
「酸素をエネルギーに変換する為に利用する力を自然淘汰ですら身に着けた、という事実は考慮すべきだ」
「……それはロドスが描くシナリオなのか?」
「あくまでその一つに過ぎない。広く見れば、ワクチンもそれに含むことが出来る」
 
設定資料
/何を書くか?
→短編(5000文字程度)     ケルシー
→多分ケルシーとラテラーノという国家について話すss
→ラテラーノは現実における「ラテラーノ条約」のことを指していると推定され、ローマ教皇庁がイタリアとこの条約を締結したことによりバチカン市国が建国された
→しかしテラ世界ではイタリアにあたるシラクーザとは地理的に距離が離れており、独立する母体となる国が存在しない(ラテラーノ、シラクーザ、シエスタはイタリアを分割した国家と思われる)
↑そんなに離れてなかった やっぱり独立したのかな?
(アンディ・クラーク『生まれながらのサイボーグ』を読んだので活かしてみたい)
→人間の脳は非常に可塑性が高く、どこに情報が存在するかについては気にしない「ご都合主義」である
→テクノロジー/道具との親和性は、それを「使用する」のではなく「一体化する」ことを意味する
→言葉が私達の思考を拡張し、紙とペンが計算の限界を拡張したように、私達が記憶を外部に依存することに何の問題があるだろうか?
→古典的なサイボーグのイメージである「接続された人間」は誤謬。私達の体のどれほど深くまで電子機器を埋め込めることが出来たかどうかが問題ではないのは、その電子機器を自由に、自己の一部として使えるかどうかがサイボーグの問題であるから。猫に埋め込まれた識別用IDタグはサイボーグを成すにはあまりにも脆い
→「透明な技術」というのは、イラストレーターにとってのペンであり、サッカー選手にとっての脚とボールであり、プロゲーマーにとってのマウスとキーボードのことである。これらの人々はそのデバイスを使用する際、それを通して物を感覚し、自らの手足と同じものとして扱うことが出来る。
→「不透明な技術」というのは、私達にとっての近年の個人用プリンターであり、マウサーにとってのコントローラーであり、生粋のスマホユーザーにとってのパソコンである。私達はそれらの為に意識を割く必要があり、面倒に感じられ、思うように動かせない。
→サイバネティクス的な観点から見ると、サイボーグは新たに重層的な恒常性を維持するシステムである
→人体の体は明らかに平衡状態からの逸脱に対して元に戻る様に出来ている
→私達は存続の為に文化を生み出し、拡張したのではないだろうか?
/問題→これをどうやって活かすのか?
・アークナイツ世界の技術的レベルはまちまち。圧倒的なホログラム技術や移動都市を動かせる規模のエンジンを有しているのにも関わらず航空機の存在は一般的ではない。
↑やっぱり分からない。メインストーリーでも車両が先頭に絡んでいる描写は少ない
・サンクタは銃を保有している。彼ら/彼女らの技術的習熟度は正にサイボーグと呼べるほどに発達している可能性があるという仮定?
・銃がサンクタにしか使えないのは「透明な技術」として使うために必要な条件があるから?
→ではそれは何か?
 ・反動制御、照準、規律?
・ラテラーノは厳格な法律を有する。銃の登場は現実世界ではパワーバランスを大きく変える原因になったが、テラ世界では均衡を保っているように見える
 →ラテラーノは銃を規制するルールによって成り立っている国家なのか?
  →ではなぜ規制しているのか?
   ・銃を規制すれば人口も規制出来るのか?
・銃という概念は何を変えたのか?
→適正距離、統一規格、偶然性の減少、前時代的なドクトリンの一掃
 →敵国に対する概念的距離の拡大?
 →均一的な兵士を生み出すことが可能になった?
 →技術力による競争と国の工業力が戦争の勝敗を決めるようになった
 →戦争の高コスト化(以前から大量の男/若者を使うというコストはあったが……)による「総力戦」の始まり
・「移動都市」という大きな例外
↑正直コイツのせいで色々変わってる気がしてきた。移動都市はその上にいる人々に「領土」の存在を強烈に意識させる作用を持つだろう。種族ごとに分かれて生活することを現実よりも圧倒的に簡単にしている
・エクシアの資料では、銃は『銃の殺傷力は特別突出しているというわけではないが、他の冷兵器よりもラテラーノ人の慣習に合っていたため、ラテラーノ人は皆「守護銃」として銃を身につけるほど、ラテラーノでは人気の武器となっている』という記述がある
↑意味が分からない。銃はアークナイツ世界において革命ではないのか
→本来なら大量の銃を独占的に保有しているラテラーノはテラ世界で最強の国家になる
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Iky
コメントはいつでも良いぞ!
70:12
Iky
移動都市についてガッツリ掘り下げてみたいけど今日はこんな感じで。
70:35
Iky
じゃあの
134:06
Iky
おしまい
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