音声配信にしたくせにしゃべるのが恥ずかしくなった…
ので、無言でやります。
オリジナル・二次創作を問わず、文章自体を書いていないので、今回はトレーニングです。
モチーフやあらすじが決まっているおとぎ話を自己流で書きます。
今回は楽しさ優先、好きなお話の好きな場面を好きなだけ書きます。
とんじる食べながらなのでゆっくりめかも。
では書きます。
「さあシンデレラ、目を開けて!」
言われた通りに目を開いてみると、胸の前で祈るように組んでいた両手が目に入った。シンデレラは息をのむ。水仕事で荒れている自分の手を、繊細なレースの手袋が覆っているのだ。
シンデレラは両腕を広げた。それは今まで憧れるばかりだった、例えようもないほど美しいドレス。今までに見てきたどんなものよりも素晴らしい。今自分が身につけていることなんてすっかり忘れて、シンデレラは夢中でドレスのあちこちを観察した。見れば見るほど信じられない。生まれながらの貴婦人だって、こんなに見事な一着は持っていないに違いない。
きょろきょろと自分の体を見回すシンデレラに笑いかけ、魔法使いは指を鳴らした。大きな姿見がシンデレラの前に現れる。シンデレラは、生まれて初めて鏡に映る自分に見惚れた。そこには、毎日休む間もなく働いて暖炉の灰をかぶっていた見すぼらしい娘はいない。ろうそくの明かりでまばゆいばかりに輝くドレスを着た彼女は、生まれ変わってまったくの別人になったようだった。
「シンデレラ、足元を見てごらんなさい」
目を落とすと、見慣れたぼろぼろの木靴は消えていた。代わりにシンデレラが履いているのは、きらめくガラスの靴だった。すぐに壊れてしまいそうなほど華奢なのに、ずっと履いていたかと思うほどぴったりだ。言葉にしようのない気持ちがこみ上げてきて、シンデレラの目に涙がたまった。
ぱん、と魔法使いが手を叩く。彼女は今まで通り、明るくきびきびした声でシンデレラに言った。
「さあ、ぐずぐずしていてはいけませんよ。外に馬車が待っています。今すぐお城へ向かいなさい。午前零時の鐘が鳴ったら、魔法は解けます。必ずそれまでに帰ってくるのよ」
感謝を込めて魔法使いを抱きしめると、シンデレラは外へ出た。そこには二頭立ての馬車がとまっている。シンデレラは目を瞬かせた。静かに待っている二頭の馬の毛並みは白く美しく、客車は丸くずんぐりしている。その形は畑のかぼちゃを思い出させた。
胸を高鳴らせて馬車に乗り込む。見送る魔法使いに手を振ると、御者の掛け声で車が動き出した。
気づかないうちに、シンデレラは手をぎゅっと握りしめていた。これからどんな景色を見ることになるのか、限りなくふくらむ期待に胸を躍らせながら。
お城の舞踏会は今回も豪華だが、それも中盤に差しかかると倦怠感が漂い始めた。優雅な音楽や美味しい食事はいつもと同じで、あっと驚くような楽しいことがない。すっかり恒例行事になった舞踏会に集まるひとびとは、誰も顔には出さずとも飽きてしまったのだった。
白けた雰囲気に拍車をかけるのは、舞踏会の主人公ともいえる王子に元気がないことだった。きっと、会場にいる誰よりも疲れているのに違いない。何をしていても心ここにあらずといった調子で、舞踏会は盛り上がりを失っていた。
「そろそろ帰りましょうよ、姉さん」
シンデレラの末の姉はうんざりして二番目の姉に言った。
「これ以上ここにいたって、しかたがないでしょう?」
二番目の姉はうなずいて、階段をのぼった先にある大きな扉を見あげた。
「何があったか知らないけれど、王子があんな顔してるんじゃ踊る気になんかなれないわ。姉さんを探しに行きましょう。早く帰ったら、シンデレラはびっくりするでしょうね」
「やることなんて全部終わらせてるわ、よく働く子だもの」
いちばん上の姉を二人が見つけると、彼女はじっと階段の上を見つめていた。けれど、よほど早く帰りたいのだと思って声をかけると、首を横に振った。
「二人は先に帰るといいわ」
「どうして?」
「何か起こりそうな気がするの」
それ以上は何も言わず、長女は二人の妹に尋ねた。
「シンデレラは、今ごろ何をしているかしら」
きょとんとする次女の代わりに三女が答える。
「家で働いているんでしょう?」
「……そうね」
――数分後、会場の雰囲気が一変した。
いったい、誰が最初に気がついたのか。大きな扉が音もなく開かれ、冷えた夜気と一緒に入ってきたそのひと。そろそろと階段に近づき、手すりにそうっと手をかけた。階段を下り始めた時には、会場にいたすべての人がそのひとに注目していた。ゆるく螺旋を描く幅の広い階段を、そのひとはゆっくり踏みしめるように下りていった。ざわめきにあふれていたダンスホールは水を打ったように静まり返った。
三姉妹はそれぞれ言葉を失っていた。噂話も品定めも、この時ばかりは一言も出てこない。来る人来る人の衣装を見てはあれこれ品評を始める次女は、ただ目をまんまるに見開いていた。ふだん何事にも動じない長女でさえ、思わず息をこぼした。三女はぽかんと口を開けていた。
しずしずと歩みを進めるそのひとがどこの誰なのか、ホールにいる中の一人も知らなかった。ただ、突然現れたそのひとが、純白のドレスときらめく靴を身にまとい、宝石のように輝いていることだけが彼らに理解できたのだった。
王子も例外ではなかった。そのひとを目にした瞬間、瞳には光が宿り体に力がみなぎった。王子はそれまで力なく座り込んでいた椅子から勢いよく立ち上がった。がたん、という大きな音が、しんとしたダンスホールに響き渡った。
まるで夢の中にいるようだ。見るものすべてに心を奪われながら、シンデレラは会場の真ん中まで進み出た。音楽が鳴っていないことにも、人々が自然と道をあけてくれることにも、その人たちを自分が圧倒していることにも気づかないまま、シンデレラはゆっくりと辺りを見回した。着飾った人たち、豪奢なダンスホール。吊り下げられた大きなシャンデリアが真上からシンデレラを照らしている。夢見心地になって、興奮で頬を染めるシンデレラの前に、王子が姿を現した。
「初めてお会いしましたね。ぼくと踊っていただけますか?」
返事の代わりに、シンデレラは王子が差し出した手に触れた。王子は優しく握り返す。
二人は踊り始めた。広いホールの中央で、音楽は二人だけのために奏でられた。
聞きたいことが山ほどあるのに、驚くばかりで言葉にならない。どこから来たのか、なぜ、今日突然訪れたのか。また来るのか。質問が次々頭に浮かんでは、目が合った瞬間に消えていく。ステップを踏みながら、王子はやっと、目の前ではにかむひとに言葉をかけた。
「あなたは、どなたなのでしょう。名前を教えてくれませんか」
返ってくるのは微笑ばかり。シンデレラは答えに迷いつつ、答える余裕もないほど夢の世界に酔っていた。彼女が浮かべるあいまいな微笑みを、王子は緊張と照れくささの表れだと受け取った。
「ダンスがお上手ですね。今までは、どちらの舞踏会に?」
ガラスの靴を履いているからだとしか、シンデレラには答えようがなかった。踊ったことなんて一度もないにも関わらず、足が自然に動くのだ。これも魔法のおかげなのだろう。シンデレラはガラスの靴を見てから、我知らず王子の目をじっと見つめた。
それまで優しかった手の力が、ぐっと強くなった。王子の胸に疑うことのできない予感が浮かんだ。今日の舞踏会は、このひとのためにあったのだ。このひとがやって来ることだけを、自分はずっと待っていたのだと。それは、何があってもこのひとと結ばれようという強い決意に変わった。
「もう何もお尋ねしません。今夜は、このままずっとぼくと踊っていてください」
シンデレラの唇から吐息がこぼれた。声もなく、彼女はただうなずいた。生きてきてこれほど幸せな時間がまた来るだろうかと、手袋越しに伝わる感触と止まらない幸福感をただ噛みしめていた。
午前零時の鐘が鳴るまで。
シンデレラは息をのんで動きを止めた。長く響くその音は、間違いなく幸せな時間の終わりを告げていた。残酷な音色に打たれたようになったところで、どうにか王子の手を振り払った。
「どうしましたか」
「もう、帰らないと」
王子がとまどいながら手を伸ばす。またその手を取りたい気持ちを強く押し込めて、シンデレラは出口へ続く階段へ駆け出した。
シンデレラが姿を消すと、王子は何が起こったか分からず立ち尽くした。待って、と叫んだ自分の声が耳に張りついている。ようやく我に返ったところで、ついさっきまですぐそばにいたひとを追いかけるため走り出した。
「待ってくれ!」
会場の広さが無限のものに思われた。揺れるドレスの裾を追い、出口へと下る階段にたどり着く。もうじき下りきろうかという彼女を見た時、王子は棒をのんだように動けなくなった。
最後の段を下りたところで、高い音がした。呆然としていた王子がやっと気づくと、階段の下には誰の人影もなく、ただ一足の靴が転がっていた。
靴を見つめて、王子は階段を下りていった。窓から月明りが射して、ガラスの靴をきらりと光らせた。
無言のまま、王子は靴を抱え上げた。ほんの少しの力で簡単に傷ついてしまいそうなその靴は、突然現れて消えた運命のひとそのもののようだった。
おしまい。
>コメントありがとうございます
>逃げるときに階段を下りながら靴が脱げるんだったら、会場に入るときは階段を上るのでは…?
>別の階段ってことにします。これはのすけ版シンデレラです
>鐘が鳴ったら一瞬で魔法が解けるんだっけ
>強力な魔法だから解けるまで時間がかかるんですね、これは