「見合いだぁ?!」
 史上最低の寝起き声にも、ラギーは動じなかった。
「そうッス。こないだ話したのに、レオナさんまぁた聞いてなかったんスね」
「知らねぇよ。ていうか、たとえ聞いてたって俺がそんなもの了承するワケないだろ。何考えてやがる」
 レオナが都合の悪い話を聞いていないのにも、やりたくないことにゴネるのにも慣れっこのラギーは、レオナのマグにコーヒーをどぼどぼ注ぎながら勝手に説明を始めた。
「アストラン公国の第三公女サマが、結婚相手見つかんないって言ってんスよ。お父上が言うには、まぁとりあえず見合いして、レオナさんはフってくれてかまわないって。要するに、公女サマはモテるから競争率高いぞ~っていうアピールをして、誰か引っかからないかってことらしいッス。公女サマがなかなかの曲者で、結婚に興味ないから困ってるってお父上がこぼしてて」
「んな当て馬みてぇなことできるか。ったく、王家の結婚をなんだと思ってるんだ。あんな弱小公国相手に結婚する気もない見合いなんかやったら、実家から何言われるか……」
「あ、ご実家には許可取りましたよ~。お義姉さんから、『見合いでもすれば少しは身を固める気になるかもしれないから、どんどんやって欲しい』っていうアリガタ~イお言葉を頂いたんで、レオナさん行ってきてくださいッス」
「はぁあ?! お前、根回しまでしたのか!」
「あったりまえじゃないスか。これで向こう5年間のアストラン公国元首サマ御一家のセキュリティはうちの専属契約! いや~大口を勝ち取ったあかつきには、もうちょい人員を増やしたいとこッスね。シシシッ」
 レオナは呆れた顔でコーヒーに手を伸ばした。金のためなら社長まで叩き売るラギーの徹底ぶりは、わかってはいてもギョッとさせられる。
「気軽なランチをご一緒に、っていうテイなんで、スーツは出しときました。まだマシなんスからね。公務で御一家がこっちに来るのに合わせたんスから。そうでなかったら交通費が高くついたから、ちょうどよかった~」
「いや……俺が便利かどうかじゃなくて、交通費がかかるかどうかで物事判断してんじゃねぇよ……」
 デカいベッドには、6月初めの日差しが射し込んでいる。あまり暑くならないこの地方では、散歩にちょうどいい季節だ。時計を見ると、まだ7時。
「昼飯ってことは、待ち合わせ何時だ?」
「12時半にカリヨン・ホテルのロビー。レストランの席は13時に押さえたッス。うちのチームがもう警備に入ってるんで、リムジン出して11時半に大使館でご両親と公女サマをピックアップ、レオナさんは11時40分に出発、12時20分にロビー着ッス」
「……じゃあまだ時間あるな」
 コーヒーをサイドテーブルに置くと、レオナは毛布をかぶった。
「ちょ、なんで二度寝しようとしてんスか!」
 ラギーが毛布を引っ張る。
「オレ今日はモルバラ侯爵サマんとこの警備の応援で、8時半のフライトに乗らなきゃなんないんスよ。レオナさん!」
「わかったわかった。安心して行ってこい。ここからカリヨン・ホテルまでなんて20分で行けんだろ」
「マジホイで信号無視すんの前提で話さないでくださいよ。スーツでマジホイ飛ばすつもりッスか」
 面倒そうな唸り声をものともせず、ラギーは毛布をひっぺがした。
「遅刻厳禁! 今からシャワー浴びて、仕事もして、頭シャキッとさせてから行かないと、居眠りしてる間に縁談まとまっても知らないッスからね!!」
「…………」
 眠気と縁談。レオナはうんざりした半目でラギーを見た。適当な返事で物事が決まるのは、確かによろしくない。それが縁談であればなおさらだ。
 ただ……眠い。
「わかった……起きるからあと10分……」
「ダメ! 今すぐ! 起きる!」
 無慈悲だ……。
 レオナはしぶしぶ身を起こした。尻尾の先でシーツをぺしぺし叩いて、精一杯の抗議をアピールする。ラギーはコーヒーをレオナに押しつけながら時計を見た。
「ったく、それ飲んだらシャワー浴びてきてくださいッス。あと、今日中に決裁しないといけない書類はデスクに積んでおきました。あれ全部やってから行ってくださいよ!」
 ラギーは腰に手を当ててレオナを見張っている。レオナはコーヒーを飲むと、しぶしぶベッドから下りた。大あくびをしながら、のそのそとシャワールームに向かう。
 広い部屋を半分行った辺りで、レオナは寝間着にしているボトムスのウエストに指を入れた。ゆったりした滑らかなシルクの下はハナから履いていない。上も何も着ていない。尻尾をしゅるりとボトムスの後ろ穴から中に入れると、そのまま尻尾と指で下げる。
 足首に引っかかったボトムスをぽいと足先で放った瞬間、ドエライ勢いでドアがノックされ、返事も待たずにバァンとドアが開けられた。
「叔父上!」
 満面の笑みで部屋に乱入してきたのは、チェカだった。
「はわわわわごめんなさい!」
 ドアを全開にしたまま、チェカは棒立ちになった。これはさすがにヤバいということは理解したらしい。レオナもぎょっとした顔のまま固まっている。
「あの、ごめんなさい……」
 チェカはもう一度言いながら、目を丸くしてレオナの全裸を見ている。
「……ドアを、閉めろ」
 ドスの効いた声でレオナが言うと、チェカは焦ったようにドアを閉めた。が、自分は内側だ。
「いや部屋から出てけ! なんで中に入ってくるんだ」
「えっえっだって叔父上あのその……ハダカ」
「だから出てけって言ってるだろ!」
「えっでもハダカ」
 お互いに硬直したまま意味のない会話を繰り返そうとしたところで、ラギーが割って入った。レオナにバスタオルを押しつける。
「は~いそこまで。レオナさんはあっち、チェカくんはそっち」
 ハッと我に返り、レオナは腰にバスタオルを巻き、憤然とバスルームへ消えた。チェカは背負っていた小さなリュックを下ろし、指差されたソファへおとなしく座る。
「チェカく~ん、王宮で同じことされたらどう思うんスか? もう18なんだからその辺考えた方がいいッスよ」
「はい……」
 しょんと耳が垂れている。ラギーはコーヒーをマグカップに注ぎ、砂糖と牛乳を一緒にテーブルに置いてやった。
「まったく……部屋の真ん中ですっぽんぽんになるレオナさんもレオナさんッスけどね」
 無言のまま、チェカはコーヒーに砂糖を3杯入れ、牛乳を注いだ。カフェオレを通り越した牛乳コーヒーにすると、チェカはそれを一気飲みする。
「申し訳ありません……レオナ叔父上の裸が綺麗でしたので、つい取り乱しました」
「それ本人の前で言わない方がいいッスよ」
「わかってます」
 ラギーは溜息をつくと、腕を組んだ。
「で? 何でいきなり、こんな朝っぱらから来たんスか。学校は?」
「サマーホリデーが3日前から始まったんです。それで父上の公務についてこちらへ来ました。昨日の移動中に車の中からすごく楽しそうなカフェを見かけて、今日はそこへ行ってみたいって思ったんですけど、絶対ダメだって言われて」
 チェカは口を尖らせた。予定を変えれば、警備態勢も変わる。父王とセットで警備を組んだのなら、別行動をするにはそのためにチェカ専用のチームを新たに作らなければならない。
「カフェに行きたくて、警備振り切ってきたんスか?」
 チェカは申し訳なさそうに目を伏せた。やれやれ。行き先がここだから良かったが、そうでなければ大騒動になっているところだ。どうせGPSで居場所はバレているだろうし、賭けてもいい、この屋敷の周囲にはすでに警備チームが到着している。
「……いきなり飛び出てくるんじゃなくて、警備チームとかと話し合わなきゃダメッスよ。あとどっか行きたいんなら自分でレオナさんと交渉するんスね」
「はい」
 素直な目でラギーを見て、チェカは神妙にうなずいた。ラギーはしばらく思案する。このまま自分が仕事で出れば、レオナはベッドに戻ってまた寝てしまう可能性が大きい。ここはチェカを追い返さずにレオナの見張りをさせれば……。
「チェカくん、オレこれから仕事で出なきゃいけないんスよ。それで頼みがあるんス」
「はい!」
「バスルームからレオナさんが出てきたら、あそこのスーツを着るように言って欲しいんス。あと、書類は今日の夜まででいいんで、チェカくんをカフェに連れていって、それから今日のオシゴトに行ってくださいって伝えてくださいッス」
 チェカの顔がぱあっと明るくなった。
「わかりました!」
「シシシ、おいしいもの飲み食いできるといいッスね。んじゃ」
 手を振ると、ラギーはさっさと自分のリュックを手に取った。この作戦の肝は、レオナがバスルームから出てくる前に自分が消えることだ。
 キラキラした目でバスルームのドアを見張り始めたチェカを置いて、ラギーは静かに部屋を出た。これでよし。今日の夜には大口の契約が一件成立。チェカのことだ。レオナをきっちり見合いの席まで送り届け、あまつさえ真剣に見張ってくれるに違いない。
「シシシ」
 口に手を当てながら、ラギーは足取りも軽やかに飛行場へと屋敷を出ていった。
 カフェは仕事前に朝食やコーヒーのために立ち寄る者で、そこそこ混んでいた。まだ9時前だというのに、人が多い。こんな時間からきびきび動いている奴がこんなにいるという事実に、レオナはうんざりしていた。店内に空いている席はない。まったく。ラギーの奴、二度寝防止にまんまとチェカを置いていきやがって。
「叔父上! 何を飲みますか?」
 カウンターには数人が並んでいて、最後尾についたチェカはメニューに夢中だ。近くのティーンたちがチェカとレオナをちらちら見ているのに気づき、レオナは心の中で舌打ちをした。
「その『叔父上』はやめろ」
「では……おじたん」
「おっまえな」
「冗談です。おじさんは何を飲みますか?」
 席が空いていない以上、持って出ることになる。すぐに飲めて、両手を使わなければならない時に放り出せるもの。
「アイスコーヒー。一番小さいのでいい」
 にこっと笑うと、チェカはリュックの中から財布を出した。この警戒心ゼロの王子に、財布は会計直前まで出すなとここで教えるべきかどうか。迷ったが、言わないでおいた。警備チームがどうせこのカフェの周りにいる。
 チェカは自分の番がくると、目を輝かせて注文した。指差しているのは期間限定のものだ。チョコレート味?のフラペチーノにホイップとチョコレートが載り、さらに苺ソースらしきものがかかっている。
 朝っぱらから甘さの暴力みたいなやつを注文し、レシートを捧げもつと、チェカは受け取りカウンターにしがみつくようにして待った。近くの壁に寄りかかり、レオナは目をつぶる。できれば午前中いっぱい寝ていたかった……。
 決裁の書類を今日中に終わらせないと、ラギーの奴は怒るだろう。午前中がつぶれる以上、帰ってからあの山を片付けることになる。つまり寝る時間が減るわけで。
「おじさん」
 目を輝かせたチェカが、バケツのような自分のドリンクとちっちゃなアイスコーヒーを持って立っていた。山のようなホイップにドン引きしながらアイスコーヒーを受け取ると、レオナは入口へ向かう。
「出るぞ。飲みたきゃ歩きながらにしろ」
「えぇえ? でもこれ、座らないとちょっと無理だと思います」
「おまえな……」
「あ、あそこがちょうど空きました。……ダメですか?」
 上目遣いで聞いてこられて、レオナは溜息をついた。外の石畳に並べられたテーブルなんて、襲われたらひとたまりもない。ものすごいタイミングで立ち去った青年2人を恨みがましく見送って、レオナは仕方なくついていった。チェカとしては、人が本格的に動き始める前を選んで気を遣ったつもりなのだろうが、結局、通勤時間で人が多い。
 チェカはいそいそと空いた椅子に座ると、幸せな顔でうっとりとその凄まじいドリンクを眺めている。それから我に返ると、背中からリュックを下ろして中からスマホを取り出し、写真を撮り始めた。
 やれやれ。
 アイスコーヒーを飲みながら、レオナは道路を見渡した。広々とした道路だが、車の通行量は少ない。道の反対側の警備チームはもう展開を終えているし、こちら側はテーブルの傍に私服のチームが入っている。レオナの思惑通り、いくつかのテーブルは部下がさりげなく占領してコーヒーを飲んでいた。それはチェカを座らせないためだったのだが、計算外のことはいつでも起こり得る。
 チェカはドリンクの見た目をひとしきり堪能し、マジカメにアップした後丁寧にスマホをしまいこみ、リュックを背負い直してからホイップの山に取り掛かった。
 長いスプーンですくってみたり、中をストローで混ぜて飲んでみたり……。
 正直、眠い。
 レオナは例の見合い相手の公女サマとやらの顔は知らない。ラギーが写真を用意してあったかもしれないが、見る気がないから探しもしていない。
 スマホで時間を確認する。やっと9時を過ぎた。時間はのろのろと進んでいる。決済の書類の厚さはかなりあった。ここでチェカが飲み終わったら、兄夫婦の滞在しているホテルへ送り届けて仕事ができるだろうか。
「叔父上、この後大通りのお店に行ってもよろしいですか? 母上の誕生日に買いたいものがあるんです」
 考えたそばから予定をぶち壊されて、レオナはうんざりした。
「だめだ。俺は仕事がある。それを飲んだらまっすぐ帰れ」
「えぇ~? せっかく出てきたんですから、ついでに買い物……」
「行くんなら警備に言え。俺は行かないからな」
「そんな……叔父上と一緒に選びたかったのに。叔父上が選ぶのを手伝ってくださったって言ったら、絶対に母上は喜ぶのに」
 だあああ! うるせえ。
 頭をガシガシかく。こいつ、絶対にそこまで計算に入れて出てきやがったな。変だと思ったのだ。カフェでドリンクを飲むだけにしては強引な行動。要するに母親に内緒でプレゼントを買うのが目的だったということか。
 チェカは全体を少しずつ混ぜながら、ドリンクを飲んでいた。まだ半分残っている。レオナは指先を振って警備チームを呼んだ。近くにいたリーダーが近づいてくる。
「車を回せ。チェカ、どこに行きたいんだ」
 チェカはぱっと嬉しそうな顔になった。
「大通りの、練り香水のお店です。え~と名前は……」
 スマホを取り出そうとしたチェカを無視してレオナは指示を出した。
「大通りの『エリノア』に向かう。10分後に出るぞ」
 うなずいたリーダーが無線に手を伸ばした。
「えっ叔父上、お店の名前を知ってるんですか?」
 その答を言おうとした時、右の視界の隅に何かが侵入した。建物の陰から猛スピードで車が出てきたのだと認識する前に、レオナは動いた。
「ふせろ!」
 チェカをひっつかんでテーブルの下へ引きずりこむ。黒いワゴン車がテーブルの傍に横づけされ、後ろのドアが一気に開く。そこから突き出たのは──
 レオナはテーブルを蹴り飛ばして盾にすると同時に、覆いかぶさるようにチェカを抱え込み、店内へ走った。ドンドンドン! と空気を揺るがすサブマシンガンの銃声が、圧倒的な質量で耳を襲う。ばらまかれる空薬莢の乾いた金属音がうるさい。
 中に入ると同時にレオナはチェカを抱え上げ、店内を走り抜けた。カウンターの向こうにチェカを放り込み、自分も手をついて飛び越える。
「くっそ……」
 ショルダーホルスターから9ミリを抜き、レオナは銃声が途切れるのを待った。チームが応戦している銃声が聞こえる。やっぱり外はやめておくべきだったんだ。とっさのこととはいえ一般人に被害を及ぼした自分の甘さに毒づきながら、レオナは身をかがめてカウンターの隅まで行き、様子をうかがった。
 店内の者たちは真っ青な顔で縮こまっている。中にはきちんとテーブルの下に伏せて震えている者もいた。動かないのがひとり……。
 外のテーブル席はほとんどが自分の会社のチームだったので、一般人の被害はない。ただ、部下が数人地面に転がっている。
 ワゴン車の後部からサブマシンガンの銃口が引っ込み、代わりに目出し帽をかぶった奴が顔を出した。こちらを見ている。耳が突き出ていないところを見ると獣人ではない。
 そいつは耳に指を当てた。インカムらしきものに話しかけている。
『裏を見張れ』
 人間には聞こえないかもしれないが、レオナには、そいつの声がしっかり聞こえた。裏には抜けられない。指示を出した奴は淡々とマガジンを取り替え、再びサブマシンガンを構えている。こっちが頭を突き出した瞬間に撃つつもりだ。自分のチームは、一般人に危害を加えないために、攻撃せずにいる。
 目出し帽の奴は、こちらに狙いをつけたまま声を張り上げた。
「聞こえているか? おとなしく両手を挙げて、表に出てこい。ガキと獣人、お前ら2人だ」
 ちっと舌打ちをして、レオナは思案した。
 スモークフィルムを貼ったデカいワゴン車は、普通に考えれば拉致にも使う。
 ここで店を蜂の巣にしないところを見ると、向こうはこっちの生け捕りを狙っている。自分の方を殺してチェカをかっさらうつもりだったのかもしれない。出ていかなければ一般人を撃つだろう。出ていけばチェカどころか実家がとんでもないことになる。
「他の方々に迷惑ですから、僕、出ていった方がいいでしょうね」
 横を見ると、チェカがレオナを見ていた。怯えが見える目だ。声も少し震えている。
「ごめんなさい。最近は何事もなかったし、叔父上にお会いしたいと思ったせいで……」
「反省したなら、次からは警備とよく計画してから行動しろ。やっちまったことは仕方ない」
 しゅんと下を向いたチェカを見ながら、レオナは決断した。
 身をかがめたままカウンターの陰を進んでいき、縮こまって震えている店員を動かして従業員用のドアを開ける。
「おい! そこから逃げられると思っているのか! 撃つぞ!」
 表から鋭い声が飛んでくる。
「わぁかった! 今立ち上がるから、撃つな!」
 レオナは襲撃者にそう怒鳴ると、小声でチェカに言った。
「いいか。俺が立ち上がると同時に、お前はドアから出ろ。絶対に立ち上がるなよ。低い姿勢のまま出たらドアを閉めずに、出てすぐのところで待て。わかったな?」
 チェカはこくんと頷いた。レオナは位置を入れ替え、カウンターの真ん中に戻る。チェカがドアのそばまで移動するのを見てから、レオナはもう一度怒鳴った。
「聞こえてるか! 今立ち上がる。撃たないでくれ!」
「いいから早く出やがれ! 両手をまず見せろ。それからだ」
 レオナは腰の後ろに9ミリを差した。それから、命令されたとおりにまず両手をカウンターの上に突き出す。
 ゆっくり、ゆっくりと両手を挙げたまま身を起こし、膝を伸ばしていく。向こうは撃ってくる気配はない。
 顔がカウンターから出る。襲撃者の目が見えた。
 レオナはその瞬間に腰から9ミリを抜き、襲撃者の顔を撃った。そいつは車の中へ叩きこまれる。別な手が焦ったようにドアを閉め、ワゴン車は猛スピードで走り去った。後ろから、警備チームの車がタイヤを鳴らして追っていく。
「バカ、追うな!」
 レオナが怒鳴ると同時に、通りの向こうで爆発音が轟いた。おそらくロケット砲。レオナはカウンターを左手で一発ガンと殴ってから、後ろにある従業員用のドアを抜けた。
 表には戻れない。この手際の良さからいけば、狙撃手がこちらを見ている可能性がある。
 ドアの陰に、チェカが丸くなっていた。
「行くぞ」
 レオナはそれだけ言うと、大股で廊下を抜ける。裏口の方ではなく、ビルの総合搬入口の方へ向かうと、レオナは荷物を運ぶエレベーターのボタンを銃口で押した。戻ったら、徹底的にすべて見直してやる。
 チェカが走ってくるのを確認し、ショルダーホルスターに9ミリを戻す。エレベーターが来ると、レオナは乗り込みながらスマホを出した。チームリーダーに電話をかける。
「被害状況は」
『最初の襲撃で一般人の被害が出ています。重傷1名、軽傷3名。すでに魔法士が治癒に入っています。チームは2人やられました。車両はロケット砲で砲撃されましたが、中にいた3人は飛び出して軽傷です。狙撃手の位置は特定、現在ベータチームがそちらを押さえに行っています』
「よし。俺はこのビルの中で待機、裏口付近の安全が確保されたら知らせろ。そちらから出る」
「了解」
 通信を切り、スマホをしまう。
「叔父上……」
 チェカは申し訳なさ全開でエレベーターの隅に立っていた。ジャケットの裾を握り、うつむいて泣きそうな顔になっている。
 レオナは溜息をついた。
「いいか。後悔するぐらいなら、この経験を絶対に忘れるな。お前が考えなしに行動することで、誰が死ぬのかをよく見ておくんだ。暗君になりたくなければ、一度の失敗で自分の立ち回りを覚えろ」
 チェカは下を見たまま頷いた。
 エレベーターが開く。レオナは最上階へ足を踏み出した。
 最上階から屋上へ階段を上ると、レオナはチェカを階段室に残して屋上へ出た。ざっと見渡し、まず、狙撃手のいそうな所を探す。ここより高いビルはいくらでもあるが、狙うとすればどこからか。
 はたして、一番使えそうな場所に自分の会社の連中が向かうのが見えた。
 あっちは大丈夫だ。
 縁に沿って下を見ていく。裏口の近くに黒いワゴン車が止まっているのが見えた。チームリーダーが対処するはずだ。待っていると、ワゴン車の死角から数人が近づいていく。
 あれが終わればビルを下りられる。
 チェカの安全を確保したら、犯人を探すために警察とやり取りして……。
 そんなことを考えていた時だった。
「叔父上!」
 階段室の方からチェカの声が聞こえた。ほとんど同時にドアが開き、転がるようにチェカが出てくる。その後ろから、スーツ姿の男が3人、飛び出てくる。
 咄嗟にレオナは9ミリを抜き、リーダーらしき男に狙いをつけて構えた。チェカは必死で走ってくると、レオナの後ろに滑り込む。男たちはレオナを見ると立ち止まった。
「……お前らの目的は?」
 レオナに銃を向けられた男は、バカにしたような視線を向けた。ダブルストライプのスーツは男に似合っていない。しかも着崩しているせいで、ガラの悪さが丸出しだった。
 そいつはやれやれという感じで両手を上げ、横柄な口調でレオナに言った。
「いやね、その坊ちゃんにちょっと話がありましてね。おとなしくこっちに来てもらえりゃ、別に何もしやしないんで」
「目的は何だと聞いている」
 ドスを利かせて質問を繰り返す。動じない態度のレオナに、男は舌打ちをして目を細めた。
「あんた、坊ちゃんのボディーガードかい。ご苦労なこった。おとなしくしてりゃ、あんたは生きて帰してやるからさ。オレらはちょっと坊ちゃんに用がある。それだけだ」
 手下らしき2人の男が、両側からじりじりとレオナに近づく。チェカがレオナのスーツの裾を握りしめた。
「仕方ないな」
 レオナは溜息をつき、9ミリをショルダーホルスターに戻した。
「へぇ。物分かりがいいじゃねえか」
 リーダーがせせら笑う。手下がレオナの腕をつかもうとしたその瞬間、レオナはふっと重心を下げた。右の男の首に回し蹴りを叩きこみ、残りの2人がひるんだ隙にチェカを自分の肩に投げ上げる。
「待て!!」
 誰が待つか、アホが。
 チェカを軽々と担いだレオナは大股で走り、屋上を蹴った。びょおおという風が耳に沿って吹いていく。
「うわあああああ」
 パニックを起こしたチェカの声だけが屋上に残る。男たちが縁へ駆け寄った時には、レオナは遥か下を飛んでいた。
 隣のビルの屋上は5階下だ。レオナは着地寸前に魔法を展開し、ふわりと着地した。
 そのまま走り、階段へ続くドアへたどりつく。ドアノブを一瞬で砂にして、中へ入る。奴らがビルから下りる前に逃げ切ってやる。
 レオナはそのまま、物も言わずに非常階段を駆け下りていった。
 一気に一階まで下りると、レオナはチェカを下ろして廊下をたどり、裏のドアから外をうかがった。
 裏通りには、まだ黒いワゴン車が見える。低い姿勢で銃を構え、警備チームが今まさに突入するところだ。全員が連携を取り、運転席と後部座席を同時に押さえようと動いている。
「チェカ……反対側を見張れ」
 レオナは正面入り口の方を指さし、自分はそのまま裏通りを見続ける。突入は血なまぐさいものになりかねない。それをチェカに見せないためだった。
 チームが低い姿勢から一斉に立ち上がり、窓ごしに銃を中へ向ける。
「窓を開けろ!」
 怒声が響く。もう少し……。
「叔父上」
 ワゴン車の中で、運転手が両手を上げるのが見える。後部座席のドアがチームによって開けられ、中から引きずり出された男が地面に伏せて両手を見せるよう指示されている。
「叔父上……」
「どうした」
 振り向いて、レオナはぎょっとした。
 スーツを着た2人組がこちらへ向かってきている。オフィスビルの中だから、ここで働いている者かもしれない。そう思ってはみたものの、彼らは明らかにまっすぐチェカを見ている。
 どうしてだ。あぁ……そうかGPS。
 気づいてレオナは舌打ちした。自分たちの居場所が敵に筒抜けなのだ。
 2人組はレオナに見えるように両手を上げて近づいてくると、胸ポケットを指差した。
「取り出してもいいかね?」
 無言のまま9ミリを出してから、レオナはうなずいた。
 2人のうち年上の方、40代ぐらいの男は、ゆっくりと胸ポケットからバッジを出した。
「こちらは警察です。先ほどの爆発について、うかがいたいことがありましてね」
 目を細めて、レオナはじっと2人を見た。
「……我々がその爆発に関係あると、なぜ思った?」
「それはその、目撃情報がありましてね。10代の少年と30代の男が現場から立ち去ったと」
「へぇ。で、それがなぜこのビルの中にいると考えたんだ」
 困ったように年上の男は笑った。
「なぜって、別に理由はありませんよ。捜査が始まっておりまして、この周辺を手分けして我々が見回っておりまして」
「制服がやるんじゃないのか? そういうのは」
 若い方の男がイライラしたようにチェカを睨んだ。
「とにかく、関係者を探しているんです。ご同行願えませんかね」
「こっちは爆発を見ていない。なぜ、現場とは関係のない俺たちが関係者だと思うのか、そこを説明してもらわないとな」
 9ミリを構えてやると、2人はひるんだように両手を上げた。本物の警察官なら、撃つのはマズい。横目で裏の状況を伺うが、ガラスドアが反射してしまっていて、どうなったのかが見えない。
 さてどうするか。
 その時、チェカが一歩踏み出した。
「あの、バッジを見せていただけますか?」
 年上の男は、えっという顔をした。無言でチェカを見つめてから、バッジを渡す。
 チェカはバッジの裏を見た。
「本物のようですね。では叔父上、この方たちに従いましょう。どこへ行くのですか?」
 堂に入った態度に、2人組は面食らったようだ。
「あ、えぇと外に車がありますので」
「わかりました」
 チェカはレオナの顔を見た。
「行きましょう。外へ」
 なるほど、信用したという態度でおとなしくついていけば、とりあえず堂々と外には出られる。
 レオナは銃をしまうと、チェカの後ろに立った。
 2人組は表のドアへ向かう。
「叔父上」
 ふりむいたチェカが小さな声でレオナを呼ぶと、2人組に見えないように指を振った。右?左?
 レオナはそれに答え、さっと指を左に振る。
 了解です。
 にこりと笑ったチェカが何事もなかったように2人組についていく。
 自動ドアが開き、2人組が歩道に出た瞬間、チェカは左へ走りだした。
「あっおい!」
 2人組の視線を遮るように、レオナはチェカの後ろを走る。
 全力で走って、さっとブロックを回りこむ。チェカはそのまま走る。
「待て!」
 声が聞こえる。ダメだ、逃げてもまた見つかる。
 瞬時にレオナは身を沈めた。
 先に追いついた若い男の顎に一発、続けて年上に足払いをかけ、地面に叩きつける。
 あっという間に2人を気絶させると、レオナはチェカを呼んだ。
「チェカ!」
 ぱっとこちらを見たチェカが立ち止まる。気絶している2人組に目を丸くしてから、チェカはこちらに戻ってくる。
「どうですか? 僕の作戦」
「まぁ、ほめてやる」
 嬉しそうに笑うと、チェカはレオナにいたずらっぽい顔を向けた。
「で? 次はどなたがいらっしゃるんでしょうか」
「お前、楽しんでねぇか?」
「いえいえそんな、叔父上がカッコいいなんて思ってませんよ」
 溜息をつき、レオナは次の一手を考えるために歩きだした。
 
 人が多い通りに入ってからも、レオナとチェカは歩き続けた。このままじゃダメだ。向こうはこっちの居場所を即座に見つけてくる。逃げようがない状況では、追手の正体を突き止めることもできない。
 警備チームに電話をして車で迎えに来させるべきだ。それはわかっていた。だがまずは……。
「チェカ。スマホとペンダント寄こせ」
 はっとしたように、チェカが顔を上げた。執事に持たされたペンダントにGPSが仕込まれているのは、自分でもわかっているのだ。チェカは素直にそれを外してレオナに渡すと、リュックを下ろして手を突っ込んだ。
「……捨てるんですか」
 それに答えず、レオナは考える。一番手っ取り早いのは電源を切ること、そして捨てることだ。だがもし、追手の正体につながるヒントや証拠が入っていたなら?
「捨てはしねぇ。とりあえずお前の父親に電話をかけろ」
 ほっとした顔でスマホを取り出すと、チェカはロックを解除して父王に電話をかけた。呼び出し音が数回して、向こうが応答するのが聞こえる。チェカは自分がレオナと一緒であることを言葉少なに説明すると、レオナにスマホを渡した。
『レオナ。先ほど街で爆発があったという報告が上がってきている。関係があるのか?』
「あぁ。襲撃を受け、追われている。現時点でチェカは無事だが、どうもGPS情報を抜かれている形跡がある。今後、ペンダントとスマホを処理する必要がある」
『なるほど。チェカをこちらに戻せるか』
 チェカの腕を掴み、歩きながら後ろを振り向く。ビルの陰にひとり。道の反対側に2人。
「まだ無理だ。追手が来ている。そちらで犯人を捜査できるか」
『やってみる。……お前の方から捜査はできないか?』
「アホ抜かせ。俺はクーデターに加担したがる連中をすべて切った。もう一度渡りをつけたら、それこそ俺が首謀者だと、お前の側近共は色めき立つ」
 電話の向こうで含み笑いの気配がした。
『わかった。私の方で心当たりを探ってみる。チェカを頼む』
「また連絡する」
 通話を切りスマホの電源を切ると、レオナはチェカを連れて大股で歩き続けた。止まったら襲撃される。今すぐスマホとペンダントを放り投げて走ることができれば楽なのだが。
 横目で道路を見る。渋滞気味で車の動きが遅いのは幸いと言おうか。敵が車で横づけできる状況ではない。
 スマホとペンダントを今すぐチェカの両親に届けて身軽になりたい。動物言語で野良猫にでも説明して運ばせられれば……。だがあいにくと野良猫も野良犬も見つからないし、下手に預けて途中でほっぽり出されるのも困る。
 野良猫……そういや、しゃべるタヌキがいたな。
 レオナはハタと立ち止まった。不安そうにチェカが見上げてくる。
「持ってろ」
 そう言ってチェカにスマホを戻すと、レオナは腰につけたケースから自分のスマホを取り出した。草食動物に電話をかける。監督生は3コールで出た。
『はい、もしもし?』
「今どこにいる」
『レオナ先輩……せめて何か挨拶ぐらいはしてもらえませんか……』
「時間がない。今どこだ」
『ローズガーデン駅の南口付近ですけど』
「絨毯か」
『はい』
 レオナは周囲を見上げた。
「そこから、ガーデン・ストリートのアルファ・ビルが見えるはずだ。その屋上に10分で来い」
『は? これからハーツラビュルのバイトなんですが』
「リドルには話をつけてやる。とにかく来い」
 一方的に通話を切ると、レオナは信号が青になるのを待って横断歩道を渡り始めた。向かいにある、ひときわ高いビルを目指す。
「渡り切ったら走るぞ」
 チェカがうなずくのを確認すると、レオナは左右を見渡した。今のところ、こちらに向かってくる車はいない。
 向こう側の歩道に入った瞬間、レオナは右へ走り出した。チェカがついてきている。そのままブロックを回りこみ、全力でアルファ・ビルへ走る。入口に駆け込むと、まっすぐエレベーターへ向かう。24階建てのビルには様々な企業が入っていて、6基あるエレベーターはすべて稼働中だった。
 レオナは立ち止まらず、ちょうどドアが開いたエレベーターに乗り込んだ。偶然にも上へ向かうものだ。周囲がチェカを不審そうに見るが、構ってはいられない。
 イライラしながら階数表示を見る。数階おきに人が出入りしながら、エレベーターはのろのろと上がっていく。最上階に行く頃には、そのフロアに入っているコンピューター会社のクライアントらしき男女2人組だけが中に残っていた。
 チン、と軽やかな音と共にエレベーターのドアが開く。レオナはドアを押さえて男女2人組を先に降ろした。続いてフロアに踏み出したタイミングで、向かいのエレベーターが到着する音がする。
「走るぞ」
 再び指示をして、レオナは全力で走り出した。横目で見取り図のパネルを確認し、階段へ向かう。
 非常扉を開け、階段を駆け上がる。チェカが息切れして遅れ気味になるのにかまわず、レオナは屋上へ出た。
 さすがに自分も息が切れる。やれやれ。ずっと上って下りて、走って走って。
 見合いをサボりてぇ……。
 そう思いながら、屋敷のベッドを思い浮かべる。何事もなければ二度寝を決め込んでいたはずだったのに。
 溜息をつくと、レオナは屋上を歩き出した。空中を見覚えのある姿が近づいてきている。絨毯は、腰の高さあたりに浮いたままピタリと止まった。監督生は絨毯を撫でてねぎらうと、ひょいと屋上に降り立った。グリムが一緒に飛び降りる。
「さっき大通りで爆発があったようですが、関係ある話ですか?」
「そうだ。袋か何か持ってるか」
 いきなり本題を切り出したレオナに、監督生は溜息をついた。背中のリュックを下ろし、中から小さな買い物袋を取り出す。
 レオナはそれを受け取ると、ペンダントを放り込んだ。チェカのスマホで再び父王に電話をかける。
『どうなった?』
「今からスマホとペンダントを届けさせる。窓に直接行かせるから、自分で受け取れ」
 それだけを言うと、レオナはスマホの電源を入れたまま袋に放り込んだ。
「おい草食動物」
「ご依頼は?」
「こいつをえ~と、チェカ、ホテルと部屋番号」
「エンプレス・ホテルの最上階です」
「そこに届けろ。こいつの父親が待ってるはずだから、直接渡せ。運ぶ方法だが、道路の上をゆっくり飛べ。真上から見たら誰かが歩いたり走ったりしているように」
「つまり、あくまでも地上を逃げているように偽装しろと?」
 レオナはニヤリと笑った。
「話が早いな。そういうことだ。地面には下りるなよ。ドジ踏んだ時の命の保証はしねぇからな」
「大変簡単で助かります」
 溜息と一緒に呆れた口調で言う監督生に、レオナは腕を組んだ。
「一件落着したら報酬を払ってやる」
「ツナ缶か?!」
 監督生の足元でグリムが声を上げると、チェカはまん丸い目で、その姿を見下ろした。
「お金でお願いします」
 グリムを引っ張りながら監督生が言うと、グリムは不満そうに鼻を鳴らした。
「で? チェカさんは運ばなくていいんですか? なんなら絨毯を貸しますけど」
 レオナは意表を突かれた顔で監督生を見つめた。爆発の後に呼び出されただけで、こいつは状況を理解している。
「……いや、ここでこいつを帰しても事態の解決にはならない。結局、俺の手を離れた所で部下が面倒に巻き込まれるだけだ。解決してから俺が帰す」
 監督生は肩をすくめると、袋の口をぎゅっと縛ってからリュックに入れた。絨毯へ向かいながらレオナに言う。
「今夜はクローズまでハーツラビュルで仕事をして、そのまま泊まる予定です。物事がレオナ先輩の手に負えなくなるようでしたら、電話してくださいね」
「抜かせ」
 くすりと笑うと、監督生は絨毯に膝から乗った。グリムも飛び乗る。
「チェカくん、頑張って」
 にっこりと笑って手を振ると、監督生はレオナにニヤリと笑いかけながら絨毯の端を持ち上げた。すいと絨毯が動き出す。
「のんびり行こう、グリム」
「おぉ」
 滑るようにビルの上を飛び、絨毯はふわりと下へ消えた。
 まったく、生意気な後輩になったもんだ。
 レオナは腕を組んだまま彼らを見送ると、自分のスマホでリドルに電話をかける。
『えっ、レオナ先輩ですか?』
 驚いた声のリドルに、レオナは要件を告げる。
「草食動物を借りたから、奴はそっちの仕事に遅れていく」
『ニュース速報で爆発があったと』
「何かあったら手伝わせてやる」
『必要ありません。ボクは平和が好きですので。そちらの仕事はどのぐらいかかりますか?』
「そうだな……1時間はかからないと思う。俺もこれからスマホの電源を切るから、あとはそっちで話せ」
『了解しました』
 通話を切り、次に警備チームにビルの下まで車を寄こすよう指示して電源を落とす。ひとまず、これで時間稼ぎはできたはずだ。
「下りるぞ」
 そう言うと、レオナは階段へ向かった。
 そのビルの足元、車道のふちに若い男がひとり立っていた。
 フルフェイスのヘルメットのまま、彼は上を見上げている。待っていると、四角い小さな影がふわりとビルの屋上から現れた。それはゆっくりと通りの上を飛び、角を曲がって見えなくなった。
 ヘルメットの男はそれを見送ると、かたわらのマジカルホイールにまたがった。エンジンをかけ、ゆっくりと発進させる。ギアを上げると、彼はどこかへ走り去った。
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キングスカラー社長の優雅な一日
初公開日: 2021年03月09日
最終更新日: 2021年03月14日
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コメント
オールキャラ、サスペンス・アクション CPなし
前作Double Chase のスピンオフ ゲームから13年後という設定
途中なので、後から大幅に変わる可能性があります。また、しれっとネタバレ部分が入る場合があります。