アテンション
腐向け、ネタバレ、マフィアパロ
*
天使の君がたてる衣擦れの音だけが、静かに響いていた。
ぱさり、身にまとっていた衣服が一枚ずつ落ちていく。それを丁寧にたたんで、彼は下着以外をその身体から取り去った。
「……」
ふい、と、彼の身体に目が行く。
そこには、赤茶に変色した古い何種もの傷跡が、そこら中に数え切れないほど刻まれていた。
「天使の君?これは」
「……驚かれました? もう、過去の傷ですけど」
彼は己の、さらけ出された腕を撫でる。
鞭で引っ掻いたような傷、スタンガンの跡、うっすらと赤黒く残る縄目。
彼の目は、何も語ってはいない。気配の揺らぎからですら、何ひとつ感じとれない。心を殺してしまうまでも、残忍な記憶だということは、想像だに難くなかった。
「これをボスに、見られるのは……、何よりも避けたかったんです。不躾な真似をしてしまいました」
「……辛かったかい」
「ええ、そのときは。……気持ちは、すぐに忘れました。──記憶もなくなってしまえば……」
よかったのに、と、呟きかけてやめたようだった。
それ以上言ったら、思い出してしまうのだろう。気持ちも、光景も、ありありと、昨日のことのように。
「──もういいんです。過去のことですから。
ルークさん、話しているうちに風邪をひいてしまいますから……お願いします」
「、ああ。すまないね。始めるよ」
ぴしりとメジャーの歪みを正した。
彼の身体に正確にあて、寸法を測っていく。
作業を進めながら、とりとめなく話した。
「それはそうと、天使の君。ファミリーの六の掟、覚えているかい?」
「──一条、……覚えています」
彼は暗唱しようとして言い淀んだ。この様子では、余すことなく記憶しているようだ。
「君なら何が言いたいか、わかるだろうね。
一条、ボスの命令に逆らってはならない。──いかなるときも、だ」
天使の君は、くい、と眼鏡を押し上げて動きを止めた。掟を破った構成員がどうなるのか。彼ならもう、幾度かは目にしたであろう規則。
「……はい」
「うん。
でもね、今回のところは処分は無し、だ。ボスは何も仰らなかったからね。
……しかし、イエローカードだ。ゆめゆめ、忘れないことだよ」
「はい……本当に、申し訳が立ちません」
私も鬼ではない。
ひとこと言葉を紡げば死んでしまいそうな表情をしていた、あんなに苦しそうだった後輩をわざわざボスに付き出すなんてことは良心が咎める、というものだ。
メジャーをぐいと引っ張った。彼の肌に少しだけ食い込む。
……ここにいる人間は、大半が、誰かに辱められた経験をもつ者たちなのか。
だとしたら本当、この世界は歪んでる。
終わったよ、と声をかけて、彼の傷だらけの素肌と心が隠せるように促した。
*
久しぶりに、少し大きい任務が入った。
夜中に海に出て、モノを沈める。それだけのことだが、今回は幹部も出動する大規模な任務なようだ。
なんでも、今回片付ける他所のファミリーには、まあまあ強力な後ろ盾がついていたようで、姉妹組と言うようなかたちになって仕事をともにしていたそうだ。
そんなわけで、