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1.黄色いマフラー(佐土原視点)
はぁー……。
吐く息は白い。
もうすっかり冬の季節だった。
今年もやってきた冬の気配に、そういえば
「明日から寒くなるからな。風邪引かないように薄着は
やめて厚手の服出しておけよ。冬服は引き出しの三番目
にあっただろう?」
そんなことを幼馴染の舘川大輔(タチカワ タスケ)
ことタスケに昨夜電話口で言われたのを思い出す。
さすりと軽く腕を擦った。
忘れていたわけじゃない。
冬服は何処に収納していたっけ、なんて考えていたら
先んじて冬服の場所を告げてくるタスケに促されるよう
にして、幾つか服を出してはおいたのだけど、それでも
なお肌寒さを感じるのだから、これから日を追うごとに
もっと寒くなるかもしれないと考えて身体を竦ませる。
「うーん……。マフラーとか買わないとだめかなぁ~」
厚手のセーターなんて着込んでみたけれど、それでも
無防備な首から入ってくる風の冷たさだとか、ちょっと
どころではなくかなり寒い。
首元がきっちりかっちりとした服は着れなくはないし
場所によっては求められることもあるのだろうけれど、
あまり好ましいとは思えなくて、俺の服のレパートリー
と言えば、大体どの季節でもゆったりとした服が自然と
多くなる。
だから、自業自得と言えば自業自得に違いはないが、
少しだけ困るのだ。
「うう。さむいさむい」
寒いと感じればより寒さも増すのはわかっているが、
だからと言って口にしないなんてことも出来る筈なく、
困った困ったと肩を竦めて悴む指先にはぁ…と息を吹き
掛けてこれからどうしようかと考えていたら、
「せんぱい?」
きみの声がしたから驚いた。
振り返ればぱちりと瞬いたきみは軽やかにぱたぱたと
此方に駆けてくる。
元気だなあとぼんやりしていれば吐息で暖めたばかり
の俺の手に目を向けたきみはポケットに手を入れてから
俺の手に触れたきみにそっと握らされた暖かな温もりに
驚いて目を向ければ、掌の中にはカイロがあった。
「見るからに寒そうですね。はいこれ、使って下さい」
「わぁ~、生き返るぅ…。でもこれ俺が貰ったら今度は
ノエが冷えちゃわない…?」
彼女は弥栄埜絵(ヤサカ ノエ)、かわいい俺の彼女。
きみはくすっと笑って、わたしなら大丈夫ですよーと
微笑むきみの笑顔は、俺ときみの二人分の白い息が舞う
ひんやりとした空気の中でそこだけほんのりと暖かくて
眩しい。
「少しだけ早いクリスマスプレゼントになりますけど、
とーるせんぱい、とっても寒そうなので差し上げます」
ごそごそと腕に下げていた紙袋の中から出てきたのは
黄色いマフラー。
「これ…」
「ちょっとサイズが大きいかもしれませんが、ちゃんと
暖かいと思いますよ」
「ふふ。なんだか気の早いサンタクロースみたいだね」
「ええ。今年のサンタは気が早いようですよ?せんぱい
ちょっと屈んでください」
きみの高さに合わせて屈んでみれば、くるくると首に
巻かれる黄色いマフラーは確かに大きめのサイズらしく
首が締まって苦しいとか、窮屈だと言った感じでもなく
ゆったりとした上できちんと防寒の意味も成した快適な
マフラーだった。すごい。
俺がほっと息を吐いたのを見届けたきみはとんとんと
数歩後ろに下がりマフラーを巻いた俺を見ているのに、
少しだけこそばゆい気持ちになる。
「うん。とってもよく似合ってますよ」
「ありがと~。おかげで寒くないよー」
「ふふ。せんぱいのお役に立てたのならよかったです」
にこっと可愛らしく微笑んだきみにほんわかしながら
屈んだ体勢を戻して、掌の中で存分にもみもみしていた
カイロに熱を分けて貰った俺は彼女にカイロを返そうと
思い立つ。
「手はあったまりました?」
「うん。おかげさまでね~。カイロありがとう」
「ああ、返さなくていいです。そのまま使って下さい。
それよりも、せんぱい」
「んー……?」
「片手、貸して下さい」
「片手?こっち?」
「はい、そっちです」
きみに返そうと思ったカイロは断られてしまったので
このまま有難く使わせて貰うことにして、お願いされた
とおりに温まった方の手を出せば頷いて、そうっと手を
重ねられて繋がれる手に今度は俺が瞬く番だった。
「これでわたしも寒くないです。ね、名案でしょう?」
「あはは。確かにこれなら一緒にあったまれるかもね」
ふふんと少し得意げな様子で大丈夫の理由を口にする
きみは年相応の顔で、くるくると鮮やかに変わる表情を
もっと見ていたいなと思う。
繋がる手に極自然と指を絡ませて深く繋ぎ、このまま
だと外気に体温を奪われかねないと思った俺は速やかに
俺のポケットの中に繋がった手を避難させてきみの方へ
身を寄せる。
「……。ふは。顔赤いね?」
「スマート過ぎないですか?」
「スマートって言ったらノエの方がそうじゃない?俺に
カイロ握らせて、マフラーまで巻いてくれて、こうして
ノエに触れていいって口実までくれてる」
「そ、そんなつもりじゃ…」
「え~?違うの?」
「ないこともないですけど…せんぱい寒そうにしてるの
わかったから…も、あるので…」
ほんのりと赤らんだ顔と、ごにょごにょと声が小さく
なっていくきみの可愛さったらない。
あんなに寒いと思っていたのにきみが隣にいるだけで
身体も心もぽかぽかと暖くなるだなんて愛って偉大だ。
「ねえ、ノエ。この後、時間あるかな?」
「ありますよ」
「俺の冬服、見に行きたいんだけど付き合ってくれる?
それが終わったらコンビニに寄って肉まんでも買おう」
「ふふ、デートですね。いいですよ、行きましょうか。
肉まん、珍しいのあるといいですね」
身体を寄せあって、手を繋いで歩く時間が、より長く
続けばいいだなんて考えながらきみと共に歩く冬の日。
──────
2.ロールキャベツ(夢主視点)
ぱらり、ぺらり。
ページを捲る音。
数冊分の料理本を台に乗せて、真剣な表情で開かれた
ページを凝視して暫く見比べて、数冊の内一つを残して
開いた料理本をぱたんと閉じる。
「うん、今日はこれにしてみようかな」
挑戦するのは彼の好物の一つ。
上京してきたばかりの頃は、日々の勉強にバイトにと
あくせくと動き回るばかりで、恥ずかしい話しくたくた
に疲れて帰ってから自分の為に料理をしようなんて気に
ならず、バイト先の賄いだったり、コンビニ弁当ばかり
買っていたような生活だったしで、上京してから此方、
ちゃんとした手料理なんてしたことがないような状況で
料理が出来る頼れる男の先輩に、自分の好物を美味しく
つくれる人と結婚したいと語った先輩の会話に挟まれて
何とはなしに肩身の狭い気持ちにさせられたものだ。
きっとその場限りの、夢を見たようなふんわりとした
理想の形を意識したのは彼を好きになってからのことで
秘かに料理の練習、なんてものを始めたのが始まり。
「とーるせんぱい、覚えてないだろうなあ」
練習する料理の半数が、彼の好きな物になるのは至極
自然なことだったけれど、元々料理は嫌いじゃない。
上京する前は義弟のカズイや時折カズイの親友でもう
一人の弟分でもあったマサくんに手料理を振る舞うこと
だってあったのだから。
人の為に、誰かの為に料理を作るのは楽しいことだ。
きっとわたしは、自分の為には作ろうとはしない人間
なのかもしれない。
エプロンを付け、材料を取り出し水洗いを済ませて、
作業工程を見ながら、まずは鍋に水を入れて火を掛け、
沸騰するのを待つ間に作業へと取り掛かる。
裏返したキャベツの芯を取り、4枚ほど大きめに取り
厚みが均一になるように包丁を滑らせ削ぎ落とす。
それが済んだらキャベツは小振りのボールに乗せて、
用意していた玉ねぎの皮を剥き切り込みを簡単に入れて
ざくりざくりとみじん切りにしていき、そこからさらに
細かくみじん切りにしていく。
気を付けなければならないのはつんとした痛みと涙が
出ないよう細心の注意を払わなければいけないことか。
以前ぼろぼろと涙が出てしまって、反射的にごしりと
涙を拭った手が今まさに玉ねぎに触れていた方の手で、
より目に沁み暫くは涙を止めるのに専念してしまったと
いう苦い記憶があった。
失敗はつきものだけれど、出来れば二の舞は避けたい
と思いながら無事にみじん切りにし終え、ほっと吐息を
漏らし玉ねぎは纏めてキャベツとは別のボールに入れて
人参を手に取る。
皮を剥いてから適当な大きさで切って分け、縦にして
薄く切れ込みを入れてから寝かした状態にし縦に細長く
切り、切った人参を横向きに揃えて、とんとんと細かく
みじん切りにしていく。
ある程度切れた所で、玉ねぎ同様にさらにみじん切り
にして玉ねぎを入れたボールへ移す。
「ふぅ……次は鍋か」
包丁を軽く水で洗い流して、手を洗った後ぐつぐつと
沸騰したのを確認して火を緩め、分けていたキャベツを
鍋に入れて一分ほど茹でていく。
ほくほくと茹で上がったキャベツをざるへと移して、
火は確り止めておく。
肉だねを作る為に解凍しておいた豚ひき肉100gを、
みじん切りにした玉ねぎと人参の入ったボールに投入し
たらパン粉大さじ1、牛乳大さじ2、塩、黒胡椒を少々
入れてから手で捏ねる。
粘り気が出るまでこねこね、こねこね捏ねていくのは
少し手間ではあるけれど楽しい。
タスケ先輩に言われたように、とーるせんぱいも作っ
てみたらいいのにな、なんて考えながら捏ねていれば、
粘り気が出てきたので一度手を止める。
「ふふ。美味しく出来るといいなあ」
4等分になるようにちょいちょいと分けて纏めながら
美味しくなあれと口にして小さく笑う。
食べる人は残念ながらわたしだけなのだけれど。
下茹でしたキャベツを取り分けて四等分にした肉だね
はそれぞれレモン状になるように丸めてキャベツの上に
乗せて、芯の部分からくるくると横から折り畳むように
して巻いていく。
この際煮込む時に肉だねが外に出てしまわないように
少し強めに巻くように意識しないと解れてしまうので、
気を付けないといけない。
「これくらいかな…?」
煮崩れをしないように爪楊枝を端から刺して反対側で
留めれば、次のキャベツと肉だねを用意して同じように
巻いて留めていく。
~~♪
着信音。
わたわたと慌てて手を洗い、スマホを手に取り出る。
「は、はい」
『あ、もしもし?今大丈夫かなー』
「大丈夫ですよ。どうしました?」
『ノエ、今、自宅にいる?』
「はい」
『よかった~。今ねー、近くまで来てるんだぁ』
「珍しいですね、せんぱいが家の傍まで来るの」
『散歩してたんだけど気付いたらきみの家の近くでね、
びっくりしたら』
「(猫のお散歩かな?)したら…?」
『ノエの顔、見たくなっちゃったんだよねぇ』
そっか~~。
突然の彼からの電話にこの人は本当に歳上なんだろう
かと天を仰いだわたしは悪くないと思う。
『ノエ?電波遠い?』
「大丈夫ですよ、ちゃんと聞こえてます」
『今からお家寄ってもいい?…くしゅ』
「せんぱい、来ていいですから温もって帰って下さい。
迎えに出ましょうか?」
『あはは~、そこまでして貰わなくても大丈夫だよー。
それじゃあ、今から行くね』
ほわほわと柔らかな空気を持つ人なのは電話を挟んだ
からと言って変わらないらしい。
小さくくしゃみをしたのを聞いて即答してしまったし
来てくれるのは喜ばしいから否やはないけれど、台所の
作りかけのロールキャベツを思い出してどうしようかと
じんわりと焦りが出てくる。
少しの間悩むがそのままにしておく、と言うのも座り
心地が悪くて、彼が来るまでに中断した続きをしようと
台所に戻ることにした。
どきどき…と鳴る鼓動を誤魔化すように大きめに息を
吐いて鍋に巻き終わったロールキャベツを巻き終わりが
下に来るようにして入れる。
コンソメキューブを二つ入れて再び沸騰するのを待ち
煮えてきたらアクを取り、弱火に切り替えたところで、
ぴーんぽーんと音が鳴る。
「はーい」
ぱたぱたと玄関先まで駆けて覗き穴を覗けば、やや肌
寒そうにして佇む彼の姿が見え鍵を開けて開く。
「おかえりなさい」
「ただいま~。いい匂いするねぇ。料理中だった?」
「ええ。まあ、はい。そうですね。ほら、せんぱい。外
は冷えたでしょう。ゆっくりしていってくださいね」
「うん。この時間になると一気に冷えるね~。お邪魔し
ます」
ぱたんと閉まる扉と共にのんびり笑う彼の手を引いて
リビングへ案内する。
触れた手の感じからして身体も冷えているのがわかり
台所に戻り、マグカップに牛乳を入れ、そのまま温めて
出すことにした。
「せんぱい、どれくらい外にいたんですか?」
「どれくらいかな~。そんなに長くはいなかったと思う
んだけどね」
「どうぞ。熱いので火傷しないように飲んでください」
「ありがとー。はぁ~…生き返るや」
「それはよかった。火の番しないとなので離れますけど
好きに寛いでくださいね」
冷えた状態では暑すぎるのか萌え袖のように袖を引き
猫手でマグカップを包んでいる姿は可愛らしくて和む。
一先ずは大丈夫だろうと台所に戻り鍋を覗き込んで、
焦げないよう気を配りながら香り立つコンソメの香りが
食欲を刺激するようで、ほうと吐息を零す。
とーるせんぱい、可愛かったな……。
くつくつと煮える鍋の中身を見守りながら、先程まで
の彼を反芻し緩みそうな頬を引き締める。
するり、と長い腕が胴に回って、びくりと震えるも、
ぎゅうっと抱き締められ泡を喰う。
「と、とーるせんぱい!?」
「ホットミルク美味しかったよ。おかげさまで、身体も
ぽかぽかしてる。でも、ノエの顔見に来てるから、ちょ
っとだけ傍に居させてくれると嬉しいなあ」
「もう。火扱ってるんですから危ないですよ」
「ごめんごめん。我慢出来なかったから」
びっくりした。
警戒するとかはなかったけれど、抱き締められるとは
想像もしていなかったから抗議するようにぽすりと腕に
触れれば首筋に軽く掛かる吐息が擽ったい。
すりすりと猫が毛並みを擦り付けるようなそんな感じ
で寄せられる頬に絆されて軽く窘めるように言うけれど
拒否感はないのでゆるゆると無意識に力んだ身体の力を
抜いて凭れ掛かることにする。
「ちゃんと、身体あったまってますね」
「うん」
「せんぱい、お腹は空いてますか?」
「美味しそうな匂いしてるし、お腹も空いてきたかな」
「とーるせんぱいの好きな味かどうかわかりませんが、
よければ食べていかれませんか」
「わぁ~、やった」
先程の非ではない程、美味しく出来ていますようにと
強く願うことになるとは思わなかったけれど、この人に
彼に食べて貰えることに期待する自分が居た。
ロールキャベツが出来上がるまで、もう少しこのまま
熱を分け合っていたい──。
────────
3.とある日の夜に(佐土原視点)
ごそごそ。もそもそ。
音にすればそんな音。
ひんやりとした空気と、俺の隣で此方に背を向けて
お腹を庇うようにして背中を小さく丸めているきみに
重たい瞼を持ち上げて、寝起きの頭でぼんやりとそう
言えば、ああ、そろそろそんな時期だっけと頭の中の
カレンダーを思い起こすと、まだ寝ていたいと駄々を
捏ねて、寝汚くも夢の淵に足を踏み入れたままでいる
寝惚けた身体を何とか動かす。
眠いは眠い。
油断すると直ぐにもふわ~と気の抜けた欠伸が出て
しまうくらいには眠かった。
時刻は午前4時半。
起き出すにしたってまだ早い。
それでもこのまま何もせずに眠りに身を委ねるのは
いやだなとその気持ちだけで重たい瞼を持ち上げた。
丸めたきみの背中に寄り添うようにして抱き締めて、
少しでも冷えないように、痛みが和らぐようにとお腹を
隠すようにして宛てられたきみの手の甲に掌を重ね置き
一緒に暖める。
丸められたことで覗く項にキスを落として、
「ノエのいたいのいたいのとんでけ~。小山に飛んで、
そのままノエがきもちよく眠れますように」
いいこ、いいこ。
囁くように、歌うようにゆったりと紡いで、慰めて、
むずがるように身動いだきみの手が外されて、俺の掌が
お腹に当たればほっと息を吐いたきみの手が再びおずと
躊躇うように遠慮がちに移動して、先程とは逆で、俺の
手の甲に重ねられるように軽く添え置かれたきみの手に
何だか俺の方が癒されている気持ちになった。
「…おなかいたい?」
「…、うん」
「いたいのいたいのとんでけ~」
同棲するようになってからも中々敬語が抜けきらない
きみから「はい」じゃなくて「うん」って、幼さを感じ
られる声で答えるのを聞いて、ああ、起きれてよかった
と言う安堵感と、普段は甘えるよりも、甘やかしに入る
きみが甘えてくれているのがわかって、愛おしくて堪ら
ない気持ちになる。
きみの痛みが少しでも和らぎますようにと強く念じて
むむむ…とつい声に出して唸っていたら、「ふ、ふふ…」
ときみが小さく笑って、今の今まで篭ってた身体の力を
すっと抜いたのが触れているからこそ直ぐにわかった。
「えぇ~…何でそこで笑うかなー」
「だってとーるせんぱいったら、唸るんですもん」
「こうして唸るくらい念じてたら効果も増しそうな気が
するんだよねぇ」
「ふふ…。ごめんなさい、起こしちゃいましたよね?」
「ううん。謝らなくていいよ~。自分で目が覚めたから
ノエが謝ることなんてないし。それに今みたく起きれて
なかったらノエは一人で抱え込んで我慢してたでしょ。
だから──、起きれてよかった」
「う……」
誰が聞いているわけでもないのに、囁き程度の声量で
交わされる言葉の応酬は擽ったい気持ちになるけれど、
図星なのか否定出来ずにもごもごと唸るきみを腕の中に
抱き締めて諦めたように観念したようにぽつりぽつりと
俺にきみの弱さを見せてくれるきみはいじらしくて凄く
可愛い。
「お腹、いたい」
「うん」
「でも、せんぱいの手あったかくて、きもちいい」
「そっかそっか。あっためさせてね」
「ん…。はぁい。あっためてください」
「眠れそう?」
「とーるせんぱいといっしょなら」
柔らかい声の応酬合戦は、きみの眠たげな声で終わり
代わりにきみとの密着度を増やすようにしてくっついて
体温伝いに一緒だと告げる。
──男には訪れない月に一度のそれは本当に大変だ。
辛そうなきみを見れば出来ることなら、変わってあげ
たいと思うくらい心配にもなるけれど、俺はそれを嫌う
ことはない。
生命の神秘、遠くない未来にきみが宿す俺達の子ども
の為の小部屋。
ちょっと早い未来予想。
きっと男の俺に出来ることは少ないだろうけど、幾月
幾夜を迎えても、支えたいと思う人。
こんなことを思うようになるなんて、人生わからない
ものだなぁっとぼんやりと思いながら、きみから寝息が
聞こえ始めるのを見届けて俺も眠った。
おやすみ。
──────