春日と趙はいつものようにサバイバーで飲んで、酔い醒ましついでに散歩していた、そんなある日。
夜風に当たりながら浜北公園をぶらりと歩いていた二人の目の前に、突然ボストンバッグが現れた。
それはもう、何かで見たことのあるかのような光景。
お誂え向きのボストンバッグ。
怪しいことこの上ないそれを、二人はどうするか話し始める。
「爆発物だったりするかもしれないから、普通は……あぁ、もう開けてるし……」
「こ、これ、金入ってるぞ……!!」
春日が取り出したのは帯のついた札束。
趙も後ろから覗き込めば、それはまだ数束入っているようだった。
「とりあえず、交番に持っていこうか」
トラブルに巻き込まれないようにと、最善の選択肢を選ぶ。
お巡りさんにバッグを渡し、なんらかの手続きの紙を記入すると、二人はまた公園をぶらりと歩き出した。
「あれ、100万はあったぞ」
「落とし主が見つかったとして、謝礼は一割、なんだっけ」
「そしたら10万として、山分けして一人5万か、何に使う?」
まだ貰えるとも決まってない金の話を、気も早く想像する。
「5万かあ、結構あるよね」
「飯食いに行くか……美味いメシ……は趙のメシで十分だな」
「はは、嬉しいこと言ってくれるねえ。じゃあちょっと高い食材買っちゃおうかな、上海蟹とかなかなか手に入らないやつとか」
うんうん、と頷きながら二人の妄想は続く。
「あー、この前買おうか迷ってたゲーム買うかな」
「そんなのあったの?」
「なんか他に欲しいやつあって、そっちを先に買っちまったんだよな」
「ゲーム買って、まだあるね」
「なんか欲しい物あるか?」
「うーん……新しい鍋買おうかなあ」
「……うちには鍋だけでいくつあるんだ???」
そこから家電だとか家具だとか旅行に行こうかなんて話まで飛び出して。
二人の気持ちもいつしか横浜を飛び出そうかという時に、春日のスマホに着信があった。
先の交番に落とし主が申し出てきたらしい。
二人は足の向きをまた交番へと戻した。
「で、謝礼はこれだけか」
目の前にひらひらさせたのは五千円札。
二人の期待を大きく外し、ボストンバッグの中身は偽札。
偽と言っても日本銀行券として使おうとするようなものではなく、演劇用の道具だった。
そう、ボストンバッグ自体が演劇用のものだったのだ。
本物だったのは、春日が手にとった束の上の数枚のみ。
その一割を謝礼として貰った。
「ま、妥当だね」
「これ、どうする?」
二人は目の前の樋口さんを眺めながらその使いみちを探す。
今使わなくてもいいんじゃないか、なんてツッコミをする人物はここにはいない。
高級な物を食べるには少々心許ない。
それも、一人ならまだしも二人なのだし。
それじゃあ、と二人が向かったのは回るお寿司。
くるくると回ってくるそのお皿を取りながら、五千円を超えないよう、あれがいいだのそれは高いだのと言いながら、目一杯お寿司を楽しんだ。
その帰り道。
「百円、余ったね」
「百円かあ……」
橋の上で銀色に光るニッケルのコインを眺めながら、二人は周りに何かないかと探し出す。
自動販売機をすり抜け、向こうに見えたのはピンクの看板。
「あ、ねえ、あんまん買わない?」
「一個しか買えねえじゃねえか」
「はんぶんこ、しよ」
ちょっとの間に不満が飛び出すかと思いきや、にやりと笑みを浮かべながら、いいなそれ、と返ってきた。
百円を握りしめてコンビニに入った大人二人。
消費税なんてものにちょっぴり焦ったりして。
税金は割り勘で。
「あはは、なんかおいし」
「ん、久々に食ったけどうまいな」
二人揃って、甘ったるいはんぶんの饅頭を頬張った。
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ワンライ「はんぶんこ」
初公開日: 2020年10月17日
最終更新日: 2020年10月16日
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