すうすうと、柔らかな寝息が聞こえてくる。
それはゆったりと一定のリズムを刻んでいて、呼吸の長さからどれ程深いところまで堕ちているのかが聴いて取れた。
広いリビングの真ん中にあるソファの上。四季はそこに寝そべり、俺は腰掛ける部分へ寄りかかるようにして、二人で読み物をしていた。
四季は自身が演じる舞台に関わる作品の本を、俺は台本を読み込んでいた。
ーここの台詞は少し感情的にしよう。だがこの後は少し落ち着いて、冷静に。このシーン、台詞は無いが緊迫した雰囲気が出るように意識を張り詰めて挑まないとなー。
一つ一つの言葉を読み込む程に、情景は自然と頭に浮かんで、ここはこうしよう、ああしようと、つい夢中になって取り組んでしまう。舞台上以外でのこういったひと時もまた、役者としての醍醐味とも言えるだろう。
そんな作業を進めていくうちに聴こえてきた、四季の寝息。読み疲れたのか、ただの寝不足なのか。どちらかだとしても、ソファの上で寝るのはあまり良くないと思いつつ、気持ちよさそうに寝ている吐息を聴いているうちに、ここで起こすのもほんの少しだけ申し訳なく思えてしまう。学生の頃はそうでもなかった筈だが、と振り返ってはみるが、きっとそれは共に過ごしている時間による甘えなのだとも感じた。
俺はもう少しだけこのままにしておくか、と思いながらふと、四季の方へ顔を向ける。自身の顔と同じくらいの高さに四季はいるものだから、振り向いた瞬間、あまりにもの距離の近さに少しだけ驚いてしまった。
整った顔はそのままに、穏やかさを含んだその寝顔は、何処か愛おしさを感じさせる。それは恋仲だからとも言えるし、まるで幼子を見ているような、そんな愛らしさだ。月日を重ねても変わらない、四季の綺麗な部分は今もそのままだ。それがいい。
俺は四季の寝顔がより良く見えるよう、少しだけ身体を傾けて体勢を整え直す。恐る恐るに、気配を出来るだけ無くすようにそっと、ゆっくりと顔を近づけていく。ふわりと表現するのがお似合いな程の柔な頬に、ふっとかるく触れるだけの口付けを落とした。
「…ん…………」
触れたタイミングと四季の寝言が丁度重なって、俺は直ぐに顔を離した。四季は顔だけを俺の方へ傾けてたが、意識は深いところのまま戻ってきてはいないように見えた。ほっと胸をなでおろす。
先程より良く見える四季の寝顔は、やはり愛おしく感じる。俺が抱いている感情を、もう少しお前に伝わるよう、触れてもいいだろうかーそう自身の胸に問い掛けた途端、四季は「…ふふ」とあたたかな笑みを溢していた。
「…起きているのか?」
思わず問うてしまうが、四季からは起きる気配は感じられない。
もし起きていたとしたらーーと、そんなことも頭に過ったが、そんなことよりも俺は、再び四季に触れたいという想いでいっぱいになっていた。
俺はもう一度、四季の顔へゆっくりと近付く。
そして今度は、柔らかく形を変えて触れる、優しい口付けを唇へ落としたのだった。