ฅ(^ •ω•*^ฅヒィヤッハァァァァァァァア!!!←
不思議な人間。彼──彼女とも呼べるのだろうが、便宜上彼とする──に対する認識は、そんな簡潔なものであった。一単語の中に「奇妙」や「違和」や「サイコパス」、はたまた「狂気」等といった複数の意味合いをごちゃごちゃに引っ括めてしまったが故の簡潔さである。
彼と遭遇したのは新世界のと或る島である。特記すべき点も無い、ありがちな島だ。強いて言うなら螺鈿細工が名産で、通りの露店でよく売っているということくらいか。
「こんにちは。良い天気だね、アルトルード・ノアくん?」
知り合いに話し掛けるような調子で声を掛けてきた彼に、最初は警戒した。名前や姿を知られているのは良い。手配書が出回っているからだと理解出来る。しかし、声を掛けられる所以が判らない。
「……そうだな。で、何か用か? 《ヘル・マザー》」
「嫌だなぁ、そんな他人行儀な呼び方しないでよ。どうせなら名前で呼んで欲しいな」
「他人行儀も何も、正真正銘初対面の他人だろ」
そうだけどね、と微笑みを浮かべる彼に、やけに気疲れしたのを覚えている。今も尚、彼と話すと疲れた心地がする。ペースを崩されやすいからだろうか。
四皇の一人、ビッグ・マムと共にいるという《ヘル・マザー》アイビー。そのビッグネームに対して、懸賞金額は6000万ベリーと控えめである。如何やら本人の戦闘能力が其処まで高くないことが理由らしいと、馴染みの情報屋から聞いたことがある。
アイビーは得体の知れない微笑みを湛えて、真っ白なドレスの裾をひらりひらりと揺らす。その色だけで気分が下降する。出来ればさっさと離れたいものだが、この様子では叶わなそうだ。
「愛しい子供達にお土産を買って帰りたいんだけど、どんな物が良いと思う? 参考に聞きたくてさ」
「子供達っていうと、ビッグ・マムの?」
「そう。僕の子供のようなものだしね。可愛いんだよ、あの子達。きみも子供が出来たら判るんじゃないかなぁ」
「……判りたくないな」
ふい、と視線を落として返す。
人の子供を見ている分には良い。しかし、自分が作ったとて、愛せるかと言われれば苦い顔をせざるを得ない。自分の最優先事項は“白”に対する復讐である。子供を愛する暇は無い可能性が高い。それに、もし作ることがあったとしても、ノアの場合は愛故ではないだろう。
ノアの様子を小首を傾げながら見ていたアイビーは、ふむふむ、と何かに肯いて、まあ良いや、と話を変えた。
それで、何が良いと思う? 初めの問いを繰り返され、ノアは顎に手を添えて思考する。しかし、この街に何があるかもよく判っていないから、はっきりとした解は出てこない。
「見て回りながら、良さそうな物を買えば良いんじゃないか? この街に何があるかなんて、俺にも判らないし」
「うーん、確かにそうだね。じゃあ、きみも一緒に回ってよ」
「何でだ」
「どうせ、きみ暇でしょう?」
否定が出来ない。
口を噤んだノアを肯定だと受け取ったのだろう。もしくは聞くつもりすら無かったのかもしれない。アイビーはノアの片手を取ると、さあ行こうと引っ張って歩き出した。反対する理由は幾つか浮かぶが、論破されるか無視される未来しか見えなくて、取り敢えず流されておくことにした。
大通りは様々な露店と客でひしめき合っていた。肉を焼いた香ばしい匂いが満ち満ちて、各々で好き勝手話しながら歩く者達の声がノイズのように流れてくる。別に、人が話しているのを嫌う訳では無いが、煩いのは苦手だった。見聞色の覇気に頼らざるを得ない状況が発生しやすいからだ。
アイビーはと言えば、ノアに気付かれないように注意しているのか、呑気な素振りで鼻歌混じりに歩いていた。否、あれは特に気にしていない。ノアの見聞色はそれなりの精度を持つが、アイビーが気を張っている様子は微塵も感じられない。つまり無警戒な訳だ。馬鹿なのではないかと言いたい。向こうの実力が測りきれていない以上、口に出すつもりは無いのだが。
「あ、あれ如何かな? 可愛いよね。プリンに似合うかなぁ」
アイビーが指さしたのは、街の名物となる螺鈿細工のペンダントだ。ペンダントトップに繊細な色合いの煌めきが嵌め込まれている。チェーンはシルバーなのだろう、日光を反射して眩しかった。
「買いたければ買えば良いんじゃないか? どうせ大家族なんだから、買って間違いは無いだろ」
「うーん、でも適当な気持ちであげたくないんだよね。……うん、これはプリンにあげよう。おばさん、これ頂戴」
何度か肯いたアイビーは、露店の女性に声を掛けて丁寧な包装で包んで貰った。それを眺めながら、これは当分付き合わされるだろうな、とこっそり溜息を吐く。時間が無い訳ではないが、よく知りもしない相手に付き合わされるのは心労が激しい。
そんなことは知ったことでは無いのだろう。アイビーは次はあっちね、とノアの黒衣の裾を引いて進む。反抗するには手札が不明だ。渋々付き合わざるを得なかった。
ノアが解放されたのは、アイビーとの買い物を始めて数時間は経った頃だった。頭上にあった太陽はかなり西に傾いている。空の端が橙色に染まりつつあるのを、休憩がてら座り込んだ公園のベンチから眺めた。
「付き合って貰ってごめんね? 疲れた?」
「精神がな」
「若い子は元気で良いねえ」
感情が読み取りにくい笑顔で言うアイビーは、ジト目で見遣るノアに小さな紙袋を差し出した。掌大のそれを見つめて、ことりと首を傾げる。
お礼代わり、とアイビーが口にして、ようやく理解出来た。この自由奔放というか、傍若無人というか、兎にも角にも周囲を気にしない人間に礼という概念があるとは思わなかったのだ。
開けても、と訊ねれば、どうぞと返される。土産だとでも言ったのだろうか、綺麗に包装されたそれのテープを剥がしてみれば、きらきらと夕陽を反射して色を変える懐中時計が出てきた。
「……こういうのって、普通は箱に入ってるもんじゃないのか?」
「そうなのかな? 露店で売ってたから、プレゼント用に包んで下さいって言って、そしたらそれで包まれたんだよ。僕は悪くないね」
「いや、別に気にしないけど」
「なら言わないでおくれよ」
拗ねたのだろうか、僅かに眉尻を下げたアイビーはノアをつつく。それを適当にあしらいながら、懐中時計を眺める。
蓋の部分には何やら植物を模した彫刻がされている。所々に螺鈿でも嵌め込んだのだろう、青や緑や白に変化する煌めきが控えめながら主張している。開けてみれば、時計盤には太陽と月のモチーフが螺鈿で表され、蓋の裏には翼が描かれていた。
やけにモチーフ過多だな、と思うが、美しいものは美しいので、特に言うことなく感謝を告げた。お礼だから、とアイビーは口元を隠しながら笑った。
「ノアはさ、いつまでこの島にいるの?」
「そうだな……ログが明日の夕方に溜まるから、その頃までだな。如何してだ?」
「明日も一緒に遊んでくれないかなぁって思って」
「断る」
ええ、と頬を膨らませると、アイビーはノアに纒わりついた。ドレスの白色が触れて、さあっと肌に怖気が走る。
咄嗟に片腕で突き飛ばすと、アイビーは驚く程簡単に吹き飛んだ。数メートル程吹き飛んで、倒れ込むことはなく着地する辺りは流石であると感じた。
「何するのさ。いきなり酷くないかな?」
「お前……頼むから、近付かないでくれ。俺に触れるな。出来れば姿も見たくない」
「嫌われちゃったなぁ……如何して? さっきまでは普通に話していたのに。……嗚呼、もしかして、──白色が怖いのかい?」
正鵠を射た指摘に、ノアはぐっと拳を握り込んだ。
弱味を握られたくなかった。海軍にすら知られていない弱点だ。海軍は白色故に狙われるが、逆を言えば、白色故にノアに対してアドバンテージを持つ。倒される前に触れてしまえば、それでおしまい。ノアは海兵との戦闘の度、復讐の歓喜と白色の恐怖に挟まれながら戦っているのだった。
アイビーに知られたのは痛い。噂として流される前に消してしまうべきだろうか。そう考え、結論を出す前にアイビーが口を開いた。
「大丈夫。きみが其処まで恐れるものを、周りに言い触らしたりなんかしないよ。恐怖が何処に向くかなんて、人それぞれだもの。気にしなくて良い」
「……何が目的だ」
「目的だなんて。ただの親切だよ。不安かい?」
アイビーは薄い微笑みを浮かべたまま、ことりと首を傾げた。
怖い、と言ってしまいたかった。不安で不安で仕方が無いと。白色を見る度に、あの恐ろしい虐殺者共を思い起こさせて苦しいのだと、言ってしまいたかった。
しかし、ノアは既に大人であり、海賊であり、復讐者だ。甘えは許される筈が無い。周りが許そうとも、ノア自身が許さない。
周囲に弱味を見せず、周囲の弱味を握り、世界の情勢を把握し続け、己に有利に進むよう調整する。
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初公開日: 2020年08月26日
最終更新日: 2020年08月26日
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コメント
地母神……素敵に使ってあげたいけど、出来るかしら(´-ω-`)
とりあえず何処かしらでバトルシーン入れたいなぁ。