綺麗な海を知っている。とても深くて、暗い色をしていた。でも、決して濁っている訳ではなく、澄んでいるのだ。まるで、深海の様に。
あれ?じゃあ僕はどうやってその海を知ったんだろ。だって深海って、そんな簡単に見れるものじゃない。任務の時…とか?なんだっけ。それに、様だったっていうことは海じゃないのかな。分かんないや。まぁでも、忘れるってことは大した事じゃないんだろうな。
そんなことより、先程鴉に柱合会議があると言われた気がする。
「柱合会議ー!今日ハ、柱合会議!」
やっぱり、そうだ。
「行ってきます。」
声の返って来ない広い屋敷に向かって告げる。誰も居なくても、言っておくと防犯になるって、誰かに言われたことがあるような気がする。勿論、それが誰かなんて覚えないけど。
あ、報告書。持ったっけ?
「えーと、この辺に入れたような?あれ、無いや。ねぇ、知ってる?」
「隊服ノ中ヨ!」
「あった、ありがとう」
これが無くては、報告が出来ない。僕は物忘れが酷いから。
産屋敷邸までの道のりを、ぼんやりと歩く。
「よぉ、時透。おはようさん。」
「あ、えっと。う、ずいさん?」
「おう!おはよう」
「おはよう、ございます。」
背中をバシリと叩かれる。痛い。
「おはようございます。宇髄さん、時透くん」
この人は、確か蟲柱の…誰だっけ?
「えっと…蟲柱の人ですよね?ごめんなさい、名前がわからなくて」
「いえいえ、いいんですよ。蟲柱の胡蝶しのぶです。」
「胡蝶さん。おはようございます」
「えぇ、おはようございます。」
そのまま、三人で御屋敷まで向かっていく。二人は近況報告しているみたいだけど、混ざる隙もない。混ざっても最近のことなんて覚えてないし、どうにもならない。けれど、僕を挟んで話すのは止めて欲しいかな。
*
「あら?お早いですね。冨岡さん、おはようございます。」
「……」
屋敷に着くと、既に1人いた。
その人は、こちらをちらりと見たかと思えば、何も言わずにまた、前を向いてしまった。
「無視ですか?冨岡さん。挨拶も返せないなんて、そんなんだから皆に嫌われるんですよ。」
胡蝶さんが、冨岡さん?に文句を言っている声が聞こえる。僕はといえば、それどころではなかった。冨岡さんがこちらを向いた時に見えた瞳。それを見た瞬間にどこかでカチリ、と何かがハマるような音がした。
青、綺麗な青。深海のように暗くて、澄んでいる。
知ってる。何故かそう思った。なんで?なんで、僕はこの色を知っている?この色、いや瞳かな。分からない。気持ち悪い。分からないのが気持ち悪い。こんなのは初めてだ。
「時透?大丈夫か」
「え?あぁうん。なんで?」
「なんか、考え込んでただろ」
そうだっけ。巨体の人が心配そうな顔でぼくを覗き込んでくる。
いつの間にか、人が増えていた。傷だらけの人と、髪の色が二色の人。確か、風柱さんと甘露寺さん。これで、全員だっけ?柱が9人揃っていない代もあるって聞いたことがある気がするし。
「悲鳴嶼さんが、まだ来ていないなんて珍しいですね。」
「確かになぁ。煉獄は任務で遠くに行ってるらしいから派手に遅れているんだろうが、悲鳴嶼さんが来てないなんてな。」
「伊黒さんも、まだ来てないわ!寝坊しちゃったのかしら」
そう、女の人と男の人の声が聞こえた。そっか、あと3人いるんだ。じゃあ、僕らの代は何人だ?えーと、僕とあそこの人達。それから、あっちで1人佇んでいる人。合計で9人いるのか。
はぁ、退屈だなぁ。
自然と頭が上を向く。あ、あの雲。何だっけ、なんて言うんだっけ。教えて貰った気がする。その人を思い出そうとしたら、頭の中に綺麗な蝶が過った。確か…
「すまない!!遅れてしまった!!!」
「うるっせぇぞ、煉獄ゥ!!」
突然聞こえてきた声に出かけたものがパンと音をたてて、消えてしまった。もう少しだったのに。…何だっけ?まぁ、いいか。
あぁ、全員揃ったみたいだ。
「御館様の御成です。」
会議が始まる。
*
夜。
夜は、彼奴らの時間。彼奴らが、過ごしやすい時間。真っ暗な中を駆ける。目の前の、殺すべき相手を見失わないように。取りこぼさないように。