「じゃあ、またな。」
部屋に残っていた最後の荷物を持って、かつての級友は部屋を出て行った。「元気で」「また飯でも食いに行こう」、そう言ったら、食堂の格安飯で食い繫いでるお前がよく言うよと笑われた。空元気で笑おうとしているのはお互い様だった。統学院を中退することになった彼は、実力もなかったわけではないが、なにしろどこまでも心根の優しいやつだった。ともに死神を目指していけたらどんなに心強いかと思っていたが、掬い上げた水が指の隙間からこぼれていくように、引き止める術がないのが寂しかった。
「じゃあ、無事に死神になって給料もらえるようになったら絶対行くぞ。約束だ。」
そう言うと、元級友は目尻を涙で滲ませて「ああ」と応えた。手を差し出して、強く握手をした。伝わってくる温かさが、叶えられなかった志を自分に託しているようで、その温度や感触、すべてを忘れないでいたいと思った。
「お前は絶対に死ぬなよ。」
目の前で人がばたばたと死んでいく惨状に耐えられなかったこの人の願う気持ちは、自分にとって一番の希望である死神になりソウルソサエティの繁栄に貢献するための絶対条件だった。だから、安心しろと思う。そこらに蔓延る虚たちとの戦いや、ましてや病気などで死んでやる気はさらさらない。実際どんな場面で最期を迎えるのかは分からないが、こういう優しい人たちが心につかえるものがないように、毎日が平和であるために自分の命は使うつもりだ。
「せいぜいがんばってみるさ。」
だけどこの世に絶対はない。この約束はできないから、できるだけ明るく返事をした。
彼と使っていた相部屋に、夕方の陽が差す。橙色と黒で構成された世界に取り残された俺は、彼の消えた戸をしばらくぼうっと眺めたあとで、明日の授業の予習に取りかかった。
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また会う日まで
初公開日: 2020年08月07日
最終更新日: 2020年08月07日
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