叫び声と爆発音、平和な日常にふさわしくない騒音がソーの耳に入ってきた。
「またロキか……」
ここ最近、朝から晩まで自分の部屋に閉じこもってる弟が、たった今何かやらかした予感。
今度は何が起きたのか、下半身が蛇や馬にでもなったか、それとも変な極彩色のベタベタが取れなくなったか。ともあれ何が起きても驚くまいと覚悟をしながら、ソーはロキの部屋まで向かう。
「ロキ?大丈夫か?」
声掛けついでにノックもする、ノックノック。
反応がない。
「ロキ、返事くらいしろ」
そう言ってドアノブに手をかければ、意外や意外、鍵はかけられていない。鍵が空いているのならばと、ソーも遠慮なくロキの部屋へと入っていく。
「ローキー?どこ行った?」
ロキの部屋に入ったのは久しぶりでもないが、以前にも増して壁一面の本棚には本が詰め込まれているし、棚や机にはソーが見てもよく分からない小物なのか道具なのかも判別つかない物体が転がっているし、床には服を選ぶ時に放り捨てられたロキの大量にある洋服が散らばっているし、その洋服の中には。
「だ?う?」
「……ロキ、なのか?」
小さな小さなつららちゃんが潜り込んでいたりする。
「わぁ〜かわいい!この子がロキなの?」
ピーター・パーカーは歓声を上げた、目の前の雷神が大切そうに抱いている赤ちゃんが、それはそれは可愛いからだ。
青い肌に小さな角、まん丸お目目は白うさぎのように赤く、ぷくぷくのお手手や、ふくふくに柔らかそうなほっぺには不思議な文様が浮かんでいる。もこもこなタオルケットに包まれて、周囲の大人たちを見上げるその赤ちゃんは、うぅ〜と不満そうな、あるいは不安そうな声を上げている。
「そうだ、何かの魔術に失敗したらしくてな、こんな赤ん坊になってしまったんだ」
困ったように笑うソーは、魔法使いに戻す方法を探してもらっていると言うが、それに対して、普段より害が無いならこのままでいいんじゃないか?などと声が上がる。
「トナカイくんが赤ん坊のままなら悪事も働けないし、いっそキミが育て直してみたらどうだい?あんなひねくれた弟にならなくなるかも?」
「…………アレは、アレで可愛いものだ」
「いやそう思ってるのはソーだけでしょ」
大人たちがやいのやいのと話している中、ピーターはソーの腕の中にいる小さなつららちゃんから目が離せない。ピーターが小さく手を振ってみると、赤ちゃんになったロキはきょとんと首を傾げる。
かわいい。
「あうっ、だー」
何か気になったのだろうか、ちっちゃなちっちゃなお手手をピーターの方へと伸ばすロキ。でも今のロキは赤ちゃんなので、めいっぱい伸ばしたとしてもピーターには届かない。
何が気にかかるのだろうと思いながら、その赤ちゃんロキが伸ばした手にピーターが触れようとした。
「ダメだっ!」
突然ソーが叫び、ロキを抱き込みピーターから離れていく。穏やかな空気が一変、なんとも言えない気まずい雰囲気に。
「……あ、いや、違うんだ蜘蛛の少年」
「えっ、あ、うん、こっちこそごめんね、ソーに何も言わずにロキに触ろうとしちゃって」
「違うんだ、すまない急に大声を出して」
「……ソーがブラコンだとは前々から知ってたが、ここまで酷いとはな」
ウチの坊やをイジメるのはよしてくれとスタークが言うと、何やらソーも慌てて弁明をしだす。
「だから違うと言っているだろ、俺は蜘蛛の少年が怪我をするのを避けようとしてだな!」
「怪我って、どうやったらそのちみっこい青いのがピーターを傷つけるって言うんだ?」
みんなの呆れた眼差しを一身に受けたソーは、まあ見ていろと赤ちゃんロキちゃんの目の前で手のひらをひらひらさせた。
「あ!きゃーっ!」
ソーの手がひらひらするのが楽しいのか、赤ちゃんロキはその手に向かって腕を伸ばし、その親指をつかむと。
「おお、今日も元気だなロキ」
「……凍った?」
ロキに握られた親指はじわりじわりと青色に変わっていき、パキパキ、ピシッと音を立てて凍りつき始めた。親指を凍りつかせながら、ソーはロキのふくふくしたほっぺをくすぐる、ロキもくすぐったそうにきゃはきゃはと笑った。
「ロキはヨトゥンだから、触れたものを凍らせてしまうんだ、魔法使いにもロキを戻す方法だけでなく、この触れたものが凍りつく体質もどうにかならないか探してもらっているところだ」
手のひら全体を凍らせながら言うソーに、周囲もやや引いている。説明をするだけならば自分の手を凍らせる必要は無い。
「……いや、ちょっと待ってくれ、ならどうしてソーは全身凍ってないんだ?そのくるんでるタオルケットだって」
「このタオルケットは魔法使いに貰ったやつだ、こう、誰が触っても心地よくなるタオルケットらしい、まったく、このタオルケットが無かったと思うと……」
くたびれた調子でソーが聞いてもいないのに話し出す。曰く、タオルケットを手に入れる前は、ロキなんて泣き通しで、どんな毛布にくるんでも全てをパキパキに凍らせてしまって大変だったと、曰く、風邪をひいてはいけないと、なんとか赤ちゃん用のロンパースなんかをみつくろって着せようとしても、それはもう嫌がって嫌がって、しまいにソーの顔面に氷のつぶを当ててきたりなんかして、やはりロキだなぁと、こんなに赤ちゃんの時から魔力の使い方をわかっているんだなぁと、ソーは感心したとかなんとか。
「いや、そんな惚気話みたいなのは聞きたくないから」
「惚気話!?苦労話だろ!」
大人たちがやいのやいのと話している中、ピーターはロキから目が離せなかった。
なるほどタオルケット、これ越しならぱ大丈夫なのかと。
「ソー?僕もロキを撫でてみていい?タオルケット越しだけど」
「…………ロキに直接触れるなよ?」
「やった!」
ソーの見えないところでブラコン!ブラコン!と口パクをするスタークを後目に、ピーターはそっとタオルケット越しにロキを撫でる。大きくて丸い瞳がピーターを見上げ、ふにゃっと笑う。慎重に、どこか緊張して撫でてみて、ピーターはあることに気がつく、ロキはとても柔らかくて。
「……ひんやりしてるんだね」
「ヨトゥンだからな!」
ソーの言うヨトゥンが何なのかはわからないが、まるで氷を撫でているかと思うくらいには冷たかった。だけども氷というほど固くもなく、ふくふくほっぺは見た目と同じでとても柔らかい、これは氷なんかではなくもっと別の、柔らかくて冷たいもの。
「ロキってアイスクリームみたいだね」
「色味的にブルーハワイかしら」
「アイスクリーム?可愛いつららだろ?」
「今可愛いって言ったのか?」
ロキを囲んでピーターと大人たちは思うがままに話し出す、そんな賑やかな空間に咳払いがひとつ。その場に居た者達が振り返れば、そこにはしかめっ面のストレンジが。
「ソー、頼まれたものだが」
「おお!出来たのか!」
そうしてストレンジから何かを受け取るソー、その手の中にはシンプルな金のリングが。
「感謝するぞ魔法使い!」
「だから私は魔法使いではないと」
「その指輪は何だ?」
問われたストレンジが面倒くさそうに片眉を上げ、横目でソーを見やる。
「あー、俺が魔法使いに頼んでいた、ロキの凍りつかせる体質をどうにかするためのもの、だよな?」
「まあそんなところだ」
正確に説明するならば、とストレンジは言葉を続けたが、つまるところロキの魔力を封じる為の道具である。ヨトゥンの触れるものを凍りつかせる体質も、一種の魔力を使って瞬間的に触れたものの温度を奪い取ってうんぬんかんぬん。
スタークやバナーなどは興味深そうにストレンジの話を聞いているが、ソーは正直何を言っているのか興味がなかった。それよりもロキにこのリングをつけてやらねばならない。
そっと、ロキのその小さくてぷくぷくの腕を取り上げ、金のリングを近づけて。
「……赤ちゃんに指輪は、付けられないな?」
サイズが合わないことを確認した。
赤ちゃんの指にはあまりありすぎる金のリング、だからといって腕に付けられるほどの大きさもなく、さてどこに付けるべきかとソーが考えていると、ピーターが何かを思いつく。
「ロキの角に付けてみたらいいんじゃない?」
「おお、確かにちょうどハマりそうだな!」
「う?」
笑顔のソーとピーターを見上げるロキはきょとんとした表情。ソーの手の中にある金のリングが気になるのか、両腕を伸ばして掴もうとするが、ピーターにタオルケット越しだがそっとその腕を下ろされてしまう。
「ロキ、いい子だから大人しくしててね」
「ほら〜、じっとしててくれよ〜」
柔らかくロキの頭を抑えて、ゆっくりとリングをロキの小さい角に付けると。
「アアア!びゃあああ!」
「えっ!どうしようどうしようソー!」
「おお落ち着け、ほーらロキ、泣かないでくれ〜」
「わあああああ!」
火のついたようにロキが泣き出した。
「ああ、魔力が抑えられる感覚は不快感だから、赤ん坊ならば泣き出すかもしれないな」
「それを先に言ってくれ!」
「忘れていた」
「あいつ絶対嘘ついてるな、ワザと教えなかったに違いない」
「聞こえているぞトニースターク」
「そりゃあ失礼」
大人たちがやいのやいのと言い合っている中、ピーターはロキから目が離せなかった。
「ちょっと、ロキ!暴れないで!ねっ?いい子だから!」
「ピーター、そいつは元々悪い子だぞ」
「なんだと?ロキは悪い子なんかじゃない!」
「めんどくさい方が反応したぞ」
「やぶ蛇ね」
「ロキ落ち着いてーー!」
「びゃあああああ!!!」
阿鼻叫喚の大騒ぎの中うるさそうに顔を顰めたストレンジは、ロキを抱えて飛んだり跳ねたりとよく分からない行動をしているソーの所まで歩み寄る。ソーの腕の中には顔をくしゃくしゃにして全力で泣いているロキが。
アワアワとどうしようもなく動揺しているソーを後目に、ストレンジはロキの頭に手をかざす。
するとどうだろう。
「……これでしばらくは静かになるだろう」
「おお……」
さっきまで大きな声で泣いていたロキが、すやすやと安らかな寝息を立てて寝ているではないか。ぽろりと涙がひとつぶ最後に零れた後は、くったりと力を抜いて、ぐっすりと眠っている。
「また目覚めたらぐずるかもしれないが、その時はこの玩具であやしてやるといい、気を紛らわせるまじないがかけてある」
「素晴らしいじゃないか、優秀なベビーシッターになれるよ、魔法使いから転職してみたらいかがか」
「ありがとう魔法使い!あとロキを元に戻す方法も頼む!」
「………………私は戻ろう」
「頼んだからなーーーー!!!」
とんでもない渋面のまま戻っていったストレンジを、ソーも笑顔で送り出す。きっとすぐにロキを元に戻す方法を見つけてくれるハズだ。
そんな笑顔のソーの腕との中で眠る赤ちゃんロキ、ピーターはそんな赤ちゃんロキから目が離せなかった。
「ねえソー、僕もロキを抱っこしてみてもいい?」
「えっ」
「もう凍らせる心配もないんでしょ?僕も抱っこしてみたいくて……」
「いや、だが……」
「……ダメかな?」
「ダメ、ではないが、ロキは重いぞ?お前が思ってるよりも重いに違いない」
「とか言って、本当は弟クンを誰にも触れさせたくないんじゃないか?」
ブラコンだから、とからかわれたソー。違うと否定しながらも、どこかためらうようにロキをそっとピーターへと渡す。
「重いからな、人間の赤ん坊とは違うぞ」
「わかったよソー」
「手を離すからな、離すぞ?いいか?」
「いいよ」
「離すぞ?重いからな?」
「全然ロキを手放さないな」
「僕は大丈夫だから!絶対落とさないよ!」
「本当だな?」
ピーターに渡してからもモダモダとロキを手放さなかったソーも、どこか諦めるように、そっとロキから手を離す。
ピーターのその腕の中に、小さな小さな赤ちゃんロキが。
「う、わあ」
「……蜘蛛の少年、中々力があるな」
「そんなに言うほどロキは重いのか?」
周りの大人は疑うようにロキを抱くピーターを見る、そんな視線の中、ピーターも笑顔で答える。
「確かに赤ちゃんにしては重いかも、大人よりも重い気がするし」
「確か、魔法使いはロキが80キロもあるとか言っていたな」
「その見た目で!?」
見た目は至って普通の、ちょっと角が生えてて青くて触れるもの皆凍らせる、普通の赤ちゃんだが、その質量は重かった。
「でも可愛いよ……」
「うむ」
「その"お前見る目あるな"みたいな顔やめてくれないか?坊やも、いくら赤ん坊とはいえ元はあのロキだぞ」
「でもこんなに柔らかくて冷たいのに!」
「夏場にぴったりだな」
「あのロキとはなんだ、あのロキとは!」
「まためんどくさいのが反応したぞ」
「ロキの行ったことは善い行いばかりではなかったが、俺の弟だぞ!」
「むしろ悪いことばっかりやってた気がするけど」
「中身はともかく見た目はずっと可愛いだろうが!」
「だからそう見えてるのはお前だけだって」
「身内の欲目もここまで来るならすごいわね」
大人たちがやいのやいのと話している中、ピーターは腕の中のロキから目が離せなかった。ほっぺたなんかをこしょこしょくすぐれば、小さく声を上げてむずがる。
「……可愛いね」
だがここに居る誰もが、この後どんな目にあうのか知らないのだ。ここにベビー用品がほとんど無いことや、ロキが朝から何も口にしていないこと、ヨトゥンの赤ちゃんに人間用のミルクを飲ませて果たして大丈夫なのかも。空腹で目覚めた赤ちゃんロキが、今度はリングを付けた時とは比にならないくらい全身で暴れて泣くことを。
「あっ、今寝言言ったのかな?どんな夢を見てるんだろう」
ロキの可愛い小さなつららちゃんな寝顔が見られるのも、もってあと数十分なことも。
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ななし@0f1fb4
雪見だいふく!
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sara
ヨトゥンベイビーめちゃくちゃ可愛いです💕
99:22
NIKI
ありがとうございます😂
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アカチャン!ロキチャン!
初公開日: 2020年08月05日
最終更新日: 2020年08月05日
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ばーぶー、2歳児になったロキてゃのお話(アスガルド換算なのでまだまだアカチャン!)
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