雨が降りそうだな、と思った切原は、空気の匂いを嗅ぐついでに、すんと音を立てて鼻で息を吸った。会話の少なかった空間をごまかすように、夜の住宅街にその音は思っていたより鋭く響いた。
隣を歩く柳にとっては後輩、切原にとっては同じ部の友人だったかれの、見たことのないはにかんだ表情が、切原の脳裏に部屋に貼ったポスターのように残っている。自分の部屋にあっても、どこか異質なもの。
「アイツの嫁さん、めっちゃカワイくなかったっスか!? 本職料理人さんだって!! メシめっちゃ上手いんだろうなー」
柳の表情をどうにか変えようと、切原は声を張る。当然柳は切原の期待を裏切って、もしくは予想通りに、顔色も足取りも変えぬまま切原の横を歩く。
「料理の腕は無論文句なしだろうが、それが家庭でどれだけ味わえるかは微妙なところだな。料理を生業としている者は、案外家で料理をしないと聞く」
「え? そなの?」
「結婚した姉から聞いた話だがな。夫がカフェで働いているんだが
短いけどこのへんで今日はおしまい!