プロローグ
『Blue jewel of the desert』
――砂漠の青い宝石――
ある者は畏敬の念を込めて、ある者はその町の見た目から、ある者は野心を込めて。
砂漠に住む民とその周辺の国からそう呼ばれている小国があった。
 一面の砂の海。行けども行けども焼けた砂と照りつける太陽の光、砂の黄土色と空の薄い青。その二色の光景が見渡す限り地平線の向こうまで続く。そして時折その黄土色と青の間を熱砂を含んだ風が通り抜ける。
ヒジャブ[頭や身体、顔を覆う布]で顔や全身を覆っていなければあっと言う間にイカロスの羽を溶かすが如く全身を太陽で焼かれ、口は黄砂でいっぱいになってしまう。慣れた者と一緒でなければ砂漠の始まりから駱駝(らくだ)で七日のその国に辿り付くのは難しい。
来る者を拒むような地の利と、まるでその国にあつらえたように隣接するオアシスのおかげでその青の国は長く独立国としてひっそりとそこに存(あ)った。
そしてその国の王は代々賢帝で周辺国と付かず離れず上手く外交をまわす手腕に長けていた。また、国に隣接するオアシスの底からしか採ることができない「アズラク」というブルーサファイアと国に伝わる伝統的な織物の交易で砂漠の真ん中にありながらその青の国を目指す者は観光なり、商人なり後を断たなかった。
 なぜ砂漠の真ん中にありながら「青の国」なのか。
 それは永遠に続くかと思われた砂漠の黄土色の世界に突然現れたその国自体がオアシスであるという例えでもあるし、何よりその町の概観に理由があった。
 青の国の建物は通りから各家、王宮も、国の城壁にいたるまで全てが青色をしているのだ。……と言っても土壁に特殊な青色の土を混ぜて作っているので、濃い青色ではなく、まるで砂漠の空のような澄み渡った水色の建物が立ち並んでいる。
 その統一感の取れた景色は訪れる者の目を楽しませてくれ、街の平和で活気がある雰囲気は七日間砂漠を渡ってでもこの場所に来たいと思わせるのに十分だった。
 なのでその国は『青の国』であると同時に『砂漠の青い宝石』とも呼ばれていた。
 それは文字通り宝石のように美しい国であるという喩えだったのだが、近年その『砂漠の青い宝石』という二つ名にさらに意味が加わった。
 今、青の国には王子はおらず、一人娘ーー王女しか居ない。その王女が大層美しいと言うのだ。もともと周辺国に青の国を狙う者は多く、婚姻となれば極めて平和的に青の国を手に入れることができる。また、美しいと噂になるほどの王女であれば求婚の申し出は引きも切らずだった。
 ……が、これまた噂なのだが、美しいと評判にはなる者の、求婚者の中に彼女の姿を実際にしっかり見た者は居ないのだ。ある時は会えもせずに引き返すことになったり、会えたとしてもヴェール越しでシルエットだけだったりと実態が見えてこない。それでも「瞳が吸い込まれそうに美しい」とか「声が鈴を転がすようだ」とかまことしやかに囁かれているのが余計にその神秘性に拍車をかけていた。
 そしてその国にその王女との婚姻を取り持つべく一人の男が訪れた。
 名をカイトと言う。
・・・ちょっとここまで。
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