天道崩子の朝は、とにかく遅い。
それは先天的な低血圧の所為もあったが、そんな使い古された言い訳のような理由はあってないようなもので、その実、崩子は日々夜通し乱痴気騒ぎに精を出し、月は太陽、そして太陽は月、あるいは、昼は夜、夜は昼、といった見事な昼夜逆転の生活をほぼ二年以上繰り返しており、自堕落を通りこした末に、最早大罪すらも嘲笑うような、人としてあるまじき習性のもと、今日もその醜態を晴天の空に晒し続けている。
極めて貞淑なプリンセスが這入るような、天蓋付きの豪奢なシルクのベッドに崩子は眠っていたが、彼女の性質を知る稀有な者たちからすれば、そのアンマッチな光景に酷く憂鬱な気分になっていたかもしれないし、実際のところ、プリンセスだったら布団に波一つたてずに粛々と眠っているだろうが、かくも崩子の様子といえば、掛け布団をぐちゃぐちゃに丸めて抱き枕にしており、マットを包んでいたシルクのシーツは往年の婆の如く皺くちゃな有様で、ふかふかとしためいいっぱいに羽毛が詰まった枕は涎できらきらしていて、本来あった筈の高級感が根こそぎ消えうせていて、ベッドを覆っている白の透明な蚊帳にいたっては、一側面が半ば程で千切れている。
一体全体、どうしてそうなったのかは本人ですら分からないことだった。大方酒を飲んで帰ってきた時にでも引っかけたのだろう、崩子としては寝れたらそれでよかったし、これは既に半年もの間そのままにされていた。今日という特別な日を迎えることがなければ、まだまだ、当分はこのままだったかもしれない。とはいえそんな危惧も終わるようだった。
丁度、正午を過ぎた頃、崩子は大口を開けて欠伸を吐き出しながら、その破れた蚊帳の面から芋虫のように這いだしてきて、のそり、のそりと、そのまま絨毯の上を進み、部屋の中央辺りで重い腰を起こすと、ゆっくりと、羽化するかのように立ち上がった。
否、悪魔の起床である。
「クソが。頭が痛え」
崩子は眉間を揉みしだきながら、洗面所に向かった。