サルディニアは足音を立てぬよう寝室へと引き返し、ドアノブを下げつつ扉を閉めた。赤い髪の姫は布団に潜ってはいるものの、空中で指先を泳がせ、天蓋の皺を目で追い睡魔を誘っているようだった。
「まだ寝ていなかったのかい」
「……昔から、ある時ふと眠れなくなるんだ」
 ベッドに腰掛けて、長い髪を梳いた。一息、サルディニアを映した瞳は伏せがちとなるが再び天蓋へと視線を返す。
「血生臭かったあの日を夢に見て、嫌でも思い出してしまう」
 エリンの瞳は、鮮血にも似た色彩を放つ。そして、貼り付けられた笑顔の奥に潜んだ真意を汲み取ることは容易ではなかった。どんな事にも簡単には物怖じしないたちの俺も、視線が火花を散らしたとき、背筋に刺すような寒さを感じ取ったことがある。
「俺が全部忘れさせてやる」
 空中で迷っていたエリンの手のひらを捕まえ、手のひらを擦り合わせて指の隙間を縫った。緊張の走った指先も、次第に絆され手の筋を指先でなぞる。
「王様はいつもそう」
 エリンは呆れたような顔をするくせに、拒むことはない。されるがままの姿勢をいいことに、握り返された手をシーツに沈ませて唇に触れた。
 やけに冷えた唇は、なんの迷いもなくサルディニアを受け入れた。触れては離れてを繰り返すうちに生温くなって、下唇へとかすめた舌先を絡め取る。
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