ひいふうみいよお。思ったよりたくさん集まった肉の塊ににんまりと少女は笑った。でも足りない。まだ足りない。もっともっと欲しいなと、冷凍庫にそれを詰め込んだ。
「広斗くん!」
「おう、って、何してんだお前」
「ん?いや何でもないよ。それよりほら、早く外いこ」
冷蔵庫って素敵だ。色んなものを取っておける。今まで料理とかしてこなかったけどようやく活用できたから捨てたもんじゃない。一人暮らしもとい二人暮らしのそれにはたっぷりの愛が詰まっている。うんうん、よかった。
昔の好きなひとが言っていた。皮を剥げばただの肉の塊だって台詞の意味が漸く分かった。ありがとう中堂さん。おかげで私今、すっごく楽しいよ。電車で景色を見ながら過去を振り返る。隣に座っている広斗くんは寝ていて、なんだかすごく気分がいい。このまま止まっちゃえばいいのになあ。ずっとずっと止まればいいのになあ。春にぴったりのあったかいお日様が窓から差し込んだ。ああ、今、すっごくしあわ、
「ねえ、あの人格好良くない?」
せじゃ、なくなった。
「ああ駄目だよ暴れちゃいたいって。ほら大人しくして?」
「んん、ん!!っ、んんんんん”!!!!」
「んーちょっと今日のお魚は粋が良すぎるなあ。もう少しなんだけど」
腕の関節の弱い所にのこぎりをおいて、ぎいと引く。引いて、押して、引いて、押して。が、っと引っかかった白い塊に少女は息をはいた。
「ふう、ほらもうちょっとだよ。半分まで来たからね」
ぎち、ぎ、ぎこ、ぎ、ぎぎ、ぎい、ごとん。肉の塊が赤に沈んだ。お魚はもう息をしてなかった。魚は陸では暮らせないんだっけか。まな板の上で騒ぐくらいなら普段から気を付けていればよかったものを。自分から網にかかったのは君でしょう?全く、困ったものだ。
広斗くんはとても格好いい人だ。すごくわかる。だって私の好きなひとだから。でも私の好きなひとだから、広斗くんの格好いいは私の物だ。キャーキャー騒ぐ女の人は嫌い。私の「格好いい」を泥棒するから。広斗くんの邪魔をする人も、お話する人も、全部全部全部嫌い。そんな人いなくなっちゃえばいいのに。ああ、今私すっごく幸せだ。
目の前に転がる肉の塊をくるんで、冷蔵庫の中にしまった。凄いなあ中堂さんは。あの人は天才だ。広斗くんの邪魔をした人、広斗くんとお話した人、それから格好いいを泥棒した人全部いなくなった。代わりに肉の塊が沢山出来た。赤い積み木がお行儀よく並んでる。
「何だよそれ」
ドアに立ったまま広斗くんが言った。なんだ、起きてたのか。びっくりするなあ。
「何って、お肉だよ?あんまり美味しくなさそうだったから捨てちゃうけど。あ、もしかして勿体ないお化け信じてる?ええ、そしたら豚さんとかに寄付しようか?」
「なあ、それ。…お前が殺したのか?誰だよ」
「さあ?流石に名前は覚えてないかな。多分メスのが多かったと思うけど」
ドラマみたいな展開だなと思いながら素直に答える。