適当に書いていく
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「愛されたいなら、それ相応の対価は必要だと思いませんか?」
自由に使えるお金が少ないからと、私はモストロラウンジで働いていた。オクタヴィネル寮は対価さえ払えば対等に接してくれる。私は労働という対価を払い、お金を頂く。モストロラウンジは寮長のアズールの手腕もあり今日も大盛況だった。そうして閉店時間になって片付けをしていた時にふと、近くにいた彼はそう口にした。
「……なにを、言っているんですか」
「……さあ、何でしょうねえ」
カチャン、とお皿を置いて振り向くとジェイドはそう口にする。彼とはあまり会話をしない。フロイドの方がむだ顔に出るから色々とやりやすいのだが、彼は本当に表情が読めないからだ。
それに、最近学園に現れたオンボロ寮の監督生とは違い私は―――…
「今日は顔色が悪いようですし、早めに上がったらどうですか?」
「気遣ってくれてありがとう、ここまでは終わらせるから」
「――そうですか」
私は、女なのだから。
別に特段大した理由があるわけじゃない、男装して卒業しないと家から追い出されるとか、家訓がどうとかそんなもんじゃない。ただ、都合が良かった。
二番目として生まれた私は自由を与えられた。兄や姉のように目標があって生きている訳ではなく、ただ好きなようにしなさい、と言われて育ったお陰で私はのびのびと生きてきた。それはある意味とても楽だと思われるだろうが、逆に言えば何にも期待されず、見て欲しくても両親の目は兄と姉、末の子達に向けられて私はいつだってぽつねんと立ち尽くすばかりだ。
だから、ちょっとした反抗心のつもりだったのかもしれない。長かった髪を切って、男みたいな格好をして、口調を男らしくして……ナイトレイヴンカレッジの黒い馬車が迎えに来た時、天啓だと思った。
両親はその時はじめて、私に「凄い」と声をかけた。兄や姉たちは「女の子が行く場所ではない」と忠告してくれたけれど、私は行くつもりしか無かった。魔法も使えない訳じゃない、そこそこ使えるし劣等生にはならないだろう。
そこそこ出来て、そこそこ自由で、根無し草のような私でも呼んでくれる場所があるなら行きたいと思った。案の定、初めは男ばかりで少しだけ怖かったけれど持ち込んだ魔法薬を飲んで、私はうまく溶け込んでいった。
一年目は上手くできた、でも二年になってとんでもない事が起きた。魔法が使えない女の子が学園に入ってきた。狸みたいな魔獣を従えて。
魔獣使いなのかな、と思ったが別段そういう訳ではなく……本当に一般人らしい。まあ、私には関係ないけど。
関係ないと思っていたんだけど、状況は少し変わった。
私はお小遣いの為にモストロラウンジでバイトをしている。だが、アズールがイソギンチャクを使って沢山の従業員を確保したせいでシフトが減ってしまったのだ。これは一大事、とんでもない。急を要する訳では無いが収入が減るのはあまり嬉しくはない。
働く事はそこそこ楽しかった。自由にフラフラ生きていた私にとって誰かの下について、働いて、正当な報酬を受けることはとても新鮮な事だった。仕事が終わってラギーと余り物でちょっとまかないを食べたり、新商品の開発を手伝ったり、それは今までの私には無い新たな楽しみだったからだ。だから、あまり増えすぎるのは困る……と思っていたら、色々あってアズールがおぎゃった。
『お前の能力も渡しなさい……!』
『アズール、やめ……ッッ!!』
オーバーブロットしたアズールの魔法が、丁度オクタヴィネル寮にやってきた私に直撃した。お陰で自身にかけていた魔法薬は大丈夫だっただろうが幻惑の魔法が溶けてしまっ……た、気がしたんだけど気を失ったせいであまり覚えていない。
気がついたら自室で寝かされていた、アズールには後から「すまなかった」と謝罪をしてもらったのだけれども誰が運んでくれたのかと聞けば……アズール自身も色々とゴタゴタしていたせいであまり覚えていない、とのこと。
まあ、細かいことを考えるのはよそう。とりあえず私の幻惑魔法は戻ってきたし、魔法薬のストックは沢山ある。クルーウェル先生のお手伝いをする代わりにちょこちょこ魔法薬学の部屋を貸してもらっているからね。
それからというもの、イソギンチャクは減っていつものモストロラウンジが帰ってきた。それならもういいや、といつもの様に私は仕事に励んでいたのだが……最近、こうしてジェイドがよく声をかけてくるようになった。
ジェイドの事は嫌いではない、というかよく分からない。アズールは同じクラスだから話をするし、モストロラウンジで働かせてもらう時に色々と相談に乗ってもらったりもした。さりげなく取引もしてたりしたんだけど、契約書がなくなってしまったから再度契約を持ちかけたらびっくりした顔をされたっけな、可愛いヤツめ。
話は逸れたが、そんなこんなでアズールとは仲がいい……と、勝手に思っている。だけどジェイドはやっぱり接点が少ないのだ、モストロラウンジで仕事をする時くらいしか話をしない。それに……どちらかと言えば、まだラギーとの方が喋っている気もするし。
だから、こうして急に話をされると困ってしまう。小さく息を吐いて、最後の皿を拭き終わって戸棚に片付ければ向こうでテーブルを拭いていたジェイドは「お疲れ様でした」と声をかけてきた。
「明日の朝の仕込みは僕がやりますよ」
「えっ?」
「……僕が、やりますので」
笑顔で全てを封殺し、ジェイドはそう口にする。何が何だかさっぱり分からない……まあ、それなら良いけど、と口にして私は腰に巻いていたエプロンを外した。しゅるり、と紐を解いて折り畳み借りているロッカーに入れようと歩き出したその時―――…
――カクッ
「えっ」
急に足の力が抜けて、がくんとその場に膝を……着く前に首根っこを掴まれてぶらんと空中に浮く。それにも驚いたが、足の力が抜けてしまったことの方が重要だった。
「……ほら、言ったでしょう?」
「なんで……?」
「薬を常用していたせいでしょう、あの薬は長期服薬で副作用を発症すると調べましたから」
その言葉に、私はぐるりと振り向いてジェイドを見た。ジェイドは相変わらず何を考えているか分からない顔をしながら私を見つめている。
「――このままじゃ、帰れないですねえ」
ニィ、と口の端を吊り上がらせ特徴的な彼の歯が見える。まるで捕食されるかのような感覚に思わずびくりと震えれば、彼はひょいと私を抱えあげるとその腕に抱き直した。
「……は?」
「送りますよ」
「何を企んで」
「……ふふ、対価は頂きますよ」
やっべ地雷踏んだ。
だが、私が思っていたよりもジェイドは親切に私の寮へと連れていき、そのまま私が言う前に私の部屋へと勝手に辿り着いた。そして私をベッドに座らせると、ポケットの中から小さなキャンディをくれた。
「その魔法薬、見覚えがありましてね。一日二日程度飲まなければ直ぐに足は元通りになりますよ。……あぁ、勿論動きは悪いですが少し休めば動く事は出来るでしょう。とりあえずはこれを、そして口直しに飴を」
「いやいやちょっと待って、待って!」
飴を受け取って、私は彼の顔を見る。何を考えているのか分からない彼の瞳は、真っ直ぐに私を見下ろしていた。
「……この魔法薬は、私が独自に作ったやつだ」
「ほう?」
「だから、長期服薬に対する副作用も私はまだ知らなかった。どうしてジェイドがそれを知ってるんだ」
分からないことはまだ山のようにある。どうして私の部屋を知っているのかとか、魔法薬のことを知っていたこと、それに……
「対価、って何」
私の言葉に、ジェイドはニタリと笑みを深めた。そうして、私の頬に手を伸ばすと唇に人差し指を置く。
「大切なものには、鍵をかけておくべきだと思いませんか?」
「……え、っ」
「いずれ教えて差し上げますよ、先ずは身体を治してからですね」
――その幻惑魔法、解けかけてますよ。
なんて爆弾を置いていきながらジェイドは私の頭にポン、と手を置くと部屋からさっさと出ていった。待って、幻惑魔法もバレてる?どういう事なの……?
「……なん、で」
何を考えてるか分からない男なのに、弱みを握ったらそれをだしに色々してきそうだとか勝手に思っていたのに、どうしてこんなに優しいのか……理由が全く分からない。
だけど、唯一わかることは。
「……顔の熱、全然引かないし……」
あんな優しい目をするなんて、知らなかった。
ベッドに仰向けに倒れ込みながら、私は今後の学園生活をどうするべきか……彼から色々聞かなければいけない事が多いな、と思いながらも現実逃避をするように目を閉じるのだった。
多分続く
お付き合いくださってありがとでしたヾ('ω'⊂ )))Σ≡サラバ!!