オーダーメイド
昨今のはやりらしいクラウドファウンティングにまさか自分たちも巻き込まれるとは思ってもみなかったが、そこでやれと言われたらやるしかない。
だがやっぱりどうしたものか?と腕を組んで考え、ちらりと横に座る紬を覗き込めば、やっぱり同じように眉間に浅く皺を掘って考え込んでいた。
「どうしようか」
紬が言う。
「仲直りのエチュードだよね?ああでも、仲直りまでしちゃいけないんだっけ?」
「ああ。仲直り寸前で終わる。てのが条件だ」
丞がソファーの上に置いたままにしてあった紙を見ながらそういえば、難しいなあと紬はやっぱり首をひねるのである。
MANKAIカンパニーが先日から試験的に初めて見たクラウドファウンティングの企画は、当初考えていたよりも反響があった。
目的としては劇団のファンイベントでいつもより大きな会場を借りて、少しだけ規模の大きい宣伝をするための費用としてある程度の目標金額を定めて募集したところ、開始して三日もたたないうちに一番金額の高いリターンまで売り切れてしまい、目標金額を易々と越えてしまっていたのである。
これには企画を進めた監督や左京も驚き、ちょっとこのあたりで止めた方がいいんじゃないか?という話をしたのが今日の昼頃の話である。
さて、その金額の大きいリターンというのが支援者が選んだ団員同士のエチュードをある程度指定したお題でやってもらえるという特典であった。
春組コースから冬組コースがあり、丞と紬はその冬組コースを支援する支援者から指名を受けていたのである。
だいたい5分程度の芝居で、支援者から送られてきたテーマは「仲直りの手前」というものだった。
仲直りの手前?と冬組のメンバーでそのテーマを囲んだときに皆一様に首を傾げたが、まあこういうのは特に二人が適任だろうとほとんど投げられてしまったばかりである。
それはまあ、喧嘩も仲直りも数え切れないほどしてきたけどね...?と紬が丞をちらりと見れば、丞はまあなと少し面白くなさそうに返事をする。
テーマをもらってから204号室に戻った二人は、それからずっと頭を悩まし、この言葉に秘められてた意味を見つけ出そうとしている。
テーマを出した支援者は自分たちが長く一緒にいることを知っている。
だから自分たちに仲直りにまつわるテーマを寄越したのか?
しかしそれだけかと言われれば、それだけでもない気がしてならない。
「これってさ、仲直りがテーマだけど俺たちが仲直りしちゃだめなんだよね?」
「さっきもそれ言っただろ」
「うん。だから結果的に仲直り出来るかどうかは見ている人に委ねられるってことなのかなあって」
「…なるほど」
そういうテーマかもしれないのか。と丞は紬の言葉に頷いた。
芝居の中で二人は喧嘩した親友同士を演じ、そして仲直りに向かうところまで導いていってその結果は観客の判断に任せなければならない。要は仲直りを最後まで演じずに終わらせる。ということだ。
「果たして二人は仲直りできたのか?それはあなたの想像の中で…って感じかな」
「そうだな…なかなか面白いが、難しいぞ」
丞の言うように、きちんとわかりやすい落ちではない終わり方をしなければならないものだから、その。
さじ加減が難しい下手に尻切れのように見えてもいけない。
物語としての終わりはしっかりと見せつつ、見ている側にしっかりと結末をバトンタッチしなければならないのだ。
「なんでこんなテーマなんだろうね?俺としては試されてる感じもしてちょっとわくわくするんだけど多分そういうのじゃないんだろうね」
「俺もそう思う。なんだろうな、たとえば…」
この支援者には本当に仲直りしたい相手がいるんじゃないか?と丞は言った。
「え?」
「だから芝居で途中まで俺たちに仲直りをさせて、後は自分の仲直りに繋げたいだとか…」
「そうか…なんかそんな気がしてきた」
「飽くまで俺も気がするだけだからな」
「うん、でもそう考えるとちょっと演じやすくなった気もする」
そう思わない?と紬が言えば、確かにな。と丞は頷いた。
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