騎士様がいつか僕を助けに来てくれる。こんな苦しい世界でも騎士様は僕の世界を照らしてくれる光なんだ。
絵本の中の騎士様に憧れて焦がれて極限の中を生きてきた。僕は何度だって死ねるし、そもそも自分の状況は真っ当に生きているわけでもない。
他人の苦痛に歪む顔や悲しみに染まった悲鳴、圧倒的に敵わないことへの畏怖。追い詰められ崩壊していく精神。人の不幸は蜜の味、そんなことを賢者様が言ってたっけ?意味は分からないけど賢者様のいた世界の言葉なんだって。
「オーエン!どこにいったんだよ!」
ああ、騎士様が僕を呼んでる。僕よりうんと弱いくせに、人を守ろうとする哀れな騎士様。幼い頃憧れて焦がれてやまなかった存在。
「なぁに?うるさいなぁ。僕に用でもあるの?」
そう言って隠れていた茂みから身を出すと、思ったよりも近い場所に己の片目と同じ色の瞳が視界に映る。
「え?」「あ!」ゴツン!!鈍い音と共に額に痛みが走る。
「痛い…!」
「オーエン!そこにいたのか!賢者様が呼んでる…ってどうした?うずくまって具合でも悪いのか?」
ダメージをくらっている僕とは対照的にけろりとしているカイン。
「おかしいと思うんだけど…」
「大丈夫か…?医務室に連れていくか…?」
小声でぶつぶつなんか言っているようだが何を言っているのか聞き取れない。
立ち上がれるようになるまで数分を要した。
「痛かった…で…用あるのないの?ないなら痛みの分償ってもらうけど」
「大丈夫そうだな…。賢者様が呼んでるって伝えたかったんだ。もし傷の影響が出ていたら一番俺が適任だからな、杞憂だったようだけど…」
「ふぅん。大した用じゃないじゃん、僕が素直に呼ばれていくと思ってるの?やっぱり痛い目にあいたいの?」痛みの成果いら立ちが募る。
「待ってくれ…!賢者様が『美味しいわっふる』というものをネロと一緒に作ったから食べにこないかって…」
「行く」
甘いものがあるなら話は別。すぐにでも行かないと。そう思って一歩を踏み出したが、予想以上に体はダメージをくらっていたようでふらついてしまう。
「おっと…大丈夫じゃなさそうか…仕方ないな…賢者様に連れてくるように頼まれているし…よっと」
「え…ちょっと何するの」
体を支えられてそれだけでも驚いたのに、次の瞬間には自分の足は地を離れ宙に浮いていた。
「じゃ、行くぞ」
「……」驚きのあまり声も出なかった。歩けないのは事実だし運んでもらうのは楽。
「お前軽いな、ちゃんと食べてるのか?」
「~~~ッツ!自分で歩けるから」何故だか無性に腹が立った。
「オーエン!来てくれたんですね!これです。ワッフルです。甘くておいしいですよ」
「甘ったるそうだね。残ってるの全部ちょうだい」
「待てよ!オーエン!大丈夫なのか?」
「騎士様の分はないよ、僕が全部食べるから」
「それは…別にいいが…本当に体調は大丈夫なんだよな?」
この騎士様はどこまでお人よしなんだかそんなんだから僕に片目を取られたんだよ。もう一生返してあげるつもりはないんだけどね。
ふふ、これ甘くておいしい。
「騎士様!これおいしいよ!いっしょにたべてくれますか?」
「ああ…いいよ…やっぱりいつまで経ってもこのオーエンには慣れないな…」
「うれしいな」ニコニコ
仲良くワッフルを分け合って食べるカインとオーエンの姿があったとかなかったとか…