「参ったな……」
会議が終わった後、会場を出たところで持病の腹痛が襲ってきてしまった。最近気温が安定していたから普段より薄着にしてしまった事が失敗だった。今日に限って気温は低く、それが原因で体が冷えてしまったようだ。
「(とりあえず何処かで休んでいれば治まるかな……)」
壁にもたれかかり何処か座れる場所を探す。今日の会場は慣れていない場所だから何処にあったかな……
「依留さん?」
突然背後から自分の名前を呼ばれる。振り返ると暖かな太陽のオーラを纏う男の子がこちらを不思議そうに見つめている。どうしてか彼の顔を見たら少し痛みが和らいだ。
「護くん」
「顔色悪いっすよ?大丈夫ですか?」
「ちょっとね……腹痛持ちだから寒い日はよく痛くなっちゃって……。少し休めば治るから」
「あっちにベンチがありましたからそこまで付いていきますよ!」
答えるよりも先に彼は背中に手を回して俺を先導していった。自然と純粋な気持ちでこうして誰かを助ける所が護くんの魅力だ。纏うオーラも濁りがなく原色を放っている。
手頃なベンチを見つけて二人して腰かける。座れば少しは治るのも早いだろうと腹部を優しく摩った。それを見てだろうか、隣に腰かけると思っていた護くんがベースボールシャツを脱いで俺に羽織らせてきた。さっきまで纏っていた彼の体温が俺の冷えた体を包んで安心感が生まれる。
「護くん、寒くないの?」
「俺は大丈夫っす。万年半袖で過ごしてるんで」
代謝高くて羨ましいなと思いつつ、隣に腰かけてきた護くんが摩っていた俺の手に暖かな掌を重ねてきた。
「え?」
それが自然な動きすぎて思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。護くんもきょとんとしていたが俺が目線を重なった手に移すと気づいたようで、いつかみたくカアーッと真っ赤になっていく。
「すんません!チビた、弟と妹がよく腹痛いって言うとこうやっててつい癖で……!」
離そうとする護くんの手をきゅっと握ると今度は護くんが素っ頓狂な声を出した。
「依留、さん……?」
「カイロみたいで温かい。もう少しこうしてて欲しいな、護お兄ちゃん」
揶揄いを込めた言い方しか出来なかった事を後悔しつつ顔をみやると、護くんは照れつつも俺が嫌がらなかった事に安心しているようだ。
そうして暫く静かに、護くんの掌の温度を感じながら時間が過ぎていった。
二人の呼吸音だけが聞こえる。そんな中でも護くんのオーラはころころと変わっていって飽きが来ない。
優しさ、保護のピンク。癒しの緑。想い、活力のオレンジ。濁りのない原色のオーラが色を変えていく。俺が見つめているとふと目があった。その瞬間に幸福の黄色が彼の内から溢れていくのが見えていく。きっと俺も同じ状態になっているのだろう。胸の内からあふれるこの暖かな感情に体温も自然と上がっていく。
ポケットの中でスマホが振動する。取り出して見るとずみ君からのメッセだ。
『どこいるのー?』
そう言えば随分と時間が経ってしまっていた。腹痛も気づいたら治り、握っていた手も汗ばんでしまっていた。そろそろこの穏やかな時間も終わりだ。
「……ごめんね、皆探してるみたい。もう行かなくちゃ」
名残惜しく手を離し、立ち上がって羽織っていたシャツを護くんに返す。
「またね」
あの夜から頻繁にやり取りをしているが、こうして顔を合わせての会話は滅多にない。こうして護くんの声を聞くだけで体調も良くなってしまう。彼の純真であり不思議な魅力に日に日に夢中になっているなと自覚してきている。今度はいつ会えるだろう。
「あの!」
ベンチから数歩歩いた時、後ろから護くんの戸惑いながらはっきりとした声が響く。
「今度通話しても、良いですか?」
振り返ると今度は弱弱しい声で伏し目がちに俺に問いかける。
「うん。待ってるよ」
思わず顔が綻んだ。今夜のやり取りが楽しみだ。